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食べるときはしゃべるな

「ここにダークソードが封印されていたという魔王城ですか・・・・・」

「ただのドンキホーテよ」

 そんな大それたものじゃない。そうね、そういう魔界的な感じ表現するなら王都に中心部にたたずむ何でもそろう雑貨屋という表現が似合う気がする。そんなエリーと私はふたりで駅前のドンキホーテが入っている多目的施設にやって来た。こんな暑い昼間だというのに駅前には多くの人たちが行き交っている。

「入り口に何か罠とか仕掛けられていないでしょうね」

 今日のエリーは白のノースリーブワンピースを着ている。もちろん私の私服だ。でも、何か着るのに難易度が高い気がして買ってから数回しか着ていない服だ。なんか衝動で買うだけ買ってきていない服は何着か部屋のタンスの中に存在している。これからエリーはその服を着てもらうことにしよう。客観的に見て着ても大丈夫そうなら私も普通に着ていこう。

「何!扉が勝手に開いただと!これは明らかに部外者を罠にはめるための誘いに違いない」

 そんなわけないじゃない。

 こんな人が多いところでこんな痛々しい奴といっしょにいるだけでなんか私まで変な目で見られそうでなんか・・・・・いや。

「ほら、行くわよ」

 首根っこを掴んでエリーをドンキホーテの入っている多目的施設に入る。

「ちょっと待って!お姉ちゃん!」

 大丈夫。罠なんかないわよ。

 ドンキホーテは5階建ての建物の2階だ。2階に上がるためにエスカレーターを使う。

「か、階段が勝手に動いているだと!」

 この子と町を歩くのは頭が痛くなる。

 一応、人間の魂の管理をしていたという魔界の人だったら人間界の事情とかをそれなりに知っていてもおかしくない。予備知識も無しに見知らぬ世界に行こうなんて私は思わない。ましてや、その先が異世界ならばもっともだ。

「この階段にも何か罠が・・・・・」

「あるわけないでしょ」

 つか、魔王城だからって自動ドアとかエスカレーターとかに驚き過ぎじゃない?いちいち、相手にするのが面倒なんだけど。

 エスカレーターを昇り切ったところのすぐ横にドンキホーテはある。なんでもあるお店だ。たまに必要な雑貨が百均で見つからないときとかによく活用している。バカ弟が背負っているダークソードも私の買い物に付き合っている時に衝動買いした物だ。

「・・・・・何か甘い匂いがします」

「ああ、あのお店ね。結構おいしいのよね」

 ドンキホーテの隣にはクレープ屋がある。この甘い香りに誘われて何度ここでクレープを食べたことか。

「気を付けてください!この甘い匂いはきっと罠です!」

 いや、だから罠じゃないって。まぁ、ダイエットしているとかいう意味合いでは罠かもしれないけど。

「ハハハ!引っかかったな!」

「その声は!デスキャンサー!」

 なんでいるのよ・・・・・。

 気付けばいつも黒い服装をしてダークソードを背中に従えた弟がいた。エリーもいつもの鉄の棒を除いて黙っていれば普通にかわいい美少女だ。口を開ければただの痛々しい少女だ。

「貴様がダークソードの出所を掴もうとしているのを予言で知った!」

「予言だと!」

 そういえば、あんたにエリーとドンキって行って来るって伝えた気がする。それだったら予言でもないわよ。

「やはり、抜け目がありませんね。デスキャンサー。さすが魔剣士です。その力をもっと正しい方面に使おうとは思わないんですか?」

「思わない!なぜなら今の俺のやっていることがすべて正しいと思っているからだ!」

 エアガンを構える弟。

「やる気ですか!」

 鉄の棒を構えるエリー。

 ドン引きする通行人。

 危険物を向け合う二人を危険視する警備員。

「止めんかい!」

 手刀で2人の頭を軽く叩く。

「何をするんだ!魔女め!」

「そうです!これ以上この死神の悪行を見過ごすわけには!」

「クレープ食べるけど、あんたらはどうする?」

「「食べる!」」

 同時に即答した。

 こういうバカは餌付けして飼いならすのが一番扱いやすい。そして、ゆくゆくは私の手足となって働いて私を楽に過ごさせてほしいものよ。

「俺は!」

「ストロベリークリームでしょ。いつもそれしか頼まないじゃない」

「なぜ・・・・・分かった」

「さすがお姉ちゃん。魔女の予言は的中ですね!」

 弟限定の予言だけど。

「エリーは?」

「わ、私は・・・・・そうですね・・・・・」

 メニューを見て悩むその姿はもう普通の女の子だ。格好は弟と違って普通の女の子の格好をしている。私よりも胸が大きいしスタイルがいい。それに人目を引くその整った顔立ちに青い瞳はもう反則過ぎる。さすがに私も嫉妬する。今度着せる服はもっと地味な奴にしよう。

「私、バナナチョコレートクリームがいいです」

 無難なところを選んだわね。

「買ってくるから適当なところで、仲良く、待ってなさいよ」

「は、はい」

「了解した」

 ふたりとも素直に返事をした。体を強張らせて少し顔を引きづっていたけど。

 店員にストロベリークリームとバナナチョコレートクリームを頼んでから自分の分も頼んでお金を払う。結構、お金がかかるのよね。この甘い匂いに誘われてしまうとどうしても食べたくなってしまうのはまさに罠だ。

「ほら。ストロベリークリーム」

「ありがとう!お姉・・・・・礼を言わせてもらおう。魔女よ」

 また、設定を忘れて素が出て普通にうれしいっていうのが丸分かりだ。さて、残りのクレープも受け取る。

「あれ?エリーは?」

「ふぉふれにいっふぁんしゃにゃい?」

 ・・・・・トイレに行ったんじゃないって言いたいのね。

「分かったら食べながらがしゃべらない!」

 分かったのか分かってないのか押し込むようにクレープをもぐもぐと黙々と食べる。

 ・・・・・ダジャレを言ったつもりは無論ない。

「つか、エリーは初めて来たこの建物のトイレの位置を把握してるわけ?」

「おりゃばぁふぁおふれた」

 ・・・・・俺が教えたって言いたいのね。

「分かったら食べるときはしゃべるなって何回言えばいいのよ」

 軽く頭を叩く。

 確かトイレはこのクレープ屋のすぐ横に入ったところの奥にあった気がする。クレープをもぐもぐと食べる弟を引き連れてエリーが向かったと思われるトレイの方に行ってみると見慣れた白いワンピースを着た少女が・・・・・。

「君、かわいいね。年いくつ?」

「え・・・・・いや」

「おいおい!タカシ!この子が怖がってるじゃねーか」

 ナンパされていた。

 思わず持っていたクレープを握り潰してしまった。その形相を見た弟がドン引きしたのはその時の私が見えているわけがない。

 ふざけんな!ちょっと胸が大きいだけで!ちょっとかわいい顔してるだけで!

あんな風に男にちやほやされるのよ!私なんかあんな風に男に話しかけられたことなんか生まれて一度もないわよ!なんでああいう中二病とかの悪魔とかデメリットのある子はあんな風にモテルのよ!腹立つのよ!ああいう中二病の奴がモテルのを見ているのが特に腹立つのよ!普段中二病の奴と暮らしてるから分かるのよ!

 このバカ弟は普通の中学生をやっていたら普通に女の子からモテルってことも知ってるのよ!

「お、お姉ちゃん?」

 怯える弟を無視してエリーに絡む男どもに近寄る。

「ねぇねぇ、これから俺と遊びに行かない?」

「お、お前らみたいなこの程度の底辺の力しか持っていない物には興味はない」

「いやいや、俺たちの力を見くびったらダメだぜ。と言っても俺が本気を出せるのはベットの上だけだぜ」

「アハハハハハ!ちげーねーや!」

「そうかそうか。だったら見せてもらおうじゃない?」

 私の声を聴いてふたりの男が一瞬で青ざめる。振り向いた男二人は怯えていた。

「な、何っすか?」

「何っすかじゃないわよ。その子のどこがいいの?胸?顔?仕草?ねぇ、何!なんなの!なんで私には声がかけられないの!」

「い、いやそれは・・・・・」

「私には何が足りないの!この子と比べて何が足りないの!教えてよ!ねぇ!ねぇ!」

「す、すみませんでした!」

 ふたりの男は私に頭を下げて逃げて行った。どうしてエリーの時は興味津々ににやにやして話しかけて誘っていたくせにどうして私にだけあんな風に怯えて逃げられるのよ。同じ女の子なのに!女の子なのに!

「お姉ちゃん?」

「何!」

「やっぱり、お姉ちゃんは魔女なの?」

「んなわけないでしょ!」

 腹立つ。一番女の子しようとして努力をしている私には何も報いがないのよ!

「新しいクレープ買ってくる!」

 こんなイライラする時は甘いものに限る!

「お姉ちゃんに・・・・・ダークソードと同じくらいの魔力の黒の靄のオーラが見えた」

 そんなエリーの怯える表情も声も私には聞こえていない。

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