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バイバイ

 死神。生命の死を司る伝説上の神。冥府において魂の管理者とされている。

 悪魔。悪らしく超自然的存在や悪を象徴する超越的な存在。

 どちらも私がネットで調べて出てきたものに過ぎない。死神と悪魔。死神は他にも死を誘導するようなこともするという悪の感じの表現もされているけど、神様でもあるからその表現にはまだ棘が少ない。対して悪魔は悪の象徴だ。神様をも誹謗中傷、要するに神のことを悪く言ったり中傷するようなことをする存在でもある。

 死神は死の先にいるような神様に対して悪魔はただの悪に過ぎない。

 次の日、昨日私たちがいたドンキホーテで起きたことがまるでなかったかのように大事になることはなかった。私は昨日のことがなかったかのように真夏の日差しが差し込んでくるリビングで下着姿で夏休みの宿題をにらめっこしていた。

 弟はいつものように死神の集まりがあると言って出かけて行った。エリーは私のいるリビングで大人しくテレビを見ていた。私の短パンにTシャツというラフな格好をしている。そのラフさが故にスタイルの良さを際立たせている気がする。ムカつく。

「お姉ちゃん」

 テレビを注目したままエリーは私を呼ぶ。

「何よ?」

「お姉ちゃんは魔女なんですか?」

「・・・・・・はぁ?」

 何を今更聞いてんのよ。

「サリエルと対峙した時私はお姉ちゃんから発せられていた魔力が突然弱くなったように見えました」

「ちょっと待ちなさいよ。何?私が魔力を持っているの?」

「・・・・・はい」

 何をキョトンとした顔でこっちを見るのよ。別に私は何も価値がったこと言ってないわよ。

「だって、現に今もお姉ちゃんからは魔力を思わしきオーラが見えます」

「え?」

「さっきまではなかったんですけど、急に出てきました」

 さっきと今の違いってなんかあったっけ?

「とにかく、そんなオーラを出すくらいの魔力があるお姉ちゃんはデスキャンサーが言うように魔女なんですか?本当のところどうなんですか?」

「私は魔女なんかじゃないわよ」

 即答で答えた。

 その答えにエリーは眼を見開いて驚いた。

 いやいや、前々から違うって言っていたはずなんだけど。どうもエリーは自分の都合の悪いこと以外は頭に入らない奴みたいね。まるでどっかのバカ弟といっしょじゃない。

「で、でもですよ。魔力が発せられているんですよ」

「だから、私にはあんたの言う魔力もオーラも見えていないのよ。見えていないものをどうやって使えって言うのよ」

「・・・・・・確かに」

 手に顎を置いて納得をする。エリーは考えるモードに入ったようだ。そうやって正確な結論が導き出されるとも思えない。そもそも、私はエリーの言っていることが100%正しいかどうかも分かっていないのだから。

 サリエルという死神らしい男から感じ取れたのは重圧はきっと殺気だ。こんな普通の女子高生で少しバカで痛々しい弟がいて家事等をほとんどこなすただの姉の私が普段感じ取ることのないものだ。それを殺気だと分かったのはほぼ野生的だ。私の中の野性が死を直感した。だから、咄嗟に棚を崩してサリエルを攻撃して逃げてきた。

 あの場においてはあれで正解だった。あれ以上放置していればエリーはあの黒い剣で殺されていた。私もそうだ。

「お姉ちゃん」

「なによ、もう」

 これ以上死神とか悪魔とかの話は聞きたくない。

「お姉ちゃんは魔法を使えますか?」

「そんなわけないでしょ」

「・・・・・・じゃあ、どうやって魔剣、グラムに斬られた私の傷を治したんですか?」

「それは・・・・・あれよ。救急箱の中に入っていた消毒液をかけたら勝手に傷が治って行ったのよ。あんたも見たでしょ。バカ弟が書いた五芒星の書かれた消毒液」

 エリーは頷いた。

「あれは本物の魔法陣でありますが、実際にあれを発動させるには魔力が必要です。その魔力は一体どこから供給されたのか。デスキャンサーに傷をいやすようなことに魔力を使うような死神ではありません。ですが、お姉ちゃんにはそれがあります」

「ああ、そう」

 なんか聞いているのがバカバカしくなってきた。生ぬるくなってしまった麦茶を一杯飲んで目の前の夏休みの宿題に目を落とす。

「お姉ちゃんは無意識だったかもしれませんが、お姉ちゃんは魔法を使った魔女なんですよ。この人間界において魔力を使えるのは少なからずですが存在します。理由は分かりませんが、よくないことが起こるのは間違いないです」

「あっそ」

 事実、よくないことは起きている。弟の中二病が治らないことと年下の女の子の方がもてていることに嫉妬していることとエリーみたいな頭のおかしな奴を拾ってきてしまったということだ。

「お姉ちゃん。今の生活を続けたいのなら魔力のオーラの露出はなるべく控えた方が」

「だから、私にはその魔力もオーラも見えないの!どうやってそんなものを露出しないようにするのよ!」

 無視しようと思ってもどうしても聞いてしまう。これが私の悪い癖だ。

「ですが、そのオーラを放ったままですとサリエルだけじゃありません。別の死神にも狙われる可能性があります」

「うるさいわね!そもそも、そんな魔力もオーラも死神も本当に存在するのかどうかさえ私は定かじゃないの!」

「すべて存在します。見えていないだけです」

 ああー!もう!めんどくさい!

「そんなことはもうどうでもいいの!それで私が魔女だったらどうなのよ!」

 そこが問題なのだ。エリーは私が魔女であることを何か重要視しているように感じた。

「お姉ちゃんが魔女だったら・・・・・サリエルを捕らえるのを手伝ってほしいんです」

 私の脳裏に浮かぶ。サリエルという男の放つ重圧。考えるだけで冷汗が出える。

「な、なんでよ?」

「・・・・・正直、今の私程度の力ではあの死神には勝てません。何よりも厄介なのは魔剣、グラムです。魔力を削り斬るあの剣は魔力を帯びる私の武器では不利です。・・・・・実際に再生した私の鎌はあっけなく破壊されました。再生にはまたかなりの時間を要します」

「そ、そんな相手を私が出来るわけないでしょ」

「できますよ!お姉ちゃんの魔力は魔剣クラスです。その魔力を使って魔法でも使えたらあんな死神」

「だから!私は魔法なんか使えないって言ってるでしょ!」

 思わずエリーに向かって怒鳴ってしまった。煮えたぎる頭の中が冷めきらずにそのままエリーに言い続ける。

「あんたみたいな中二病設定を頑なに守るのはいいのよ!ただそれを他人に振りかけるな!他人を巻き込むな!その設定は自分の中だけで広げろ!私までそんなあんたの世界の一部にするな!迷惑なのよ!」

 怯えたように腰を引かすエリー。

「ま、魔力が・・・・・」

「まだ言うの?いい加減にしなさい」

 エリーの元まで行って胸ぐらをつかみあげる。

「これ以上私をあんたの妄想に巻き込まないで。迷惑なのよ。ただでさえ家には元祖中二病がひとりいるのよ。疲れるのよ。あんたらの茶番に付き合うのは」

「だ、だから、本当なんですよ。妄想でも設定でもないんです」

 それは頭の中で分かっている。粒子によって再生した鎌を見れば、サリエルの様子や持つ武器の様子から見れば信じざるをえない。でも、それを認めたらあの殺気が本物だということになってしまう。あの時感じたのは死の直感だということになってしまう。それを認識するのが怖かった。だから、否定した。エリーの言うことを真っ向から否定した。

「いい加減にしなさい。いつまでも私があんたの言うことを大人しく訊いているだけだと思った?」

 私の表情を見たエリーは恐怖におびえたように顔を引きずった。歯ぎしりをしてガタガタと震えているように見えた。そんなに私の形相が怖いのか?鏡でもない限り自分自身を見ることのできない私には分からない。きっと、ひどい顔をしているんだろう。でも、それでこの頭のおかしいエリーと縁が切れるのならそれでいい。

「お姉ちゃん・・・・・お姉ちゃんは私の味方ですか?」

 涙目で聞いてきた。きっと、これがエリーの最後の問いだ。

「さぁ~?」

 私は合間な答えを返して胸ぐらをつかんでいたエリーを解放した。エリーはズリズリと後退りして壁にぶつかってから下を向いてグッと握り拳を作って着ていたTシャツを脱ぎ始めた。

「ちょっと何してるの?」

 エリーは私のTシャツと短パンを脱ぎ捨てるとその中は最初に着ていた革製の黒色の見せブラと見せパンの姿となった。日差しの下に干されていたコートを着た。

「・・・・・お姉ちゃんは私たち悪魔の味方だと思ったんですけど、そうでもないみたいですね」

 いや、待ってまだ敵だとは・・・・・。

「確かに普通の人間を巻き込むわけにはいかない。私たち三界の存在意義はお姉ちゃんたち人間あってのものだ。その人間を3界に関わらせるわけには・・・・・いかない」

 エリーは黒いコートを翻して玄関の方に向かって歩いていく。

「ちょっと、エリー」

 私が呼び止めるとエリーは足を止める。

「今までありがとうございました。人間界での暮らしは平和で楽しいものでした。こんな世界を私は守りたいと強く思いました。この思いを力に変えられるように頑張りたいと思います」

「エリー!待ちなさい!」

 サリエルのところに行こうとしているのは容易で分かった。でも、止める権限は私にはなかった。この場において主導権を持っていたのはエリーだってことに私は気付いていなかった。

「三界に関する記憶は人間に留めることは三界の安定を欠く原因となってしまう。魂の記憶の中に三界のことがあれば小さな綻びが起きる可能性がある。その小さな綻びはいずれ世界の崩壊につながる」

「何言ってるの?」

「私の記憶を消すね。デスキャンサーも同様に」

「待って。エリー」

「バイバイ、お姉ちゃん」

 エリーはその瞳に涙を浮かべながらも笑った。それから私の視界が真っ白になっていって目の前のエリーの姿が薄く消えって行った。そのまま私の意識が飛んでしまった。

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