表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変人達と奇妙な話  作者: NAAA
本編
1/17

豚と女

興味のある方は見てください。決してきもちのいいものではありません。豚と女の奇妙な話。


「あら、今日も来たの?一也くんだっけ」


「…………あなたはなぜいつもこんな所にいるんですか?」


 あなたはいつも、そこにいる。僕は彼女の名前を知らない。だから呼ぶ時は「あなた」と呼ぶしかない。彼女は美人だ。僕が今まで出会った誰よりも。

 ここにいるのは僕と彼女と


 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ

 

 たくさんの、豚である。


「なぜここにいるかって?一也くんは愛してる人とずっと一緒にいたいと思わないの?」


「…………ここには、豚しかいないじゃないですか」


「そうよ、私は豚を愛しているの。何もおかしいことはないじゃない」

 

「…………」


 豚とは本来醜いもの。雑食であるがゆえ、悪食、意地汚いと思われている。日本ではこのイメージが宗教的、文学的に増幅されたのか悪口として一般的に使われている。


「豚は美しいわ。勇敢でもある。欲望に忠実だし頭もいい」


 彼女は続けて言う。


「その点人間は醜いわ。欲望があるのにそれを隠すんだもの。それなのに感情を制御できない」


「あなたはここで何をしているんですか?」


「愛し合っているのよ。彼らに求められれば私は身体すら捧げるわ。これは清く正しいことよ」


「それって…………」


 言葉が続かない。


「いい、一也くん。ここにくるのは勝手だけど私と彼らの愛だけは壊さないで」


「…………失礼します」


 僕は逃げるように立ち去った。

 

 



 次の日、僕は思い切って友人に彼女のことを話してみることにした。


「なに? 豚小屋に変な女がいるって?」


「そうなんだ……彼女が言っていることはまったく理解できない…………ただ、美人だ」


「変人なのに美人なのか? それは興味湧くなー。よし! 今日は俺も連れていけ!」


「でも…………」


「大丈夫だって。俺は外で見てるから」


「うん…………わかった」


 そうして僕と友人は豚小屋へと向かった。


「じゃあここで待ってて。絶対入ってこないでよ」


「分かってるって。ほら、早くいけよ」

 

 友人にうながされ僕は豚小屋の中へと入る。彼女は今日もそこにいた。ただ、いつもと違うのは…………


「どうして豚と同じ柵の中に入っているんですか…………」


「…………」


 彼女は答えてくれない。豚の鳴き声だけが響きわたる。


 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ


「おーい、一也。どこにもそんな女いないじゃねーか」


 僕は驚いて振り返る。

 

「バカ! 入ってくんなって言っただろ!!」


「は? だって豚しかいねーじゃん」


「いや、そこにいるだろ!」


「…………お前頭いかれたか?」


「いや、だってそこに!!」


 僕は振り返る。確かに彼女はそこにいた。


 …………見えていない?いや、豚に見えてるのか?


「ごめん、先に帰ってくれ…………」


「お前大丈夫か? なんか変だし」


「大丈夫だから」


「…………分かった」


 友人は少し気味悪そうに僕を一瞥して、帰っていった。


 彼女はそこにいる。僕を見て微笑んでいる。


「あなたは…………いったい…………」


 彼女は答えない。微笑みを絶やさず僕を見つめてくる。その姿はなんと美しく、幸せそうだろう。


 

 彼女は確かにそこにいる。少なくとも僕にとっては…………






 豚の鳴き声が聞こえる







 ンゴ、ブヒ、ンゴンゴンゴ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ