第四夜
翌日
「おはよう!桜!」
「おはよ、何か嬉しそうじゃん」
「うふふ」
私は誰も知らない大きな秘密を知っていると思うと、
嬉しさを隠しきれなくなってしまっていた。
まさかあの渋木 霞が男だなんて・・・誰も知るはずがない。
私はとても大きな快感を得ている感じだった。
校舎の中に入ると、職員室前で何やら大勢の女子が入り口の前に集まっていた。
「何やってるんだろう?」
私と桜は顔を見合わせてそれから職員室前に行ってみた。
でも何が起こっているのか分からず、近くの友人に聞いてみた。
「何かあったの?」
「新しく来た先生!若くて超カッコいいよ!」
「ふぅーん」
「えっ!?中にいるの!?」
私は大して興味はなかったのだが、桜は一気に興味を示した。
「見えない〜」
「あとにしなよ・・・」
「え〜っ見たぁ〜い」
女子高にカッコいい先生・・・その先生もきっとここが天職なんだろうな・・・。
桜も人だかりに飲み込まれてしまったようなので、私は先に教室へ行った。
教室に入ると、わずかにしか人がいなかった。
きっとみんなあのかっこいいと言われる新米教師を見に職員室へと行ったのだろう。
残っているのはいかにも目立たないって感じの大人しい子や、
男に興味のない子ばかりだった。
その中に、あの渋木 霞がいた。
霞さんは花の水を換え、私と目が合うと急にニコニコして近づいてきた。
「あっらぁ〜坪山さん来てたのぉ〜?待ってたのよぉ??」
「えっ・・・?」
「ちょっと来てよぉ〜」
霞さんは私の腕を引っ張って誰もいない渡り廊下へと連れて行った。
霞さんと話すことなんてあまりないし、ちょっと不思議な気分だった。
「何か用・・・でも?」
「まぁね」
さっきとは打って変わって霞さんの口調は冷たいものだった。
ちょっと気まずい空気が流れた。
そして次の瞬間、彼女は身の毛も弥立つようなことを口から放った。
「あんた、聞いてたでしょ?昨日夜の学校でアタシが男だって言ってたこと」
「えっ!?」
誰にも話してないのに・・・。
まさか霞さん私がいるのを知ってた??
「あの・・・」
「下手にバラすんじゃねぇよ。バラしたら・・・どうなることかな」
「ややぁ・・・」
「まったく・・・こんな簡単にバレるとは思わなかったぜ・・・絶対に言うなよ!」
「じゃあ・・・復讐って・・・何・・・??」
こんな脅されてる時に何聞いてるんだろう・・・。
答えてくれるはずがないと思ったが、霞さんは答えてくれた。
「アタシ・・・いや、俺の姉の葵もここに通ってたんだ。ある日ここお決まりの合コンに
姉さんが誘われた。相手の高校は若葉山男子だった。」
「うん」
「その若葉山男子の中に当時一年だった淀川柾っていう奴がいた。
そいつはその合コンをきっかけに姉さんと付き合うことになったんだ。」
「それで?」
「姉さんは一途でお人好しだからな。まさかあいつに騙されてたなんて
思っても見なかったと思う」
「騙されてたって・・・?」
私はいやな予感がしながらも聞いてしまっていた。
「二股、三股かけられてたんだよ。姉さんは好きなときに呼び出せて、
好きなだけ貢がせて、いらなくなったら捨てられた。」
「ひどい・・・」
「それからその事実を知った姉さんは自殺した。海に身を投げたんだ」
「・・・。」
霞さんの唇が微かに震えている。
何だか聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
「ごめんね、辛いこと話してもらっちゃって・・・」
「いいよ・・・」
「ねぇ、本当はなんていうの?」
「え?」
「名前」
そう聞くと、霞さんは恥ずかしそうにうつむいた。
そして頬を赤く染めながら「霞」と呟いた。