きつい
「さすがにきつい」
買い物袋と人一人抱えて階段で3階まで昇るのはきつい。私のようなか弱いただの女子高生にはきつすぎる。背負われた黒い人はぐったりとしたままだ。本当に連れてきてしまってよかったのだろうかと不安になる。でも、私はどうしてもこういう感じの人をほおっておけない性質なのだ。他には困っている人とか弟のような子犬のような世話がかかる子とか。
防火扉を開けて家に中に入る。
「ただいま~」
玄関には黒ブーツが置かれている。遊びに行った弟がどうやらもう帰ってきているようだ。なら、都合がいいかもしれない。
「ああっと!」
足がもつれて倒れそうになって思わず声が出てしまった。ガタガタと大きな音を立てて靴箱から靴が崩れ落ちる。買い物袋は落としてしまったけど、倒れないように壁に手を付いて何とか態勢を保った。でも、腰が変な方向にねじれているみたいで腰が痛い。倒れそう。
すると反応してリビングの扉から剣を構えた弟が姿を現した。
「貴様はもしや俺を追い捕らえに来た悪魔だな!」
「そんなわけないでしょ!見てないで助けなさい!」
「は、はい」
私がマジで怒っていると気付いたらしく大人しく剣を背中の鞘に仕舞って倒れそうな私の補助に入ってくれる。何とか倒れない玄関に腰かけることが出来た。散乱した靴は後で元に戻すとして。
「お姉ちゃん。この人だ・・・・・。この者は誰だ?もしや、俺と同じ死神か?」
今、普通に設定忘れて素が出てた。まぁ、素の状態の弟は普通にかわいい弟なのだ。こんな中二病設定がなければいいのになといつも素の弟が出てきたときは思う。
「知らない。でも、怪我してるみたいなの。救急箱が食器棚の上にあったと思うからお願いできる」
「同じ死神の危機となれば承知!」
一度怒られたせいで妙に素直になった。中二病の設定はそのままだけど。
買い物袋を手にして再び黒い人を背負ってリビング運ぶ。ソファーに寝かせるとタイミングを見計らったように弟が救急箱を持ってた。
「この箱の中の物すべてに俺が魔力で性能を強化した。その影響で薬の効力は通常の3倍以上になっている。これで同胞を救ってくれ!」
どうも、黒い人の格好から同族と判断したようだ。私の考えは間違っていなかったようだ。
「とにかく、この黒いコートを脱がさないと。こんな季節にこんなコートは暑くないのかしら?」
ちなみに弟も同じように暑そうな格好をしている。
「我ら死神には体温など存在しない」
「あっそ」
なので基本的に弟はこの季節の活動時間を夕方の涼しい時間に限定している。夜は私が外出を禁じているから家で大人しく瞑想しているか魔力を蓄える特訓をしている。
さて、そんなどうでもいい情報は置いて。
こんな暑そうなコートを着ていたら治療もできない。とりあえず脱がそうとコートのボタンをとっていく。その様子を弟も心配そうなまなざしで見つめている。コートの下から見えたのはほっそりとくびれのある白い健康的な肌。そして、黒い下着のようなものでカバーされただけの胸が飛び出してきた。
「え?」
「ふにゃは!」
後者の驚きの声は弟である。
この人はただ中に設定を貫くためにこんなコートで体を覆っていたわけではないようだ。家に住み着いているバカとは違うようだ。それよりも先にだ。
「あんたは隣の部屋で待機!絶対にのぞかない!覗いたらどうなるか分かってるでしょうね!」
「さ、さすがに俺もその程度の約束を破るような死神じゃねーよ!」
そう言いつつもおっぱいガン見じゃねーか。
思春期だから仕方ないにせよ、姉としてこんな過激的な行為を許すわけがない。私がこれだけきつく言っても自分の性欲じゃなくて欲求を・・・・・いっしょだね。とにかく、弟が変な方向に進まないように矯正する必要が姉としてと使命感に駆られている。
「覗いたら神か天の前に突き出すわよ」
「そ、その程度の脅しで俺を言い聞かせることができるとでも?俺にはこのダークソードがあるのだぞ!」
確かにそのダークソードは強そうですね。でも、所詮はただのプラスチック。
「あんたの背負ってるダークソードくらいの力で私をどうにかできると思ってるわけ?」
「それは・・・・・」
「私の切断の魔法があればそんな剣なんかたやすく破壊できるのよ」
切断の魔法というのは要するにはさみとかで切るということだ。
「・・・・・・」
息を飲む弟。
「人間界での自由が欲しければ覗くな!分かったか!」
「命に代えても!」
そのまま走ってリビングから飛び出していき自室の扉がしまる音も確認できた。ここまでやれば大丈夫だろう。たまにはこうやって弟の中二病設定を使ったしつけも私には可能なのだ。
コートを脱がしていくと着ているのは革製の黒い厚めのブラジャーと黒のパンツだけ。見せブラという奴と見せパンという奴だ。こんなほぼ下着姿の格好をして恥ずかしくないのかと同じ女として思う。フードを脱がすと出てきたのは思わず嫉妬してしまう美形の女の子が出てきた。年は弟と同じくらいだろうか。艶やかな黒髪にアヒル口に低い鼻。トンカチで殴って壊したいやりたいとは思わないでおこう。
傷からは未だに血が流れている。きれいなタオルで傷口を押さえて血をふき取ってから救急箱から消毒液を取り出す。青いキャップに白いボトルにはマジックペンで五芒星の魔法陣が描かれていた。
「いつの間にこんなところにまで」
これは私の知らないところで家中の物が弟の魔道具になっている気がする。とにかく、ガーゼに魔方陣に書かれた消毒液をつけて傷口を消毒する。傷口に沁みたのは顔をしかめる。
「少し沁みるけど我慢してね」
そう声をかけて消毒してガーゼで傷口を当てて包帯を巻いてとりあえず処置は完了した。血も消毒するとあまり出てこなくなった。ガーゼで当てて包帯を巻いても血が染み出てこない。
「血が止まったのかな?」
そんな急に止まるようなものなのか分からない。倒れている時もここに連れてくる時も常に流れていた血が適当に消毒をしただけ止まるものなのだろうか。普通止まらなくね?
「それは俺の魔力が込められた薬だ。死神にのみ有効な治療薬だ」
「そうなんだ。で、あんたはなんで自然にリビングに入って来てるの!その背中に背負ってるゴミを本当にゴミにされたいのか!」
怪我を負う女の子に来ていたコートをかぶせてほぼ下着姿の見たいという思春期の欲求を殺そうと弟を追いかけるが必死に逃げる。運動量では弟に勝てる気がしない。
「きついわ」