闇の声
暗く人の気配の感じられない汚い路地。小さなネズミたちが捨てられた生ごみを漁る。そんな暗く薄汚れた路地を全速力で駆ける人影。それに驚いたネズミたちが隠れるために一斉に逃げ出す。そんなネズミたちに目もくれずに走り続ける人影。黒いフードつきのマントに全身を包んでいるせいで体格が分からない。フードのせいで顔も見えない。だが、呼吸を荒く乱しながら全力で走るその人影はまるで何かから逃げているようであった。手には巨大な鎌があった。黒い鎌の刃は路地の隙間から差し込む日差しに銀色に輝く。その刃はまさに本物同然だ。
ゴミの入っている青いポリバケツに激突して中身が散乱するのを気にも留めずに走り続ける人影は後ろを確認しようとすると足がもつれて大きく転倒する。地面に何度かバウンドして転がってようやく止まる。立ち上がろうとしても転倒した痛みに体が言うことを利かない。転倒したせいで手から離れた大きな鎌をとりあえず手の届くところまで這いずって向かう。
「無様だな」
その声にフードの影は動けなくなる。プルプルと震えながら振り返るとそこにいたのは真っ黒な剣を構えたスーツ姿の男がいた。年齢は30代くらい。鋭い目線に堀の深い顔に淵のないメガネをしてオールバックにした黒髪がその力強さを一層強くしている。
「その程度の力で我らを捕まえようなどと1000年早い。貴様はそうやって無様に尻を振って地面に這いつくばっている本来の姿の方がお似合いだ」
真っ黒な剣を這いつくばるフードの影に向ける。フードの影は隙をついて鎌を手に取って男に向かって斬りかかろうとするが、男は真っ黒な剣を使ってその鎌を刃と持ち手を斬り離した。
「その武器は元々我らの武器だ。貴様のような者たちがもつにはふさわしくない」
刃の無くなった鎌はもはやただの鉄の棒だ。
「貴様らのせいで多くの同胞が連れ去れた。どうなったのかは知らないがこれ以上我らを狙おうということならば全力で貴様らを殺す。おそらく、残っている我らの同胞のほとんどは貴様のような下等なものでは捕まえることはできない。そのことをしっかりと上に伝えることだな。最も、貴様はここで死ぬのだがな」
真っ黒な剣を高々と掲げる。そして告げる。
「死ね」
フードの影は持っていた鎌の棒だけでその真っ黒な剣の斬撃に対抗しようとするが抵抗むなしくあっさりと斬り折られて棒は元々の長さの半分くらいの長さになってしまった。だが、その抵抗のおかげで肩を真っ黒な剣がかすっただけで済んだ。それでも血が舞い痛みがフードの影を襲う。それに顔をしかめながらもフードの影は立ち上がり再び路地を逃げる。
「運のいい奴め。だが、この剣によって怪我を負ったものはただでは済まない。貴様も我らと同じ苦しみ。追われる苦しみを味わうがいい。これから貴様狙いに仲間が襲ってくるかもしれない。そんな恐怖におびえ震えるがいい。ハハハ。ハハハ!ファハハハ!」
男の声はまさに悪魔のようだった。フードの影はそんな男の声におびえるように逃げる。どこまで男の声が聞こえなくなるところまで全力で逃げる。