諜報、ついでに宣戦
ちょっとゴリ押しました。ごめんなさい。
視点:デスペラート(ラート)
さて、吸血鬼城という目標(趣味8割)を達成したことだし、そろそろディアケントに喧嘩を売ってもいいかもしれない。魔王らしいことをしないとね。
しかし、戦争には理由が必要だ。理由なき戦争はただの侵略でしかない。・・・魔王ならそれでもいい気はするが、何か嫌なので却下。
というわけで、まずは国を見に行くことにしよう。そしたらアリスに出発の準備とかさせないとな・・・。
「よし、ニンベルグ。ちょっと出かけてくる。」
「ど、どちらへ・・・?」
「これから少しディアケントを覗いてくる。それと、俺が内情調査を終えたらアリスに王城で宣戦布告してもらうから、中に入り込むための準備を頼む。」
「準備・・・ですか?」
「ああ・・・なんかこう、激闘の末勝利したみたいな感じにして、特に意味のない、綺麗なだけのお宝でも持たせておけ。馬はバイコーンを。四日くらいで戻ってくるから、それまでに。」
「かしこまりました。」
「んじゃ、いってくる」
バイコーンを駆り、ディアケント王都へと向かう。遠方から来た旅人ということにして、途中の村村で実情を聞いて回った。
4日かけて集めた情報から察するに、この国の実情は凄惨たるもので、お世辞にも治安が良い、安定しているとは言い難い国だ。
「とんでもない国だな、こりゃ・・・」
街道には盗賊がはびこり、表通り以外は犯罪の温床、騎士団も犯罪者と癒着し使い物にならず、国王への陳情書も聞き届けられたためしがない。
「・・・よぉし、帰ろっと」
適当な村まで情報収集をしたところで切り上げる。もう真夜中だ。本当なら、こんな時間に出歩くのはやめておきたいが、長居するのはもっと嫌なのでさっさと帰ることにする。まっすぐ帰れば数時間で遺跡に到着できる。
王都にほど近い、最後に立ち寄った村を出ようと、村の中央の大きな道を歩いていると、ふと、路地裏から腹の底から嫌悪感が湧いてくるような嫌な空気が立ち込めてきた気がした。
とても、嫌な感じがする。だが、俺は、気のせいだという確証を得るため、路地裏に足を踏み入れる。
「んな・・・!」
そこでは、まだ年端もいかない幼気な獣人族の少女が、5,6人の男に囲まれ、今まさに犯されようかというところであった。それを目の当たりにした瞬間、堪えられない怒りがこみ上げた。
「この、下郎共があぁぁぁぁっ!」
インテグラルを抜き、反応する暇も与えずに男たちの首を一人残らず切り裂く。切り裂いてから、はっと気付いた。
「あ、やば、見られた。」
魔法こそ使わなかったが、インテグラルのような刀という分類の武器はこの世界には存在せず、見られるのはあまりよろしくない。
「・・・」
縛られていた少女を見る。先ほどの男たちが布を口に詰めていたので、声こそ上げていないが、今にも泣き出しそうであった。
「とりあえず、ステータス・・・」
ここで声を上げられると非常にまずいので、申し訳ないが、クツワは放置。
ニア 獣人族(狼) 17歳 ♀
レベル12
HP124
MP423
STR211
DEF121
INT 320
POW 534
DEX 331
スキル
半人半狼(嗅覚、聴覚が強化され、運動能力が向上する)
炎魔法Lv2(中級までの炎魔法の扱い)
剣術Lv1(初級程度の剣技。特定の流派には属していない。)
なんということだろう、溢れんばかりの魔法適性。見た目がおとなしめなので生活系スキルが多いかと思ったが、バリバリの戦闘系であった。
「あれ、じゃあなんで・・・」
こんなことになっているのだろう?と思ったが、足元には大量の麻痺札があった。麻痺札とは、トラップの一種で、ただの紙なのに踏むと麻痺する。各種状態異常耐性のお守りで防御可能。狩りに有用なので市販されるが、悪用もできるので、販売については賛否両論である・・・ってナリアからこの前教わったな。
「こりゃラッキー。未使用のやつはもらって帰ろう。」
そのへんにばらまかれている麻痺札を拾っていく。ん?俺に効かないのかって?麻痺る魔王がいてたまるか。
拾い物をすること5分。
「ふう、大量大量。」
俺の両手には20枚ほどの麻痺札が握られている。・・・あれ、何か忘れて・・・
「ムグッ!ムグゥッ!」
あ、そうだ。ニアちゃん忘れてた。
「おおっと、ごめんごめん、忘れてた。」
「ン~~~~~ッ!?」
すごい涙目でこっちを見てくるニア。
「んーと、ちょっとすまないけど・・・あ、私にいいアイデアがある。『サイレス』」
沈黙を付与する魔法をかけ、沈黙状態にする。沈黙状態は魔法が使えないだけでなく、会話も不可能になるので、こういう場合はわりと有用。
「しゃべれないが、まあ、これを外せるからいいだろう」
俺はニアの口をふさいでいた布を引き抜く。ニアは苦しそうに肩で息をしていた。
「そんな格好じゃ寒いか。」
俺は身につけていたマントをかぶせてやる。
「さて、俺が勝手にやったことで申し訳ないのだが、このまま返すわけにはいかない。というわけで。」
ニアを担ぎ上げ、呼んでおいたバイコーンに跨る。ニアは反抗する様子も見せず、おとなしくしていた。
「よしよし、いい子だ。まあ、悪いようにはしないから心配なさんな。」
そのまま俺は全速力で村から脱出した。
「ふぅ、このへんでいいだろ。」
近くにあった森の一番奥の方までバイコーンで駆け込んだ。
「さてと、『レジスト』。」
レジストは、魔力により対象の抵抗力を高め、状態異常を回復する魔法。
「・・・あの、あ、ありがとうございます!」
沈黙を解除するやいなや、ジャンピング土下座からの謝礼が飛んできた。(マント一枚)
「・・・あー、顔を上げて?これから俺の拠点に連れて行くけどいいかな?」
「はい、もう腹はくくっております。・・・やさしく、お願いしますよ?」
「ちょっと待て。いったい俺が何をすると言うんだ。」
「人気のない物置小屋であんなことやこんなことを」
「しないわ!」
断じてせぬぞ。いただくときはきっちり段階を踏んで布団の上でだな・・・って、何を考えているんだ俺は。
「まあ、さっきも言ったが悪いようにはしない。ちょっとこれから忙しいから、しばらく留守にするけど、まあ、他の配下もいるから、何かあったらそいつらに言ってくれ。」
「は、はい」
「さて、俺としては、素っ裸の少女を馬に乗せて帰るのは非常に心が重い。から、まあ、これで我慢してくれ。」
重力魔法「ガレージスペース」。いわゆるアイテムボックス。魔力量に応じて容積は大きくなる。俺の場合、タンカーなんかよりもっと大きな容積があるみたいだ。なお、整理整頓は中に入って自分でやらないといけない。めんどい。
そこからぱぱっと冒険者的な服を出してニアに着せてやる。
「すごいですね、高位の重力魔法が使えるのに、剣術も扱えるのですから。」
「んー、そのへんはよくわかんねえや。」
俺この世界の相場の強さ知らねえもん。
「さて、とりあえず自己紹介だな。俺はデスペラート。ちょっとわけありで魔王やってる。」
「ま、魔王・・・!?」
あわあわ言い出したニアを落ち着けるのに数分を要した。
「ご、ごめんなさい、取り乱しちゃって・・・。」
「いや、いいんだ。」
心なしか、耳と尻尾がしゅんってなってる。
「わ、私はニアって言います。狼人族です。鼻と火魔法には少し自信があります。あとは家事全般もある程度はできます。」
家事とか生活に関するものはスキルに記されないようだ。
しかし、家事に関してはうちには完璧超人がいるので、何ら問題はないのだが。
「まあ、そろそろ行くぞ。・・・っとそうだ。」
ルーツも呼び戻しておかないとな。俺がいちいちアッチに行くと宴会が始まるので、手紙をこうしてこうやって・・・
折り紙すること数分、そこには、紙でできたF-22ラプターが。2005年就役の米軍機。一説によると、世界最強とか何とか。
「さあ、行きなさい!」
ペーパーラプターは、魔力によって無音で飛び立っていった。
それを見たニアは唖然としていた。
「さ、行こうか。」
俺はバイコーンにニアを載せ、その後ろにまたがる。
「飛ばすから気をつけろよ?」
「はい?」
手綱をもち、一言「走れ」というと、バイコーンは勢いよく走りだした。
「うわぁぁぁぁぁあぁぁ!?」
森の中に、ニアの悲鳴が響き渡った。
疾風の如く駆け抜けること十分余り、トラッツ遺跡に帰り着く。
「さてと、管理者権限発動!」
奥に行くのがめんどくさいので、ワープを使って一気にゲートの前まで飛んだ。
「!?なにが、どうなって・・・」
「考えなくていいよ。俺も原理は分かんないし。」
たぶん、あの誘拐犯なら知ってるが、知らなくても使えるからいいかな。
「さて、このゲートをくぐると」
ニアはギュッと目を閉じて、俺にしがみついている。
「あっというまに管理者区画というわけだ。」
どこかのアスパラのような解説をしながら奥へと案内していく。
「さて、ここが君の部屋だ。中のものは好きに使ってくれ。腹が減ったら、その辺のやつを捕まえて頼めば何から食わせてくれるはずだ。」
「は、はい・・・」
「君のことは、まあ、あとでみんなに紹介するよ。俺が呼びに来るまでしっかり休むといい。」
「あ、あの!」
「まだ何かあるか?」
「その、一人、探してほしい人がいるんです。」
尋ね人ねえ。
「どんな人?」
「歳は私と同じくらいの、エルフで、メガネをかけてるながい銀髪のテラっていう少女です。絶望的に胸がないのが特徴です。」
「場所の検討は?」
「王城の中にいると思います。王家の人が奴隷として買ったそうですから。」
「やけに詳しいな?」
「いろいろ、頑張って集めたんです。」
「そうか。」
「あの、やっぱり、ダメ・・・ですか?」
「いや、いいよ。」
「そう、ですか・・・よかった。」
そういうと、彼女はすやぁっと寝てしまった。
「やれやれ、自分よりよほど心配だったんだな。」
まあ、俺も人のこと言えないか。
「さて、アリスはどうなってるかな。」
side:アリス 魔王に落ちた勇者
ラートが出かけている間のこと。
「お、お姉さま・・・この格好は・・・は、恥ずかしいです・・・」
私はボロボロになって所々破れている服を着せられていた。なんでも、私が激戦の末、魔王様に勝利したフリをして、王都を凱旋し、王城の内部に侵入するのが目的なんだとか。
「いや、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ、アリスちゃん。とっても魅力的だから・・・」
お姉さまは、息を荒げながらそう言ってきた。
「え、そ、そう、ですか?似合ってますか?」
「うん、とっても素敵よ・・・襲いかかっちゃいたいくらいに」
「えへへ」
褒められた(?)私は嬉しくなって笑ってしまった。
「んー、そろそろ魔王様も帰ってくるだろうから、はい、これ。返しておくわね」
お姉さまは木の箱を私に渡してきた。何か貸しただろうか。
「?」
箱を開けると、なかにはブリッツストームとブレイブブリンガーが入っていた。
「これ・・・」
「ふふ、こっちで預かっている間に、魔王様が改良を施してくださったわ。出力が以前の数倍まで跳ね上がってるから、気をつけてね?」
「はい、ありがとうございます。」
「お礼なら魔王様に行って差し上げて。あの人、意外と女の子に弱いみたいだし。」
「はい!」
ふふ、これは使うのが楽しみだなぁ・・・。私は期待を胸に、出かける支度を始めた。
side:ルーツ
昼頃。私はいつものようにバッカスさんと剣の稽古をしていました。
「ふん、はぁっ!」
「むん!せやぁっ!」
ステータスを制限する魔法でバッカスさんと同水準までステータスを落として稽古しているので、速すぎて見えないなんてことはありません。
「はぁ!てやぁ!」
「とりゃぁ!」
そろそろ調子が上がってくるかなというところで、上空から紙でできた鳥が舞い降りてきました。
「な、なんじゃ・・・?」
「なんでしょう」
その鳥は私の手元に着地すると、パサリと解けて一枚の手紙になりました。
「手紙・・・?」
『ルーツへ ちょっと用事があるので、こちら側へ一度来ること。あと、ニンベルグを城に連れて行って紹介して。 魔王』
「どうした?」
「いえ、ちょっとお呼び出しですね。魔王様から。」
「おう、行ってらっしゃい!」
「あと、向こう側にいる人を一人紹介させていただきますね。」
城の奥、宝物殿の一番奥にある箱の中にある隠し扉を開け、ゲートに向かいます。
「なんでこんな奥にしまい込んでいるんでしょうか?」
いつも訓練しているのは中庭。でも自室は向こう側(魔王城)にあるから、私物や寝床は全部向こうなのです。
まあ、我らが魔王様のことです。きっと何か深いお考えがあるのでしょう。
そうこうしているうちに魔王城を経由して、トラッツ遺跡に到着しました。
「ニンベルグさーん、ちょっといいですk」
ニンベルグさんを探して歩いていると、衣装室でアリスさんを脱がせているニンベルグさんが。
「あ、ルーツちゃん。何かご用?」
「い、いえ、し、失礼しました!」
なにか見てはいけないものを見てしまった気がする。
「ああ、待って!これは準備なの!魔王様の作戦の準備!」
「・・・本当ですか・・・?」
だってこの人、そっちのケがあるから・・・
まあでも、魔王様を言い訳にするはずないので、信用することにします。
「魔王様から、私の城に捕獲している人に紹介するように言われました。」
「お城・・・?ああ、亡国のあれね。」
「はい、魔王様曰く、『経験をつめ~』とかなんとか。」
「わかったわ。こっちが終わったら行くわ。」
「はい、お願いします。」
「お、おねえさま・・・寒いです・・・」
要件を伝え、私は部屋に戻った。
「ふぅ、疲れた~」
「おう、お疲れさん」
魔王様は私を労ってくださいました。ありがたいです。
「はい、ありがとうございまs・・・ひゃぁ!?」
いやいやいや、なんでこんなところにいるの!?
「ま、魔王様!?」
「用事があるって言ったろ?あれ、手紙届かなかった?」
「い、いえ、読ませていただきました!」
「そう、なら手短に話すよ。今から戦争を仕掛ける。アリスには宣戦布告に行ってもらう。そして、相手が激おこして攻め込んだところを一網打尽というわけだあ。」
魔王様ってちょいちょい口調が変わるんですよね、なんででしょうか。
「で、アリスはもう準備できてるみたいし、ルーツは顔出しの終わったニンベルグとともに前線で戦ってもらう。真祖がどこまでできるのか、見せてもらうのも目的の一つだから、加減なしで暴れていいよ。」
「はい。」
加減なしのお墨付きがでて、わくわくしていると、魔王様は「アリスのとこにもいかないと」とか言ってそそくさと(窓から)出て行ってしまいました。なんでドアから出ないんでしょうか。
「準備とはいっても、物は食べなくても生きていけるし、武器は形状が非物質だから手入れしなくてもいいし、やることないなあ。」
まあ、ゆっくりして、体調を整えておこう。
Side:デスペラート
衣装室に入ると、アリスはぼろぼろの鎧を着ていた。
「お、いい感じじゃないか。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ニンベルグは自分の仕事が褒められると口と顔に出やすい。あからさまに嬉しそうだ。
「あ、あの、すごい、恥ずかしいです・・・」
まあ、そりゃ、ところどころ破けてるもんね。しょうがない。
「さて、早速行けるか?アリス。」
「問題ございません。」
「よし、では頼む。」
アリスを窓の外にいたバイコーンに乗せ、敬礼をして見送る。
「がんばりまぁぁぁぁす」
アリスは手を振りながらそう叫びつつ、超高速で遠のいて行った。
「・・・一応監視員出すか。」
石ころを魔法生物化し、アリスの後を追わせた。
三日後。
石ころ(命名:ストン)の意思疎通用に魔法を付与した石板を置いてある。すると、そこから報告が来た。
『申し上げます!王城へ向かった勇者が、監獄にとらわれた模様!』
ほう、愚かな奴らだ。エイワスが何もしてないと楽でいいが。
「何ぃ!?」
驚くそぶりをしつつ、俺は表情が緩むのを止められなかった。だって、合法的に暴れ放題だもん。
「さてと、行きますよ、ニンベルグさん、ルーツさん。」
「魔王様、どうして口調が変わるのですか?」
「持病、かな」
病名はネタを挟まないと死んじゃう病です。
次回、ラート君大暴れ。




