デートは平穏にはいかないものである。
魔王、人の街に行く。
なんだかんだで、ディアケントの腐敗政治を打倒した俺。
行きがけの駄賃でエルフの少女、テラを助け、ハーレムが形成されつつあることを認識した。
そして、今回は、ルーツとデートに行くため、人の街に行くのだが。
「どこに行けばいいんだ・・・。」
まったくわからん。ああ、だれか教えてくれねえかなあ・・・。
「で、私のところに来たってわけね。」
結局、俺はリースに泣きついたのだが。
「はい。」
「正座なんてして、情けない。はぁ。なんでこんなのに惚れたんだろ、ほんとに。」
「面目ございません。」
「ま、話を戻すけど・・・。そうねえ、あの子、意外と乙女だし・・・」
リースに提示されたのは、水の都と呼ばれる、アンセム聖国の聖都・グロリアだ。
「出入りは割とゆるいし・・・っていうか、あんたの冒険者のほうの名義ならあっという間よ。」
「そんなに有名なのかな。」
「治療して回ったついでに、いろいろ聞いたけど、破壊の大王ラートとか、竜燼滅ラートとか、いろいろ異名が・・・。」
「俺、Bランクなんだけど。」
「実力ならとっくにSよ、S。あんたが加入するだけでパーティランクがSになるようなね。」
「へえ、そんなものか。」
「あんた、少しは自覚を持ちなさいよ。」
「へいへい。」
そんなわけで、ルーツを連れて、聖都に行くことになった。
「よしルーツ。デートの行先が決まったぞ。」
「どこですか?」
「聖都グロリア。」
「へえ、グロリアですか。本でしか見れないと思ってましたよ。行きましょう!今すぐ!」
ルーツは目をキラキラさせながら、せがんできた。
「よし、じゃあ行くか。・・・バイコーンはいやなんだよな?」
「嫌です、ゼッタイニ。」
なんでみんな嫌がるんだろ。楽しいのに、音速への挑戦。
「さて、ルーツ。俺は人間社会では冒険者の地位を持っている。だから、ラートさんくらいで頼むぞ。」
「はい、ラートさん。」
「よし、その感じだ。」
普通の馬車で二日後、聖都の門に到着する。
「身分証の提示を。」
「これでいいか?ああ、こいつは連れだ。どうにかなるか?」
「ふむ・・・ラート・セイロンか。お前の推薦なら通しても大丈夫だな。銀貨一枚で。」
「へいへい・・・。」
俺はささっと銀貨を渡して門をくぐった。
「うわー、こりゃすげえな・・・。」
水の都グロリア。至るとことに水路が通り、町の各所では噴水が噴き出る。
その噴水も一流の彫刻家が組み上げたもので、水の一滴一滴が意味を持つ。
建物も、白亜の彫刻やレリーフが施された建物で、どこか幻想的(まあこの世界幻想世界だけど)な風景だった。
「ほわぁ・・・」
ルーツは見とれてぼぉっとしている。
「ほれ、ルーツ。いくぞ。」
「は、はい!」
ルーツは俺の腕を取った。
「失礼ながら・・・。」
「ん。別にかまわないぞ。」
俺の腕にギュッと抱き着くルーツ。だが、絵的には17歳の男子高校生にどう見ても小学生のちみっこがくっついているようにしか見えないのだ。
「む、ラートさん、失礼なこと考えてませんか?」
「そのようなことがあろうはずもございません。」
なんで女ってこう、男の頭の中が透けて見えるんだ?
ルーツと町の中を歩いて回る。
「わ、見てください!あんな器用に・・・」
大通りでは大道芸が行われていた。
曲芸師の男が5本の剣をジャグリングしながらボールを器用に乗りこなしている。
「・・・?」
ふと、スキルを見ると、「剣術:蛇水流 Lv8」と表示される。
蛇水流は、剣を自由に扱うことで闘う剣術だ。
「ちょ、あいつ剣豪かよ・・・。」
俺とルーツはそのまま大通りの店に入った。
婦人向けの服屋だ。婦人向け・・・?ルーツのサイズあるのかな・・・。
「ラートさん!なにを考えているんですか!?」
ぶん殴られた。痛い。
「わー、悪かった悪かったから!!壁を崩す勢いで殴るのやめて!!」
数分掛けてなだめ、服屋の中に入る。
「いらっしゃいませー・・・。おお、よい素材をお持ちのようで・・・!」
出迎えたのはなんか胡散臭い女性店員。
てか、べたべたしすぎじゃ!ルーツはうちの子やで!
「あら、怖い顔。取って食うわけじゃありませんのに。」
「うるせえ!」
「あ、あのぅ・・・喧嘩はだめですよぅ・・・。」
ほどなくしてルーツが店の奥に連れられ、しばらくしてかえってきた。
さっきまで真っ黒のローブを着てたのだが、なんかゴスロリになって帰ってきた。
「あ、あのぅ・・・に、似合いますか・・・?」
短い丈のスカートを抑えながら、赤面する彼女は、破壊力絶大だった。
「ああ、最高だ。そのままそれを買おう。」
「まいどー。」
やっぱり貧乳にはゴスロリが似合うな!
「ら・あ・と・さ・ん?」
バチコーン!!
「エアバァァァアァァァァァァッグ!?」
俺の意識は空の彼方へ飛んで行った。
「ふぅ、ひどい目にあった。」
俺が復活したのは10分も後のことだった。
「ラートさんが失礼なこと考えるのが悪いんです!」
ごもっともである。
「じゃあ、気を取り直してお食事でも・・・。」
といった瞬間、二人の顔が固まる。
耳に入ったのは罵声。それも、複数人が一人をかこっている様相だ。
「ルーツ、聞こえたか?」
「ええ、聞こえました。」
「俺っておせっかいなやつだよな。」
「全くです。」
二人は喧騒のする方向へ向かっていった。
「あーあ、こりゃひでえや・・・。」
たどり着いたころには、衛兵の手によりことが収まった後だが、ぼろぼろになった少年が倒れていた。
「おい、生きてるか?」
「ぅ・・・なんだ、あんた・・・おまえも、俺を・・・ウッゲホゲホッ・・・。」
口から血を垂らしながら、こちらをにらむ少年。
「おいおい、そんなにらむな・・・よ・・・?」
その少年の目は鮮血のように赤く、髪は月のように銀色。
それはかつて存在した魔族の身体的特徴だった。
「おまえ・・・魔族、なのか?」
「人、間・・・だ。」
いやでも、ねえ・・・。感じる魔力量がおかしいだろ、おまえ。
こいつは、詳しくお話をしないといけないな。




