奇妙な出会い翼編4
…そして、それから約1年が過ぎた。
翼は駆の所に行って、用を済ませて来た所だった。
研究所の敷地を、翼は1人考え事をしながら歩いていた。直ぐ側には研究所を囲う高く厚い、塀がそびえていた。
「…このまま正面に回ってたら、時間が掛かり過ぎるよな…これは、行くしかないか…」
塀の外からは誰かの声が、微かに聞こえてきた。
そして、次の瞬間…
遥か高い空から、人間が舞い降りてきた。
翼は一瞬、天使の姿を見たかの様に錯覚をした。
太陽の光を帯びてキラキラ輝く髪の毛。そして白と青を基調とした、制服姿。
そして、その…少女は着地に失敗して翼の目のまん前で地面に倒れ込んだ。
…それから、少しの間沈黙が続いた。
だが、それから直ぐに、目の前に突っ伏していた少女は、ガバッと勢い良く起き上がると、翼の顔をジトっと睨み付けてきた。
その顔は真昼の太陽の光を浴びて、とても神秘的で綺麗だった。
「…ちょっと、そこのアンタ」
少女は翼を睨み付けながら、ズズいと顔を、翼の目の前に近付けてきた。
「な.ん.で.そこで避けるんだよ」
「……は?」
翼は一瞬、何の事かと思い不思議そうな顔をした。
「アンタが避けたから、アタシがこんな事になったって言ってるんだよ」
銀髪の少女は眉毛を釣り上げて目を細めながら、翼をにらみ続けてきた。
「…いや。普通は避けるだろ」
翼ははぁ?と溜め息混じりにポツリとそう答える。
だが…この状況は翼には不味かった。
結城博士からは、さっき話した内容、そして俺が国帝研究所に出入りしていると言う事実を、他人には知られない様に…と言われていた矢先の出来事だった。
(これは困るな…)
翼は一瞬、頭をフルに回転させこの場を何とかやり過ごす方法を考えた。
「お前には関係ない話だけどな…こっちにも都合ってものがあるんでね!」
「は?何意味分からないこと…
少女がそう言葉を発した瞬間。
翼は黒いブレザーのポケットから小さな小瓶を取り出して、地面に投げつけた。
「パリン!」
地面に落ちた衝撃で割れた小瓶から、真っ白い煙が一瞬で周りを覆い尽くした。
「何だコレ?」
少女は一瞬で視界不良となり、周りを見回した。
「…うっ!ゴホゴホっ!」
煙を肺深くまで吸い込んでしまい、思わず咳き込んでいた。身体から段々と力が抜けていく。
手足は動かそうにも激しい痺れが来て、もはや立っている事も出来なくなった。少女は膝から崩れ落ちるとその場に倒れ込んでいった…
その頃、翼は研究所の敷地内から抜け出して来て、直ぐ目の前の大通りに抜け出て来ていた。
「アイツには悪い事したけど…まぁ仕方無いな…」
翼はホッと溜め息を漏らした。
(あの煙は、一時的に身体的ダメージがあるが、これで俺の事は誤魔化せた筈だ…)
…しかし…
あの高い塀を超えて来たり、言動の端々に女子らしからぬ所はあったが…
「……綺麗な顔してたな……」
翼は先程の少女の事を思い返していた。
そして、気付くと口からそんな言葉を漏らしていた。
「さて、と。これからバイトにでも行くか」
翼は大通りの歩道を、バイトをしている喫茶店「ブルームーン」の在る方角に向かって歩き出した。




