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カレーを食べろ

「この太陽の化身より発せられる眩い光線の影響でこの世界の外気は温められて人の生命を脅かすほどの威力を発している。そんなこの時期に人は小さな知恵を絞り集めてこの暑さを耐えしのぐ術を導き出した。そう!それがカレーだ!」

「黙って食べろ」

 そう言うと弟は大人しく席に着いて好物のカレーを食べ始める。

「なるほど。これが人間たちの知恵の集まりなのか」

「あんたも黙って食べなさい!」

 エリーにもそう注意すると黙ってカレーを食べ出した。

 こういう種族は何でもかんでもめんどくさい設定を作ってはそれを話したがるのだ。このバカ弟はそれを私に話したがるのだ。理由としては他に相手がいないからだ。両親はこんな弟のめんどくさい設定をほぼ無視している。「そのうちバカバカしいことに自分で気づいて止めるよ」っと言っている。そんな生半可な物じゃない気がする。

 基本的にご飯を食べている時はニュースを流している。これは私の独断だ。適当にバラエティー番組を垂れ流していると弟がその番組にくぎ漬けになってしまい、食べこぼすわ食べるのが遅くなるわと大迷惑なのだ。ニュースなら得そんなものを気にする必要性はない。

「うむ。路地で起きた殺人事件。これは間違いなく魔界の者の仕業だ」

 こんな適当なことを抜かすだけだから大丈夫。

「な、なんでそのことを!」

 あんたはいちいちのっかかかるな。

「この人間界の者たちに対して魔界の力を安易に使用してはならない。それは三界のバランスを崩す要因になってしまう。人間とは至極弱い存在だ。そんな弱い存在に対して魔界の力は強すぎる。人を圧倒言う間に絶滅させてしまう」

「その通りですよ。そのためにもこの世界に逃げ込んだ死神を捕らえなければならない。これ以上の世界の悪い状況を変えなければならない」

「そうかもしれない。だが、我々死神にはこの世界以外で生きる道がない」

「・・・・・それはどういうことですか?」

 鋭い目線をエリーは弟に送る。

「三界は俺たち死神を悪の存在、負の存在として捕らえている。だが、その捕らえられた死神はどうなっているのか分からない。世界の負の循環となっている死神を捕らえてどうするのかは明確だ」

「当たり前じゃないですか!死神のせいで魂の循環は大きくずれて人間の魂の安らぎがどこにもない情勢が続きすぎた。本来は安らぎを受けるべきの魂も行くべきところを失い、霊としてこの世界を大いに騒がせた。それはよくない循環です!それを崩したのは誰でもない!死神ですよ!」

「だが、俺たちの仕事は悪の魂の処理だ。その悪の魂が減ってきたこの現状で俺たちの仕事は激減してひもじい生活を強いられていた!」

「そんなことばかり考えているからそうなるんですよ!私たち悪魔のように神界と天界の力になるようなことをすればやれることはたくさんありましたよ。ひもじい思いはしなくて済んだ。死神の考え方が古すぎたんですよ!」

 緊迫したような空気が流れるけど、設定が重なっているからこうも会話がちゃんと成り立つんだって思う。止めようとも思ったけどそれはそれでめんどくさそうな気がしたので無視してカレーを黙々と食べる。

「貴様悪魔だな?」

「あなた死神ですね?」

 椅子を倒してふたりは大きく後方に下がる。弟はエアガンを取り出してエリーに向ける。対してエリーは鉄の棒を構える。

「まさか、こんな隠れ家にまで悪魔の追手に出くわすとは俺も平和ボケしたものだ」

 あんたはただエリーのエロい格好に誘われただけだろ。

「やはりあの黒い銃はダーク・エフェクトリー・ガンでしたか」

 ただのエアガンだよ。

「貴様!名前は!」

「エリーと言います。あなたは?」

「魔剣士デスキャンサーだ」

「魔剣士!」

 その単語を聞いた瞬間、エリーの顔色が青ざめる。

「まさか、人間界に来てすぐに二人も上級死神に出会うなんて運がいいのやら悪いのやら」

 私は確実にあんたら二人を引き合わせた時点で運が悪いなって思う。

「その背に背負うのは魔剣ダークソードですね」

「よく知っているな。さすが、俺たちを追う者だ。悪魔のように魔力が高く再生能力に長ける者に対して魔力を斬るこの剣は非常に有効だ」

 そういえば、エリーは同じような魔剣で腕を斬られて自慢の再生能力が衰えたのだと言っていた気がする。そのせいで傷口からの血が止まらなかったとか言ってた気がする。

「私たちもその魔剣を持つような死神に対抗する手段を手に入れました」

「だが、使える状況ではなかろう」

「くっ!」

「ならば、ダークソードを使うまでもない。このダーク・エフェクトリー・ガンで充分だ!」

「その程度の武器ならば、力を失ったこの鎌でも!

「バンバン!」

 弟が銃から魔力の弾を発砲する音を自分の口で言う。

 エリーは身をひるがえしてその弾を避けているのだろう。エアガンの銃口からは何も出ないから一体何をしているのかバカバカしく見える。

 身をひるがえしたエリーはソファーの陰に身を潜めて弟がうち続けるダーク・エフェクトリー・ガンの銃弾の雨から逃れているつもりなのだろう。

「ダーク・エフェクトリー・ガンにしては威力が違いすぎる!」

「当たり前だ!俺は魔剣士だ!魔力の量はそこらの死神と比べられては困るぞ!バンバン!バンバン!」

 銃を撃つ効果音を自分の口から言っている時点で何やってんのかな~って思う。カレーを食べ終わって辛味でいっぱいの口の中に冷たい水を流し込む。

「ならば!仕方ない!まだ、魔力の回復が十分ではないけどやるしかない!」

 ソファーに隠れたエリーが眼を閉じて鉄の棒をぎゅっと握りしめる。

「よし!行くぞ!」

 弟はまだバンバンと声を出して銃を撃っている。その見えない弾丸を避けるようにソファーから大きく横に飛んで壁を蹴ってジグザグに動いて弾丸を避けながら弟との距離感を詰めようとしている。私から見れば何も出ない黒い銃を構えてバンバン言っている弟に向かって飛び避けたり転がったり無駄なアクションをこなしながら近づこうとしているエリーの姿が痛々しく思う。

 振りかざす鉄の棒の攻撃を弟は飛び退いてかわす。かわされた鉄の棒はそのまま弟が座っていた椅子に直撃して背もたれが壊れる。飛び退いた弟はキッチンそばに置いてあった花瓶を落として割る。

「交わされただと!」

「ハハハ!その程度の攻撃で俺に傷をつけられとでも思ったのか!」

「まだ、魔力の回復が不十分だ。それに鎌を破壊されたこともかなり大きい」

「そんな言い訳をしても無駄だ!このダークソードがあれば貴様など瞬殺だ!」

「その魔剣を抜く前にあなたを捕まえる!デスキャンサー!」

「やってみろ!エリー!」

「いい加減にしなさい」

 私のドスの利いた低い声にふたりは肩をびくつかせて動きを止めてガクガクとブリキの人形みたいにゆっくりと私の方を見る。

「何が魔剣よ、鎌よ、死神よ、悪魔よ!そんなのは一切どうでもいいわ。ただ」

 私は立ちあがる。

「家の中で暴れない!物を振り回さない!物を壊さない!今はご飯中でしょ!大人しくご飯を食べなさい!さもない!貴様らベランダに縛って一晩拘束するぞ!その魔剣と鎌も全部壊して明日ゴミに出すぞ!」

「い、いや、この鎌は神と天から授かった」

「そんなものはどうもいい!」

「お、お姉ちゃん落ち着いてこの魔剣がないと悪魔に勝てない」

「どんなものはどうもいいって言ってるでしょ!」

 びくびくと怯えるふたり。

「捨てられたくないのなら大人しく座ってカレーを食べろ!」

「は、はい!ごめんなさい!魔女さん!」

「ご、ごめん!お姉ちゃん!」

 ふたりは慌てて椅子に座って食べかけのカレーを食べ始める。

 私は沸騰した頭を冷やすために冷蔵庫の中にある水を求めてキッチンまで行く。

 その時、チラッと聞こえたふたりの会話。

「ま、魔女さん恐ろしい」

「魔界に君臨したら誰も逆らえない」

「た、確かに」

「怖すぎる」

「黙って食べなさい」

「「は、はい!」」

 それから私に怒られ過ぎた弟はカレーを食べた後、私の命令通りお皿を水につけて冷やし大人しく部屋に戻って行った。

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