↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

「棚ぼた式の幸運」~クリスマスイブに~

作者: 杉町猶太
掲載日:2016/12/24

クリスマスイブの夜、人は様々な夢を見る。そこには様々なドラマがある。そして、その中には、こちらの望んでいたものとは、やや違ったものも含まれていることもある。今回は、クリスマスイブに、思わぬ体験をした男の不思議な話。

 「どうやら、今日は棚ぼた式の幸運に恵まれているようですね」そう言って、女は数分ほど、見つめていた手の平から視線を私の顔に向けて、口調をやや穏やかに保ちながら話した。「そうですね。恐らく、今日中に、何か良いことがあると思います。例えば・・・」

「例えば?」やや弾んだ声で私は聞き返した。

 「そうですね。例えば、あなたがお金に困っていたなら、臨時収入が入ってくるとか。他には、例えば、恋愛面で好いことが起こるとか。そうですねえ。あなたが独身なら一生を通して愛し合える人と出会えるとか。既に、恋人や奥さんが居られるなら、今以上に深く愛し合える仲になるとか・・・他にもいろいろ・・まあ、人それぞれですね」

「それじゃあ、意味ないでしょう?そんな抽象的な結果、ネットの無料占いと変わらないじゃないですか。こっちは金払って相談してるんだから、もう少し具体的に何が起こるか言ってもらわないと!」淡々と抽象的なことしか言わない女に、やや苛立ち気味に答えた。

 「まあまあ、人それぞれですからね。運命というものは。」相も変わらず、女は落ち着いた口調で、答えた。

 「まあ、もう少し詳しく見れば、細かいことも分かるとは思いますが、そうなると、別料金になりますが?どうします?延長しますか?」淡々とした口調とは裏腹に、女の目は妖しげな光を帯び始めるのが分かった。明らかに、これが狙いだったのだろう。

 「いえ、結構です。もうここには2度と来ませんから」そう吐き捨てると、料金の2000円をやや乱暴に机の上に置き、さっさとその場を立ち去った。

「またすぐ戻ってきますよ。あなた」淡々とした声色が、やや嘲りを帯びたように聞こえて癇に障ったが、無視して、そのままビルを出た。

 不愉快な夜だった。世間はクリスマスで色めき立っている。ここ数日、街はクリスマス一色で、街の至る所で、飲食店の客引きが赤い衣装を身に着けて、道行く客に付きまとっては、「お安くしときますよ」などと、お決まりのセールストークを口にしている。

 街中は、幸せそうな家族連れや仕事帰りのサラリーマンやOL,そして学生らしきカップルが青いLEDのイルミネーションで飾りつけられた街路樹の下を楽しそうに話しながら、通り過ぎていく。

 そうした中、こちらは、給料日前に、なけなしの金をどぶに捨てるような愚かな行為をして不愉快さが頂点に達している。そうした中、幸せそうに大勢の他人が着飾って歩いてるのを見ると、いけないこととは思いながらも、やはり殺意が湧く。

(大体、何で、俺、あんなところに行ったんだ?)深い後悔と自責の念に苛まれながら、私は愚行を犯した原因を考え始めた。頭の中は、腹立たしさでいっぱいだが、同時に冷静に自身の行動を思い返し始めていた。

 徐々にではあるが、怒りを冷静さが上回り始め、愚行の原因を思い出し始めた。(そういえば、昨日、会社で・・・)そうだった。昨日、私が会社で聞いた女子社員同士の会話を耳にしたことが切っ掛けだった。

話の詳細は、もう忘れてしまったが、なんでも、駅前から少し離れたXビルの某所に、よく当たる手相見がいるらしく、会話していた女子社員も含めて、診てもらったそうだ。当たった内容は忘れてしまったが、確か、相当、流行っているということだったので、それなら自分も見てもらおうかという気になったのだ。クリスマスイブが土曜日、そして、その前日が天皇誕生日だったこともあり、ネットでゆっくりと場所を調べ、(と言っても、検索すれば、すぐでてきたが)予約を入れて出向いたのだった。

人間は誰しも悩みがあり、私も御多分に漏れずに、その一人であり、それも他者にはそう簡単に打ち明けられるものではないため、密かに悩んでいたが、そんなに当たるのならと考えて出向いたのが、間違いだった。

 イブの夜は、金のない者には、ひどく寒く感じた。(とりえず、どこかで飲むか)幸いなことに、数日後には金が入る。財布は寂しいが、心はそれ以上に凍てついている。街路樹の青い光を見つめながら、絶望でくたびれた足を、通い慣れた駅前ビルの方に向けた。

 嫌な気持ちを手っ取り早く変えるには、とりあえず美味い者を食べて酒を飲むのが、一番に思えた。駅前ビルの横にある煉瓦造りの階段をタッタッタと駆け下り、行きつけの飲み屋に向かった。階段を駆け下りた後、アルミ製のトッテを引いてドアを開けて中に入るとメガネが水蒸気で曇った。

(これが嫌なんだよなあ)そう思いながら、メガネの曇りが消えるのを待ち、廊下を進んでいく。が、人通りが少ない。というより、ほとんど人がいない。店の明かりは薄暗く、人がいるのかいないのかすら分からない。ビルの階全体が、店舗も含めて、薄暗く、人通りもまばらになっている。時刻は夜の21時を少し過ぎたばかり。土曜の夜としては、決して遅い時間帯ではない。

 訳も分からずに、廊下をふらふらと彷徨ってはいるが、歩いても歩いても、一向に、目的の飲み屋には着かない。これだけの時間が過ぎれば、もう注文を済ませて、軽く一杯飲んでるはずなのだが・・・いや、それどころか、徐々に見たこともないような光景が、チラチラと目に付く様になり始めた。

 徐々に辺りは暗くなり、廊下の横にあるはずの見慣れたテナントは、いつの間にか姿を消し、代わりに見たこともないような掘立小屋、バラックと言うのだろうか・・薄暗い裸電球の釣り下がった怪しげな店内と言えば、言い過ぎだが、トタン屋根に薄暗い裸電球がぶらぶらと垂れ下がっており、客らしき連中が数人いるのが見える。空には星空すら・・・

 いつの間に、私は外に出たのだろうか?冬の寒さがやけに身に沁みる。というより、ここはどこなのだろうか?いつの間にか、私は、見慣れた、通い慣れた駅前ビルの地下街から、得体のしれない街中を歩いていた。無造作に建てられた、みるからに不衛生なバラックが新月に向かう中でわずかに残った残骸の光とバラックの中から漏れ出る裸電球の灯りに照らされて、不気味に、建っていた。

 徐々にではあるが、薄暗い店内から、人の会話らしき声や笑い声などが聞こえ始めてきた。徐々に店内から漏れ出る店主や客らしき人の声は、賑やかになり始めたが、薄暗い月明かりの下、突如現れた見慣れない街というより、異形の集落の光景は、身体だけでなく、私の心を非常に寒くさせた。心細いのだ。

見慣れない異形の集落の中にずけずけと入っていき、話の中に入っていけるほど、私は気の強い人間ではないし、気さくな人柄でもなかった。普段は、一サラリーマンとして大過なく、その日その日を仕事に追われ、一日の疲れをわずかな給料で買ったコンビニのビールで癒すだけの小さな小市民である。とてもそんな度胸はない。

 そうこうするうちに、元来た道すら分からなくなり、戻ることも叶わなくなったしまったことに気付いた。未知の集落に取り残されてしまったのだ。急に背筋を上から下に冷たい者が流れ落ちた。脇の下も、ぐっしょりと濡れている。足が棒になったように重くなり、しばし、その場に立ち尽くす。必死にこみあげてくる感情を抑えながら、考えようとするが、他の例にもれず、こういう時に限って、考えが浮かぶことはない。

(とりあえず、この場を離れなくてはならない)鉛のように重くなった足を半ば、引きずるかのように、再び歩き始めた。相変わらず、辺りは薄暗い。バラックの中から聞こえる声は徐々に、小さくなり始め、やがて、聞こえなくなり始めた。静寂が薄暗い月明かりの下、バラックから漏れ出る薄暗い裸電球の灯りとともに、全てを支配していた。

 とにかく歩き続けるしかなかった。元来た道を引き返し、おぼろげながら、たどってきた道の記憶を再び、思い返しながら、歩き続けた。意識を記憶に集中しながら、とにかく、ひたすら歩き続けた。どこまで歩き続けたかはわからない。薄暗い月明かりの下、ひたすら意識を集中させて、私は歩いた。歩いた。歩いた。

 どのくらい歩いたのか?もう足の感覚すらなくなり始めた頃だった。目の前に明かりが見えた。ほぼ無意識だった。私は、そこに向かって持てる力を振り絞って進んだように記憶している。走ったのか、歩いたのかすら、もう今となっては覚えていない。

「ほうら、戻ってきた」聞き慣れた声が聞こえた。若い女の声。どこかで聞いた声だった。懐かしい。淡々とした、しかし、どこかに、やや嘲りを交えた口調。長く伸びた黒髪に切れ長の眼、その奥に潜む、やや人を小馬鹿にしたような光、口元は、かすかに歪んでいる。どこかで見た顔だった。記憶が徐々に戻ってきた。そういえば・・・

 テーブルの上には、先ほど、怒って叩きつけた1000円札が2枚置かれていた。もう、ずいぶん、昔の事だったように思えた。何か話そうとしたが、言葉が出てこない。いや、何から話していいのか、次から次へとこみ上げてくる感情の処理に、脳みその情報処理が追いつかずに、混乱していて、行動できないのだろう。

 混乱している私を尻目に、目の前の女は、淡々と例の口調で話し始めた。「ね、良いことあったでしょ?」先ほどより、嘲りのトーンが高くなっていたが、わたしには、もう言葉が出なかった。女は続けた。「手相見せて」言われるままに私は右手を出した。「あら、お客さん。恋愛運上がってますね。」そういうと女は私の耳元で甘い声で囁いた。切れ長の眼は怪しい茶色の光を妖しく宿していた。

それから数時間後、私は、その日、彼女が言った「棚ぼた式の幸運」が何だったかを身をもって噛みしめていた。メリークリスマス!


今回、久しぶりに、不思議な話を書かせて頂きました。クリスマスイブということもあり、不思議な話にしました。皆様のご感想をお待ちしています。


この記事は当ブログにも掲載しています。http://blogs.yahoo.co.jp/toshihiko0323

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。