番外2:ある日の魔王軍
ちょっと短くなってしまったので、土日の間に本編とこれの後編をアップしたいと思います。
ある日の魔王軍
リースがこの遺跡に来てから1週間。午後の3時頃、ニンベルグが焼いてくれたシフォンケーキを、俺とリースとニンベルグで食べながらバルコニーから近くの森を眺めていた。
この遺跡を囲む森は、種々さまざまな魔物が住み着いており、眺めているといろいろな奴が見られてちょっとした動物園のようでなかなか楽しいのだ。
「うーむ、しかしなあ」
そういう素敵な暇つぶしや、優秀な部下が作ったおいしいケーキがあっても、やはり退屈なのだ。この前冒険者脅かしたらそれっきり誰も来なくなったし。王都に行かせた人型魔物の諜報隊もまだ到着してないし、何も動きがないのだ。
「どうしたの?暇そうな顔して」
「いやだってさ、何も起きないじゃん。暇で暇で仕方ない。」
「まあ、あんな化け物が住み着いているんじゃ、誰も近寄りたくないわよ」
「やりすぎたのかなあ」
「そ、そうね・・・」
「なあ、ニンベルグ。なんかいい案ない?」
と、自分で焼いたケーキの出来に満足しているのか、口元をほころばせているニンベルグに話を振る。
「わ、私にも・・・申し訳ありません。」
「うーむ、また書庫でも漁るk」
突然として侵入者有の警報が鳴り響いた。誰かがご来訪したようだ。
「どうやら、ご来客のようだな」
「配置はいかがいたしましょうか」
「俺が出る。暇で暇で仕方ない。」
「え・・・ですが・・・」
「ふん、世の中の厳しさをルーキーに教えてやるわ」
「しかし・・・」
「・・・そんなに心配?」
「も、申し訳・・・」
「じゃあついてこい。ついでにリースも。」
「わ、私も!?」
「だって暇でしょ?」
「ま、まあ・・・来いっていうなら・・・」
「よし、じゃあ派手にお出迎えと行こうか。」
恨むなよ、冒険者。恨むなら俺が暇してるところに入ってしまった自分の不運を恨め。
10分後
「んで、侵入者ってこいつらか?」
俺たちの前方に、ちょっと実力つけて調子乗ってる感じの冒険者御一行がいる。
「マーカーの位置からして、間違いないでしょう。」
「ふむ・・・そういえば、戦うところを見せたことがないな。ここは一つ、実力を披露させていただこう。」
そういうと、二人は何を言っているんだこいつはみたいな表情になった。
「え、あの、魔王様・・・?」
「あ、あんた一体何をするつもr」
「抜刀」
デーモンくんに作ってもらった刀を抜く。アダマンタイトの黒い刀身が鈍く輝く。
「さて、一瞬で沈めようか。」
ふっと息を吐き、神経を集中させる。臨戦態勢に入ると周囲の動きが遅く感じられた。冒険者はもたもたと武器を構えている。
「遅いな」
一歩で冒険者の一段のど真ん中に飛び込み全員の後頭部をみねうちで打ちつけ意識を刈り取る。
「・・・ってあれ、もうギブアップかよ」
「魔王様・・・そのように加減をしなければ、冒険者ごときがそう長くは持たないと思います」
「そうね、手加減無用って感じだったものね。」
なんだなんだ、みんなで寄ってたかって人を加減ができないみたいに。予想外にあいつらが弱かっただけだし。
「とにもかくにも、ちっとも楽しませてくれなかったな・・・結局暇なままだ。」
「散歩にでもいく?」
「しかしあそこの森はあらかたつぶしたよなあ・・・」
などと話しながら歩いていると、どこから入ったのか、ドブネズミが現れた。
『チューチュー!』
そしてその鼠の目の前には弓矢トラップの起動スイッチ(小石)が・・・
「あ、ばか、やめr」
カチリ。鼠の起動したスイッチは運悪く、ニンベルグのすぐそばだった。
瞬間、俺はニンベルグを身体ごと地面に押し倒した。・・・ニンベルグに覆いかぶさるようにして。
「だ、大丈夫か?(むにゅ)」
「は、はい、大丈夫、です・・・けど、あの、魔王様・・・その・・・手・・・」
「ん?」
ふと右手に柔らかな感触。うん、この状況、見まごうことなきラキスケだ。
「うひゃぁぁぃ、本当にすまない!」
俺は急いでニンベルグから離れた。
「い、いえ・・・魔王様になら・・・触られても・・・ゴニョゴニョ」
なんかニンベルグはごにょごにょ言ってる。
「どうした?やっぱり許してくれない?」
「い、いえ、そ、そういうことではなくて・・・」
そんなやり取りをしていると、あきれたような顔をしながらリースが割り込んできた。
「あーもー、じれったいなあ。ほら、私は薬草採取に出かけるから。二人でお話しなさいな。」
それだけ言ってリースは遺跡の外に出て行った。
「に、ニンベルグ・・・部屋で休もうか。」
「は、はい・・・」
5分後。
部屋に戻ってからというもの、一行に会話がない。お互い何かを言いかけ、やはり黙ってしまう。うーむ、どうしよう。
「・・・」
「・・・」
こういう場合って何をするのが正解なのだろうか。俺には分からない。かといってこのままこう着状態のままではなおさらよくない。なにか、言うべきだろうか。
うん、何か言うべきだな。ここはひとまず、謝罪だな。
「な、なあ、ニンベルグ。さっきは・・・すまなかった。」
「い、いえ、魔王様・・・御触りになっても・・・いいですから」
うわあ、けなげ。あんなことされてもこの従者っぷりだよ。うーん、これじゃダメなんだよなあ。
「なあ、ニンベルグ。一度、従者って肩書を捨てて、ニンベルグ・ダンケルハイルトとしての気持ちを聞かせてくれないか」
「そ、それは・・・」
「頼む。このままじゃ、俺は権力を盾に女の子をいいようにしている男になってしまう。」
「・・・私は、魔王様・・・いえ、あなたのことが、す、好き・・・ですよ・・・」
おおっと、突然の告白だ。命令で従者の立場を捨てた気持ちを言えといったのがわかってるからなおさらだ。
「それは、つまり・・・告白ということなのか・・・?」
「はい、この気持ちに、偽りはありません。」
「そ、そうか・・・」
人に生まれて17年。初めて女の子に好きといわれた。