悪魔 ~エリー~
「ちょっと出かけてくるから大人しくしてなさいよ!」
「わ、分かった。行ってらっしゃい」
弟にそれだけ告げて家から出る。薄暗いコンクリートで出来た階段と壁は蒸し暑い夏のよるにもかかわらずひんやりと空気を冷やしてくれる。そんな冷たい夜の階段を私は降りる。エリーが本物の悪魔であるという証明をするためだ。本来だったらこの時間はお風呂に入ってパソコンで適当に動画を見て寝るんだけどわざわざ外に出ているのはエリーのどうしてものお願いだったからだ。「お願いします!魔女さん!私が悪魔だという証拠を見てほしいんです!」っと泣きつかれた。正直、そういうのに弱い。さらにそこに「お願いします!お姉さん!」っと言われてしまったらもう無理だ。その後に「魔女でもなくてお姉さんでもなくてお姉ちゃんと呼びなさい」っと言ったのは暗黙の了解だ。
団地の建物に挟まれたところに公園がある。周りを苗木で囲まれて建物の中からは公園内部を見るのは難しい死角の場所だ。あそこなら大丈夫っと言うことで夜の公園に赴いている。
「手短に終わらせてよね」
「分かってますよ。お姉ちゃん」
ああ、この響き・・・・・いい!
公園は中心以街灯があるだけで後は明かりがない。月は雲に隠れて姿を現していないので公園は暗いままだ。こういう公園では発情したカップルとかがいちゃいちゃしている可能性がある。前にここを夜に通った時にもろに出くわした。健全に子供たちが遊ぶような滑り台の上で何をやっているんだって。
思い出したくないことを思い出してしまった。非リア充な自分には辛い思い出だ。
「お姉ちゃん」
「な~に~?」
あくびをかみ殺しながら答える。
「お姉ちゃんは悪魔と死神の存在を信じてますか?」
「まさか」
そんなわけないじゃん。
「ちなみに神様も天使も私は信じてないわよ。あのバカ弟の妄想には付き合ってられるのは上辺だけよ」
実際はほとんど聞き流してるし。
「真実だけを言うとお姉ちゃんが言うことはすべて間違っています。悪魔も死神も神様も天使も存在します。見えていないだけなんですよ」
「なら、なんで私にはあんたが見えてるのよ?魔女魔女ってあのバカ弟に言われてるけど、私も普通の人よ」
「そうなんですよ。本来ならばお姉ちゃんは私たちを見ることはできない。でも、見えるということは何らかの魔界とのつながりが考えられます」
「魔界とのつながり?あのバカ弟?でも、あれは偽物よ。そういう設定で生きてるのよ。設定が無かったらただの中学生男子だから」
「そうとも限りません。デスキャンサーが・・・・・弟さんが書いた魔方陣の書かれた消毒薬で私の傷は癒えました。あれはおそらく魔界特有のものです。お姉ちゃんの家中のものを拝見させていただきました」
何勝手に物色してるのよ。
「消毒薬もそうでしたが水にも部屋の扉にも傘にも鍋にも皿にもリンゴにもお菓子にもテレビにも携帯電話にも家中の物のほとんどに魔力が込められた魔方陣が張られていました。直接書かれたもの中にはありましたが」
あのバカ弟、私の見ていないところで家中に五芒星の書いたメモ帳を張りまくったな。お仕置き確定ね。
「あれは人間界の物が出来るはずがありません。あのデスキャンサーはあなたの弟じゃない可能性が高いです」
「そんなわけないでしょ」
「そう言うと思いました」
お、素直じゃない。
「でも、これを見て私の言ったことが100%嘘ではないことが証明されます」
そう言うとそれに合わせてくれたかのように雲に隠れていた月が顔を出してエリーを照らす。眼をつぶり鉄の棒を両手で持つ。すると付きの明かりが照らすうっすらと待っている蒸気が集まって淡い光を発する。それがエリーの持つ鉄の棒に集まっていく。再び月が雲に隠れると集まっていた蒸気の淡い光が見えなくなる。不思議な光景だった気がする。月はすぐに雲の隙間から顔を出した。
そして、私が自分の眼を疑った。淡い光を発していた蒸気が鉄の棒の先に集まって形を成していた。棒は淡く光る蒸気を合わせれば倍以上の長さになり、その先には三日月を半分にした形をした巨大な刃が形成されていた。蒸気にしてはあまりにも鮮明でリアルすぎた。
「・・・・・・は、はぁ?」
私は理解に苦しんだ。あまりにも中二病の弟といっしょにいたせいで私にも中二病がうつってしまったようだ。見えないものが見えてしまっている。エリーの持つ棒は確かに棒だ。それから先には元々刃があることが当たり前だったかのようにある。
「どうです?」
エリーは勝ち誇ったような表情を浮かべて鎌を振り回す。
「これは本物ですよ」
「そ、そんなわけないでしょ!た、確か蒸気は映画とかの映像を映すスクリーンのようにプロジェクターの映像を映すことができるのよ!きっと、どこかにプロジェクターがあるんじゃないの!」
私は周りを見渡す。でも、私は気付いていた。プロジェクターは機械のレンズから投射される。だったら、どこかから光が鎌に向かって垂らすように伸びているはずだ。でも、それがない。
「これを見たらもうお姉ちゃんは信じるしかありません」
「な、何を?」
「私が本物の悪魔であることを」
エリーは落ちていた石ころを拾って私に渡してくる。それは本当に何の変哲もないただの石ころだ。
「それをこっちに投げてみてください」
エリーは鎌を構える。
私は息を飲んで石ころをふわりと下投げでエリーの方に投げるとエリーの構えた鎌は目にも止まらない速さで振りぬかれて私の投げた石ころは真っ二つに切断された。そして、重力に従って地面に落ちる。
「は?」
私はすぐさま真っ二つに斬られた石ころを拾う。それは包丁で野菜を切ったようなでこぼこのない切り口だった。こんな小さな石をふたつにするようなことがこんな大きな鎌にできるはずがない。それに鎌は映像で物体を持たない。物理的に無理だ。この石もきっと最初に仕込んだものに違いない。
私は適当にその辺に落ちている石を拾って同じようにエリーに向かって下投げすると察したように鎌を振り回して石を真っ二つにした。
「嘘だ!そんなわけない!」
今度は真っ二つにしたばかり石を投げるとそれを簡単に鎌で二つに斬り裂く。
「どういうことなのよ!そんな蒸気の映像で出来た鎌なんかで石みたいな固いものを斬れるはずがないでしょ!」
現実を認めたくない私は最後の手段に出る。私の予想通りだったら鎌は触れることができないはずだ。でも、鎌は私の手をすり抜けることなく触れることが出来た。見た目通りのどっしりとした冷たい鉄の感触が私の手のひらに伝わってくる。それが怖くて思わず手を離してしまった。
困惑してしまって頭が整理できない。もしかして、私も中二病にかかってしまったのか?だから、本来は触れることのできないものに触れることが出来てしまったとか?きっとそだ。でも、現状を整理するとこれが偽物であることを証明できるとしたらここが夢の中であることくらいしか分からない。でも、これはどう考えても現実だ。
「何よ・・・・これ?何の一体?」
困惑する中、エリーは黙って私を見つめる。
「あんたは何なの?」
私の質問にエリーは冷静に答える。
「私は悪魔です」