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ダークソード ~奪取作戦~

「ダークソードを奪取します!」

 家に戻ると風呂を洗い終えた弟が待っていた。待たせて悪かったから先にお風呂入っていいよと告げて今はリビングでエリーと私のふたりだけだ。テレビをボーっと見る私に対してエリーは見慣れた格好で何か考えていた。そして不意に立ち上がってそう言ったのだ。

「そう。がんばって~」

「軽くないですか?」

 だって、明日ドンキまで行って買いに行くんでしょ?

 だったら、バカ弟の奴を奪う必要なくない?

「今ならデスキャンサーも油断しています。ダークソードを奪うチャンスは今しかありません」

 まぁ、さすがに風呂場にまで持つ込むようなまねまではしないとは思うけど。

「お姉ちゃんもいっしょにお願いします」

「はぁ?なんで私まで?」

「正直、私はデスキャンサーと正面から戦って勝てる自信がありません」

 私はあんたの圧勝で終わりそうな気がするんだけど。その鎌が悪魔の力によって本物と分かった以上、弾の出ないエアガンとドンキで買ったプラスチック製の剣であの弟が勝てるわけがない。

「お願いします!お姉ちゃん!」

 でも、そう呼ばれてそんな眼差しで見られてしまうと妹が出来たみたいな錯覚を起こして抵抗できなくなってしまう。

 大きくため息をつく。

「分かったわよ」

 テレビを切って弟のいる風呂場へ。

 エリーは風呂場につながる廊下の扉をゆっくりと開けて慎重に廊下を見る。

「よし。デスキャンサーはまだお風呂のようです」

 なにステルスミッションみたいに身を低くしてなるべく音をたてないように行動してるわけ意味が分からないんだけど。

「お姉ちゃん、デスキャンサーの部屋はどちらですか?」

「奥の部屋よ」

 明かりの灯る脱衣場の方を注意しながらゆっくりと弟の部屋に近づく。

「こ、これは!」

「どうしたの?」

「結界が張られているだと!」

 めんどくさい。

 弟の部屋の扉には五芒星の描かれた大きな紙が貼られている。いや、五芒星の他にもなんかいろいろ書かれているんだけど、書かれているのが謎の古代文字とか剣とか鎌とか火の玉とか書かれている。それぞれ意味があるらしいんだけど、いつも言っていることがバラバラだったからちゃんと覚えていない。エリーが結界というんだから結界なんだろう。

「こんな強力な結界で守られた部屋ならばきっと何かあるに違いない。ダークソードもこの部屋に隠されている可能性が高い。かくなるうえは強引にでも突破するまで!」

 そう言って鎌を構える。

「ちょっと待ちなさい」

 エリーから鎌を奪う。

「ちょっと!何するんですか!困りますよ」

「それはこっちのセリフよ。そんなもの家で振り回されたら困るのはこっちよ」

 誰が壊れた扉の修理とかをすると思ってるのよ。

「ですが、この強力な結界を破るのは早々簡単なことじゃありません。いくら、魔女のお姉ちゃんであっても簡単には」

 がちゃ。

「開いたわよ」

「なんでー!」

 この前までこの結界の紙が張ってあるときは部屋を封印していると弟は言っていた。それは物理的に部屋に鍵をかけて封印していたのだ。洗濯した服を弟の部屋に持っていこうとしたらカギがかかっていてやめろと言ってもしつこく部屋に鍵を掛けるので鬱陶しいから怒ったら二度としませんと泣いて土下座した。

 つまり、あのバカ弟はちゃんと姉の言うことを聞いて物理的封印はしないようになった。そこん所は素直でかわいい。

「どうしてなんですか?やはり、お姉ちゃんは死神の力をも凌駕する魔女なんですか?」

 私が凌駕しているのは弟の支配だけ。

「それよりもさっさとダークソード奪取してきなさいよ」

「は、はい!お姉ちゃんが起こしてくれた奇跡を無駄にはしません!」

 私普通に扉開けただけなんだけど。

 勢いよく弟の部屋に入るエリー。その後を追うように私も部屋に入る。弟の部屋は普通ではない。まぁ、中二病なんだから当たり前かもしれないけど。部屋のカーテンは黒、絨毯もベットのシーツも黒に統一されている。こんな真夏に暑くないのかと思う。壁にはポスターが張られている。紫と黒が混ざったような炎を口から漏らし不気味な赤い目でこちらを睨みつけるドラゴンのイラストが描かれている。他にも勉強机の上にはろうそくやらワラやら赤とか緑とか青とかのきれいな石が散乱している。

「デス・エフェクトリー・ガンがこんなにたくさん!」

 エリーが驚いているのはカギ付きのショーケースの中に弟が自分の好みに外装に装飾を施したエアガンが飾られるように置かれている。

「すべてレプリカのようですね。見た目の形状から魔方陣に魔力を流すことで魔光弾を打てるような仕組みになっていますね。こんな技術を一体どこでデスキャンサーは手に入れたのでしょうか・・・・」

 顎に手を置いて真剣に考えるエリー。

 その装飾の仕方はネットで調べれば出てくるわよ。

「あ!こんなところにもデス・エフェクトリー・ガンが!」

「ああ、それね」

 前になんでこれは飾らないのかって聞いたら、うまくできなかったというボツ作品を籠の中に乱暴にしまってある。私も弟もケチなので捨てるのがもったいないということで取ってあるのだ。どこが失敗なの私にはさっぱり分からない。

「いや、今の目的はデス・エフェクトリー・ガンなんかではないです。目標はダークソードです」

 とか言いつつも失敗作のエアガンをふたつくらい懐に忍ばせたのを見た。まぁ、どうせいらないものだしいっか。私のじゃないし。

「お姉ちゃん!魔女の力で場所の特定を!」

「さすがにそれの居場所は知らないわよ」

 あの剣はいつも背中に背負ってるイメージしかないし。

「さすがのデスキャンサーもダークソードだけは死守するのですか。侮れない」

 どこがよ。

「ならば、仕方ありません。ここは強引にでも見つけだして奪取するしかありません。死神にあの剣を持たせておくわけにはいきません」

「そんなのすごい剣なの?ダークソードって?」

「この世界に二本はない剣です。闇の力を結集して鍛えられたその刃はどんなものでも破壊する。強靭な魔力の持ち主である死神のみが扱うことのできる魔剣です。世界を両断することが出来ると言われています。あの聖剣エクスカリバーと対になる最強の剣です」

 聞いた私がバカだった。また、私の脳に無駄な情報が流れされた。あのおもちゃの剣に世界を両断する力があるわけないじゃない。そもそも、あの剣を買った時は私も現場にいた。エリーが悪魔なのは本当かも知れない。でも、あの剣はただのプラスチックだ。それだけは絶対だ。

「あの剣にレプリカは存在しません。あれは絶対に本物のダークソードです」

 一体何を根拠に。

「魔女のお姉ちゃんはやっぱり人間なんですね」

「当たり前じゃない」

「ま、まぁ、そうですけど。とにかく、私たち魔界に住んでいる者は誰しも魔力を感じ取ることが出来るんですよ。魔力は基本的に見ることはできません。ですが、その魔力が大きく強くなればなるほど目に見えるような変化が見ることが出来ます。例えるなら、私の鎌が再生したのも魔力が具現した物です」

 それを言われてしまうと何も言い返すことができない。つまり、壊れた鎌が再生して物体を持った正体が魔力だと言いたいようだ。

「ダークソードからも強い魔力が溢れています。黒い靄のようなオーラが常に滝のように流れています。見えませんか?お姉ちゃんには?」

「見えない」

 即答した。それにはウソ偽りなく答えることができるからだ。

「でも、それだとおかしくない?」

「何がですか?」

「あんたの説明だとダークソードの魔力の量は相当なもので目で見ることができる。でも、それは私に見えない。おかしなところは同じ魔力で作られた鎌がどうして私には見えたのよ?」

「それは・・・・・ですね」

 しばらく考えてから答える。

「鎌は物理的作用のあるものだからですかね。ダークソードから漏れる魔力は物理的には何の効力も示しません。物体を持つので人間であるお姉ちゃんにも見ることが出来たということなのかもしれません」

 触れるものだったから見ることが出来たと。

「とにかく、やばいんですよ!あの剣!今すぐに奪取しないと・・・・・いや、最悪は!」

 その時、勢いよく部屋の扉が開いた。

「貴様ら俺の隠れ家何をやっている!」

「しまった!デスキャンサー!」

 弟がお風呂から出てきた。腰にバスタオル巻いただけという格好だ。しかし、肩にかけてベルトを掛けている。その背中には鞘に仕舞われたダークソードがあった。手にはデス・エフェクトリー・ガンがある。

「俺の結界を破りこの隠れ家に侵入するとはいい覚悟だ!」

「この程度の覚悟がなければ死神を追いにこんな異世界にやってきませんよ!」

 鎌の棒を構える。

「やる気か?貴様みたいな奴に魔剣士デスキャンサーを倒せるとでも?」

「やってみないと分かりません!」

 私が止めに入る前にエリーは弟に向かって飛び込んでいく。バンバンと声をあげて銃口から撃たれる私には見えない魔光弾に当たったのか勢いが一瞬だけ死んで顔を歪めながらも棒だけの鎌を振り上げる。それを危険だと思った弟が一歩冷静に後退したことで棒は風を切る。その棒の先にはバスタオルが引っかかっていた。

「え?」

 やばいものをとってしまったと赤面して驚くエリー。

「はぁ、や!」

 どうしていいか分からずただ銃を構えたまま固まる弟。

 しっかりと見てしまったエリーとがっつりと見られてしまった弟。

「さっさと服を着ろ!」

 私が怒鳴ってエリーの握る棒に引っかかっていたバスタオルを弟に向かって投げつける。それを使って弟は慌てて股間を隠す。

「い、いや、だって着替えがここにあるし。お姉ちゃんがいると着替えられないし」

「そうなの分かったから風呂場にまでそんなものを持ちこまない!分かった!」

「は、はい!」

 赤面したまま固まったエリーを引きづって部屋を出て扉を勢いよく占める。

 そこでようやくエリーがハッとする。

「デスキャンサーめ・・・・・私に精神攻撃までしてくるとは・・・・・侮れない」

「いや、あれは明らかに自爆でしょ」

 私も久々に見た気がして少し赤面する。

「頭の中は子供だけどあそこはしっかり大人になっていたわね」

 その夜、エリーは戦意消失してダークソードを奪取することはなかった。

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