魔王の片鱗
今回めちゃくちゃ長いです。1万文字超えました。
というのも、私が話切るのがへたくそなせいです。
誠に申し訳ありません。
view:???
私は貧乏な家に生まれた。エルフでも、貧乏な家はあるのだ。
10歳になった頃だろうか。ついに借金が払えなくなり、私は売られていった。
そこから3年は教育を施された。そして2年で買い手が付いた。
私を買ったのは王族らしい。本人は名前も知らないが、ディアケント王家の家紋があった。
私は性奴隷か労働奴隷になるかと思ったが、買主は私に何もさせないし、何もしなかった。
買主はいつも地下室にこもって妖しい術式を書いている。なんの術式だろう。
買われてから2年が経った。本当に何もされない。家にいた時よりも高価な食事、上等な服、上等な部屋。これらを与えるだけ与えて、買主は何もしない。
メイドに聞いたが、メイドもなぜ私に何もさせないか知らなかった。彼女は私と同じエルフだった。
この館には獣人やエルフ、半魔族(体の一部が魔物の種族。ラミア、スキュラなど。魔族とは異なる。)の奴隷メイドしかいなかった。買主の趣味だろうか?
ある日、半魔族のハーピィが慌てて帰ってきた。何かあったのだろうか。メイドに聞いたら、王都に魔王が侵攻し、王が殺されたらしい。
買主は、自分の叔父(今知った)を「暗愚だったから、死んで貰ったほうが良い。王位継承権は放棄してるからどのみち関係ない。」と言っていた。
そして、私は急に眠くなって、ベッドに入った。次に目を覚ますと、買主がいつもこもっている地下室に居た。
ああ、これは、死んだな。そう思った矢先、何かが轟音と共に現れた・・・。
view:ラート
バイコーンに乗り、西に向かう。目指すは領主の館。
「あ、魔王様。見えてきました。」
ニンベルグがそう言うと、館が見えてきた。日本なら間違いなく豪邸だ。
そして、館が見えてくると同時に、その異常な光景が目に入った。
「あ、あの、魔王様・・・あれ、ゾンビです・・・よね?」
「ああ。ゾンビだけじゃない。ゾンビオーク、ゾンビリザードマン、スケルトン、ソルジャースケルトン、ナイトスケルトン、アークスケルトン、ゾンビウィザード、ドラゴンゾンビなどなど、アンデッドパレードだ。」
そこには不死系の魔物がそれこそ海のようにひしめいていた。しかも、隊列を組んで。
「ゾンビが隊列!?馬鹿なこともあるのね・・・。」
「敵さんはこっちが来たのに気付いているな。急がねば、手遅れになる。」
目を一瞬だけ閉じ、作戦を思案する。
「天駆ける星の煌きよ。夜空を彩る極彩の輝きよ。我が問いに答え、現れよ。天より降り注ぎ、大地を穿て。敵を蹴散らし、灰燼に帰せ。全てを貫き、仇を討て。『エルトリア』!」
Lv9の星魔法(隕石を落とす系統の魔法。なぜか系統として確立している。)を発動し、巨大な隕石を不死軍団の上に落とす。
「「「「「「「UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」」」」
ゾンビの断末魔が響き渡る。巨大隕石の衝撃は、遠く離れているここにも伝わってきた。
「ぬぉ!?意外と・・・!強かった・・・!?」
「きゃぁ!?」
「うわぁ!?」
しばしの間、砂埃に視界を奪われる。そして視界が晴れると、辺り一帯が焦土になっていた。
「うわ・・・やりすぎた・・・。えーと、『グロウアース』。」
ささっと詠唱を破棄して大地を育む魔法を唱える。あっという間に肥沃な大地が広がり、木々も元通り。
「人死には・・・ないな。よし。」
そして、視線を戻すと。館は無傷だった。
「あり。半壊位は行けるかなとおもったんだけど。」
「魔王様、死霊魔法を利用した強固な結界があります。突破するには浄化するしかないかと。」
死霊魔法か。そろそろきな臭くなってきたな。てか、Lv9魔法に耐えるのか。ここの領主、何物だよ。
「浄化ね・・・。七色に輝く神聖よ。集いし怨念を払い、清らかなる時をここに戻せ。『プリズムパージ』。」
光魔法としてはLv5なのだが、魔力を浄化に全て注ぎ込むため、死霊や闇なんかはあっという間にキレイさっぱりなくなってしまう優れもの。
そのせいで、白魔導士がLv5魔法使えるだけでアンデッドや闇系の魔物(ヴェアヴォルフやチョンチョン、マリオネットなど)が無力化されるのだけどね。
「さて、進もうk」
「GUGYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
突如として咆哮が響く。クレーターの中央で、黒い龍が起き上がった。
「あれ?生きてる奴がいる。」
「「そんな・・・魔王様の魔法を耐えるだなんて・・・!?」」
おう、ニンベルグとアリスは本当に仲がいいなあ。ハモりやがった。
「うそ!?この辺全部焦土に変えたのよ!?魔王クラスの魔物じゃないの!?」
「あの・・・あれ、生まれ直しています。」
「生まれなおす?」
「はい。お城にあった本でそういうのがいました。確か、古龍の一体、不死王ジャグラヴィーン。」
なんでも、ジャグラヴィーンは死んだとき、周りの命を吸い込んで蘇るそうだ。
「つまり、アンデッドの作り物の命を飲み込んだと。」
「多分そうです。」
「んー、ステータス。」
久しぶりに使ったな。
ジャグラヴィーン 45832歳
レベル2391
HP632010
MP0/892391
ATK32010
DEF48291
POW99201
DEX1921
INT39210
(黄泉返り回数:32)
スキル
黄泉返り(死亡時、周りから自分のレベルと同じだけになるまで命を吸い込み蘇生する)
ブレス・蝕Lv9(触れたものを侵蝕し、消し去るブレスを扱う)
闇魔法Lv9(すべての闇魔法の扱い)
闇帝龍の系譜(EX闇魔法:アンラ・マンユの習得)
死霊召喚(冥府から怨霊を呼び出す。Lv1につき1000MP)
龍の覇気(自POWの2分の一以下のPOWの相手をひるませる)
死霊の呪縛(何者かに呪縛で縛られている。 使用魔力:1821029MP)
闇無効(闇属性の攻撃を無効化する)
うお!?滅茶苦茶強い。てか45832歳ってマジかよ・・・。
「魔王様・・・どうするのですか?」
「んー、殺すのは簡単だけど、それじゃ惜しいなあ。よし。ここはあれで行こう。」
この戦いを起こす前に街へ出た際、テイマーというものを見かけた。
調べてみると、俺でも使えそうなので、ここで試そうと思う。
「あれ、ですか?」
「あれ?」
「あれってなんですか?」
「あれとは・・・?」
みんな口々に疑問を浮かべる。
「まあ見てろ。」
魔物をテイムするには、力で屈服させなければならない。
「GURRRR・・・」
ジャグラヴィーンに近づくと、腐臭が漂ってきた。力が流れてくる。覇気でも放っただろうか。
ジャグラヴィーンは翼を持っていない。が、その巨体は学校の校舎ほどもある。頭には何かの頭蓋骨を被っていて、角がそれを貫通している。そして、目のあるところに小さな穴があいている。
「ちょっとおとなしくしろよ?」
意識を集中する。落ちる木の葉、流れる風、自分の足音ですら、ゆったりとした動きに感じられる。
「我に疾風を『アクセル』、我に剛力を『パワフル』、我に堅鎧を『アーマー』、我に加護を『シールド』、我に寵愛を『バリア』、我に抗力を『レジスト』」
加速、豪腕、防御、身代わり、精神防御、状態異常無効を高速で付与する。
「我が拳は疾風の鋭槍。貫けぬものはなし。『スピンドライバ』!」
体術Lv9のスキル『スピンドライバ』を発動する。スピンドライバは、あらゆる防御力を無視し、豆腐でも殴るようにダメージを与える。
「GU」
相手が悲鳴を上げるのすら、ゆっくりとした動きに見える。
「GYA」
「心を殴って砕け、精神を蹴って破れ『マインドブレイカー』、我が蹴足は剛槌。砕けぬものはなし『パイルクラッシャー』!」
物理攻撃を一度だけ、精神へのダメージに転換する『マインドブレイカー』、そして体術Lv9のスキル、あらゆるものを「砕く」『パイルクラッシャー』を発動する。
「AAA」
「我を受け入れよ、支配を感受せよ、汝の時は我の時、我の時は汝の時、我に下り隸となり手足となれ。『ドミネイション』。」
テイマーのための最高位の魔法『ドミネイション』。唱えた直後、赤い魔方陣が周りに現れ、赤黒い鎖がジャグラヴィーンを縛る。
「おっと、呪縛をとかないとな。・・・この者にまとわりつく呪詛を解き放て、清らかなる女神の名のもと、無の円環に導き、怨嗟に悶える永劫に終焉を齎さん。『ノモスドクトリン』。」
光Lv9相当の解呪魔法。プリズムパージのような浄化作用はないが、かけられた呪いを解き放つことができる。
「SYAAAAAAAAAAAAAAAA・・・」
ジャグラヴィーンを縛っていた呪詛が天へと昇っていく。
「ふぅ・・・。」
集中をやめる。時の流れが元に戻る。
「さて、俺に従う気になったか?」
「オレ、オマエニ、シタガウ・・・。」
こいつ喋れたのか。
「そうか。今はゆっくり休め。疲れただろう。」
「ワカッタ、オレ、ヤスム。」
ジャグラヴィーンはズブズブと地面の中にとけていった。
「さてと。おーい!行くぞぉ!」
「「「「了解!」」」」
最後に残った館に向かう。
「火よ。集い踊りて敵を砕け、塵に帰せ、爆散しろ『ファイアボム』」(小声)
Lv4火魔法で炎の爆弾を放ち、門と玄関を吹っ飛ばす。
「お邪魔しまーす!」
元気良く挨拶をしながら中に入ると。
「UAAAA・・・」
ゾンビナイトメア、リッチノワール、ファントムデュラハン、ジェネラルスケルトン。
不死系の最上級が山ほど並んでいた。
「おおう!?ええい、みなさん!やっておしまい!」
「「「「了解!」」」」
ニンベルグが両手に杭を持ち、次々と磔にしていく。
ルーツが魔剣を解き放ち、次々と肉塊に変えていく。
アリスが聖剣を解放し、雷鳴が次々と不死を貫く。
リースが光魔法を唱え、次々と浄化していく。
「んー、ルーツは訓練しただけあって動きがいいな。やはり、みんな訓練させるべきか。バッカス達には迷惑をかけるな。・・・酒でも用意しよう。KP使えるし。」
ちなみに現在のKPは892133である。
「魔王様。片付きました。あと、地下室への入口を発見しました。」
「おう、お疲れ。一応、この館の上の方とか、見ておいてくれ。奴隷とかいたら、保護しといて。」
「かしこまりました。」
地下室への扉を開く。階段は短く、すぐ下で大規模な儀式をやっているのがわかった。
「とぉ!」
適当に魔力を放り込み、魔方陣を破壊する。よほど強力な代物だったのか、轟音と共に魔方陣が崩れる。
「な!?」
「ども~。ちょっといろいろあってお邪魔してますよー。」
適当に煽りながらステータスを見る。
アレアス・ラ・ディアケンティア 26歳
レベル54
HP3210
MP39/9391
ATK230
DEF121
POW1201
INT819
DEX89
スキル
死霊魔法Lv4(上級までの死霊魔法の扱い)
冒涜者(神の理に反した証)
闇魔法Lv4(上級までの闇魔法の扱い)
目の前にいる、痩せこけた男が件のアレアスらしい。
「さて、で、そこのエルフが・・・。」
テラ・クロウカシス 17歳
レベル32
HP21/1232
MP2/6743
ATK104
DEF98
POW3201
INT2981
DEX33
スキル
借金奴隷(借金が原因で奴隷落ちした)
氷魔法Lv5(賢者レベルの氷魔法を扱える)
土魔法Lv5(賢者レベルの土魔法を扱える)
速読Lv9(ぱらぱらっとめくれば本の中身を理解できる)
絶壁の呪い(生まれ持っての才覚の代償に、胸囲の成長が無くなる)
状態:衰弱(危) HPの残量が危機的状況。回復が必要。
お、大当たりじゃね?
ひとまず回復魔法をかけてHPを全快させる。
「さてと。君、ニアの知り合い?」
「ニアを、知ってるの?」
「知ってるもなにも、頼まれてきたわけだし。一緒に来てもらおうか?」
「うん。おじさん、多分いい人。」
お、おお、おおお、おじさんだとぉ!?俺はお前と同じ17じゃぁぁぁっ!!
「俺、キミと同い年。」
「え、嘘でしょ・・・おじさん、すごい老け顔。」
「ぐはぁ!?」
ま、魔王になって少し老けたのかもしれない・・・それとも訓練法のせいかな・・・。そういやこっちの世界来てからひげそりと散髪をしてなかったな。
テラとおっさん談義をしていると、後ろで放心していたアレアスが再起動した。
「き、貴様~~!よ、よくも私の、私の夢をぉぉぉ!」
「知るかボケ。」
騒ぎ出してうるさかったので、蹴りを叩き込んで黙らせる。
「ぐぅっっ・・・ああ、わかったぞ!もういい!こうなれば奥の手だ!」
なんだよ、奥の手って。
「本当ならそこのエルフ奴隷を使うはずだったが・・・俺自らを魔人化するのだ!どうだ!恐れ入ったか!」
魔人。魔族ともいわれる、魔界の住人。魔人は通常の生物を遥かに超える魔力を有する。人間や亜人の体に、魔人の因子を注ごうものなら、自我は崩壊し、肉体は魔人に乗っ取られ、単なる化け物と化すだろう。
「おまえ、馬鹿だろ。魔人の因子に人間の体が耐えられるはずもない。」
「ふふふ、もう良いのだ。我が夢は潰えた!この夢なき世に生きながらえ、何の意味があろうか!」
「あ、そう。ご勝手に。」
「ゆくぞ・・・?う、うおおおぉぉぉぉぉぉOOOOOOOOOOOOOOOOOO・・・」
なんか予想以上にやばい展開になってきた。
魔力がアレアスの体に集約し、体がバキバキミシミシと音を立てて変形していく。
「GOAAAAAAAAAAA・・・」
あっという間に変形は終わった。
そのうでは異様に長く、腕だけで2m程もあり、首も1.5m程はある。下半身は蜘蛛のようになっており、胴体は完全に白骨化している。
「あーあ。言わんこっちゃない。まあ、とりあえず。」
逃げる。勝てるには勝てるが、館を崩すことになりかねない。
俺はテラを抱きかかえ、ニアと出会った時に拾った麻痺札をそのへんにばら撒く。
が、バチンッという音共に、奴が踏んだ端から抵抗され、破棄されていった。
「うそーん!?」
ふざけて何枚か特別強化したのに!
そういや魔王城の戦記に上級魔人は一人で勇者一行と渡り合うとか書いてあったな。あれ上級か中級くらいなのか?
てか、魔人って味方じゃないのかよ・・・。
「GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「土壁よ!我が前に来たりて敵を塞ぎ、しのぎ、阻め!『アースウォール』!」
応急処置で土壁を造る。ガチガチの層とネトネトの層を重ねてあるから、そうは壊れないはずだ。
「よし!足止めは成功だな!とにかく外に出るぞ!」
一気に階段を駆け上がり、館内を疾走する。
「魔王様!?一体いかがなさったのですか!?」
この館のメイド達をまとめているニンベルグは、轟音が聞こえていたのか、心配そうな表情だ。
「目標は保護した。めんどくさいことになったからメイド全員連れて外に避難だ!」
「し、しかしこの人数では・・・」
「時空よ、因果に刻まれしその記憶のもとに、我らを導け!『テレポーテイション』!」
ニンベルグ、リース、ルーツ、アリス、テラ、メイドさん30人前後、そして俺をまとめて転送する。
場所はアルトリアを放ったあたり。
「さ、さすがは魔王様です・・・。」
「さて、さっさと消すか。」
周囲に魔力を拡散する。
「障壁を張った。俺より前に出るなよ?多分、無事ではすまない。」
「魔王様・・・一体何が・・・?」
「魔人だ。それも中級以上のな。」
「ですが、それなら魔王様に・・・。」
「魔人化とかいう禁呪で魔人になったものだ。ただの異形だ。さて、はじめよう。」
魔法の詠唱を始めると、辺りがいきなり暗くなった。
「原罪に悶え、懺悔に震え、悪意の氷河に身を落とす、深淵よりも深き、闇に潜む混沌よ!我が願いに応え、その姿を現せ!その肉は呪怨、その血は混沌、その魂は澱み。全てを蝕み、無に返せ!『エターナル・ゼロ』!」
暗くなった一帯を、紫色の禍々しい光が照らす。天に巨大な魔方陣が現れ、空間が軋む。
「うわぁぁ!?」
「え、魔王様・・・この魔力は・・・!?」
突如として、魔法陣の中心が裂け、中から異形が顔を出す。
「消し去れ。」
その号令と共に、異形は赤黒い光線を館に放ち、館を跡形もなく消した。そして、何事もなかったかのように帰っていった。
「ふぅ、さすがにLv9の破壊魔法は疲れるな。」
チートで増え、ステータスにも乗り切らないMPが9割ほど喪失した。
「あれが・・・Lv9破壊魔法・・・」
「伝説の邪神が用いた、禁忌の邪術・・・」
救出したメイド達は呆気にとられた様子で呆然としている。
「さて、メイド諸君。」
俺はメイド達に呼びかける。
「選択肢は2つだ。奴隷から解放され、人の街に戻る。それか、俺の軍門に下り、魔王城その他もろもろで掃除炊事洗濯を行うか。」
メイド達はざわざわと話し合いをしている。
「10分待つ。その間に決めておけ。」
そう言いながら、配下を集める。
「みんな今回はよくやってくれた。何か一つ、ほしいものをあげよう。」
「なんでもいいんですか?」
「可能な範囲で。」
大陸とかはやめてくれ・・・。
「じゃあ、私は・・・その、指輪を・・・。」
頬を初め、うつむき気味になりながらもそういうニンベルグ。
「ゆ、指輪って、その・・・あれか?左の薬指につける、あれか・・・?」
「は、はぃ・・・」
消え入りそうになりながらそう言ってくるニンベルグ。かわいい。抱きしめたい。が、我慢だ。
今度作ってプロポーズだな。場所とか考えとこ。
「私は、不躾ながら、魔王様に夜這いを仕掛ける権利を。」
アリスは真顔でそう言ってきた。
「ん?夜這い・・・?夜這いィィィィィッ!?」
「はい。お姉さまとか魔王様とかそういうの抜きで、お慕いしております。ので・・・」
アリスってこういう時はニンベルグよりも大胆なんだな・・・。
「ああ、問題、ないぞ・・・。」
ええい、もうハーレム作っちゃる!あと7,8人くらいどんと来い!
「私は、そうね。また何か本を頂戴、工学系のやつ。」
またメカニカルを増やすのかリースは。しかもマジカルな解決方法で作るのか。
「ああ、いいぞ。次はなんだ?兵器か?」
「兵器!いいわね!ごついやつがいいわ!」
よし、言ったな。ラーテ重戦車を完成させてもらうぞ・・・!リースは戦車大全集とかがいいかな。
「わ、私は・・・その、魔王様とデートしたいです・・・。」
「お、おう。」
デートがいいとは、ルーツもかわいいやつだ。
ん?んん?俺は今どういう状況だ?
ニンベルグ:結婚したいくらい大好き リース:抱かれに来るくらい大好き アリス:夜這い仕掛けるくらい大好き ルーツ:デートしたいくらい好き
「よし、じゃあ今後の予定だが。まず、ニアとテラについてだ。」
「え、えと、その・・・」
テラは自分の扱いが不安なのか、少し戸惑っている。
「んーと、こんなもんは邪魔だな。てい。」
奴隷の首輪を適当に破壊する。借金奴隷だから借金があるはずだが、魔王が律儀に払うわけないだろう。
「で、だ。二人揃って恐ろしいほどに魔法適性がある。家事させようかと思ったがそれじゃ勿体無いので、鍛えようと思う。」
「如何なさるおつもりで?」
俺は前々から考えていたプランを持ち出す。
「9つの魔剣。」
それはこの世界に伝わる物語。
9つの属性、火、水、氷、風、雷、土、光、闇、重力。それぞれを生み出した9体の龍族は、それぞれが一本ずつの魔剣を残した。
火の魔剣、炎獄剣イグニストーム。
水の魔剣、水月剣マーキュリームーン。
氷の魔剣、凍空剣レド=ネーヴェ。
風の魔剣、風傷剣アニマヴェイン。
雷の魔剣、雷嵐剣ブリッツストーム。
土の魔剣、土命剣オレイカルコス。
光の魔剣、光明剣オートクレール。
闇の魔剣、闇冥剣アビスウェルミス。
重力の魔剣、重滅剣グランダスタ
そして、それらは魔王軍の管理下にあったのだ。だが、何代か前の魔王の代の人魔大戦の時、雷のブリッツストームだけ持ち去られたのだ。
そして、魔剣のそっくりさん『聖剣』が人類側で開発されるのに、そう時間はかからなかった。
「!?」
そして、この単語に一番反応するのは、やはりアリスだった。
「俺は属性の寵愛がない。故に、魔剣を扱っても十全には力が発揮できない。だが。この二人は違う。」
「へ?」
「私?」
二人とも、理解していないのか。
「二人とも、魔法の使用経験は?」
「ないです。」
「皆無。」
「だが、二人には魔法の才能がある。」
「え?」
「おお。」
ニアは状況が飲み込めていないようだ。一方、エルフだからか、テラのほうはワクワク顔といったほうが近いが。
「ニアには火。テラには氷と土の適性がある。」
「ほぉ・・・。」
「おぉ・・・!」
んで、事前に回収済みの魔剣をガレージスペースから出す。
「んじゃ、はい。これはニアに。これとこれをテラに。持ってみて?」
「はい。」
「んっ。」
二人は魔剣の塚に手をかける。瞬間、イグニストームから炎があふれ、レド=ネーヴェとオレイカルコスからは冷気と砂煙が湧き出る。
「う、うわぁぁぁ!?火!火が!?」
「ちべたい・・・じゃりじゃりする・・・。」
「ふむ、所持者として認められたようだな。それはそのままプレゼントしよう。」
「でも、ニアは獣人だからともかく、私は剣なんて使えない。」
「魔剣は魔力の増幅器だ。剣の形状なんてものはもののついでだ。」
「で、でも私だって、剣なんか握ったの初めてですよ?うわちちち・・・。」
「よくそんなんでテラを助けに行こうと思ったな・・・。剣なら優秀な教官がうちにいるから安心せい。」
「そ、そうですか・・・、なら良かったです・・・。あっちぃ!?」
ニアは終始魔剣の炎に振り回されている。火魔法そんなにレベル高くなかったっけな。
まあ、魔剣の作用である程度馴染めば魔法レベルも上がるからなんとかなるかな。
「あれ、アリスお前・・・魔法Lv3だったよな・・・?」
「じ、実は・・・もう数年握ってるのですが、未だに仲良くなれないんです・・・。」
「なんで継承者になったんだ・・・」
「ち、力を引き出せたのがたまたま私しかいなくて・・・。」
「ふむ。全力で魔力を流してみ。」
「こう、です・・・か!?」
アリスが魔力を込めた瞬間、凄まじい雷が溢れ出した。轟音が響き、周囲は青白く照らされる。
「う、うわわわわわわ!?」
「もっとだ!」
「え、まだですか!?」
アリスがさらに魔力を込める。さらに雷が強くなり、雷雲が空をおおい始め、稲妻が走る。
「もう一息!」
「こ、これで限界ですよ!?」
さらに雷が強くなり、周りを荒らし始める。しかし、十秒ほどでピタッと収まった。
「お、成功だ。」
「こ、これは・・・?」
「アリス。『レヴィンライザー』を唱えてみろ。」
「え?・・・我が身に集いし幾百の雷よ、その束縛より解き放たれ仇なすものを打ち砕き、焼き付くせ!『レヴィンライザー』!」
バリバリバリという音と共に、Lv6雷魔法『レヴィンライザー』が発動する。
アリスの体から某黄色い電気ネズミよろしく雷が放たれる。
「おっと、精霊よ、我らに寵愛を。『バリアフィールド』。」
近くの人全員に対魔法障壁を展開する。あぶねー、みんな揃って黒焦げになるとこだった・・・。
「す、すごいです・・・さすがは魔王様・・・!」
おいアリス。頬を初めて体をくねらせるな。
「む、そろそろ10分か。」
俺はメイドたちのところに戻った。
「さて、ではここに一本の先を引こう。」
インテグラルを抜き、魔力を込め、一本の先を地面に引く。
「ここより右が俺についてくる。左が、人の暮らしに戻る。好きな方を選ぶといい。」
すると、みんな迷わず右に入っていった。
「ほう、驚いたな。理由を聞いてもいいか?」
「私たちはもともと借金や貧困が原因で売られた身です。それに亜人である私たちには、人の世は少し暮らしづらいのです。」
代表っぽい人がそう言った。
「そうか。ならそちらの意思を尊重しよう。全員一列に並べ。」
そう言うと、きれいに一列に並んだ。
「では、ちょいと失礼。」
そして片っ端から奴隷の首輪を破壊していく。
「はい終了。」
ちなみに人数は62人だった。これ、人質計算として、一日のKPいくらだ?
『1万2871です。』
意外と多いな。やはり、ラミアやハーピィといった半魔人が強力なのか。
「え?」
「うそ・・・首輪が・・・」
「本当に、魔王・・・なの・・・」
皆は驚愕を隠せないようだ。
しかし、この人数。バイコーンは今のとこ、3頭しかいないし、あれ馬車引けないし、馬車ないし・・・。お、あれでいいか。
「ジャグラヴィーン。」
「ヨンダカ、アルジヨ。」
地面の中からジャグラヴィーンがニョキりと出てくる。
「みんなを載せてって。」
「オヤスイ、ゴヨウダ。」
ジャグラヴィーンは地竜系統の古龍だ。地竜は全体的に巨躯をもつ傾向にあり、ジャグラヴィーンも、頭だけで一軒家くらいはある。
ちなみに、ドラゴンは地竜、飛竜、海竜に分かれる。主だった活動領域での区別らしい。地竜は肉体が。飛竜は飛行能力が。海竜は海上行動能力が、それぞれ優れている。
体格は地竜>海竜>飛竜といった傾向だ。無論、傾向なので、たまに小柄な地竜や巨大な飛竜もいるそうだ。
「さあ、みんな。乗った乗った!」
メイド62名を載せ、俺たちも乗る。
「目的地はわかるよな?」
「アア、ツタワッタ。」
テイムした魔物は主人の思考をある程度汲むことができるらしい。それにより、戦闘中も連携が可能なんだとか。
「よし、じゃあ行こうか。」
なお、ジャグラヴィーンの全力ダッシュで王国が大騒ぎになったのは言うまでもない。




