第八夜
私は容易く彼の隣へ座ることができた。
彼は私のことなど気にせず、携帯電話をいじっていた。
「ね!」
思い切って話かけてみると、彼は携帯電話を閉じて「何?」と返してきた。
その表情に男を感じたのか、私は赤くなっていた。
このまま赤くなっていてはいけないと再び話しかけた。
「名前、何ていうの?」
「福山 椿」
「つばき!?ふぅーん。私はね、菫なのぉ!すごいね〜」
「そ。」
彼は無愛想で何だか私だけ楽しんでいるみたいだった。
こんなんでなんで合コン来たんだろ??
「何でこの合コンに??」
「淀川先輩誘えって言われてたし。しかもあいつが行くみてぇだから。」
「あいつ?」
「ほら、あの美人の隣で歌ってる・・・」
霞の隣で歌っている人を見ると、いかにも普通の男子学生って感じの人で、
気が弱そうだけど可愛い小犬のような顔立ちをしている男子だった。
「中ノ島 蘭。俺とは小学校の頃から一緒なんだ」
「へぇ・・・」
あんな可愛い普通の子と友達なんだ・・・。
すごいタイプが正反対だと思うんだけどな・・・。
そんなことよりそろそろ決着(?)を・・・。
電話番号とかメルアドからだよね。
「あのさ、ケータイの・・・」
「アドレス?番号?いいよ」
「あ、うん・・・」
案外すんなりと聞きだすことができて私はちょっと気が抜けていた。
やっぱりモテるだろうし慣れてんのかな・・・。
「・・・」
「甲山さん、」
トイレに行くと言って出て行った甲山さんが戻ってきた。
まだ調子が悪そうだ。
「大丈夫?どうしたの?」
「・・・気にしないで」
そう言って席に着こうとした瞬間、淀川が甲山さんの腕を引っ張った。
「うっ・・・」
「ちょっと!」
甲山さんは口を押さえて慌ててまた部屋を出て行った。
私は甲山さんの後を走ってついていった。
「またトイレ・・・!?」
甲山さんが個室に入ると中からすごい呻き声のようなものが聞こえた。
もしかして・・・嘔吐?
「ちょっと、大丈夫・・・?」
ドア越しに聞くけれど甲山さんはまだもどしているようだ。
暫く個室の前で待っていると、水の流れる音がしてそれから甲山さんが静かに出てきた。
「・・・あたし、男ダメなの・・・」
これはまた驚いた。
まさか甲山さんが男が嫌いだなんて・・・。