第二夜
彼女は間も無く私から目を逸らした。
妙に鼓動が早くなった。
「はい、今日はここまで!片付けに入りなさい!」
授業が終わると霞さんはすぐにボールを片付けに行った。
隙を見て私は桜のところにそそくさと駆けつけた。
「桜、霞さんと目が合ったんだけど・・・」
「うっそぉ!よかったじゃん!」
「でもなんか・・・」
「なに?」
「石になりそうだった・・・」
冷や汗を流しつつ、ぼそっと呟くと桜はぷっと吹き出した。
「あんたね、メドゥーサじゃないんだから!」
桜は甲高く大笑いしながら教室へ帰って行った。
私はそれからというもの、何故か霞さんのことばかり考えてしまう。
あの時魔法にかかってしまったのかもしれない。
授業中も気がついたら人と人の隙間から彼女の姿を見つめている。
何か秘密がありそうな雰囲気が尚更私を煽った。
昼休み
私は桜と屋上で弁当を食べていた。
「なんかさぁ最近霞さんのことが気になって仕方ないのよねぇ」
「えっ!?こ、恋!?」
「いやいや・・・そういう意味じゃなくてさ・・・」
桜は首を傾げた。
「なんだか秘密がありそうな気がしてさぁ・・・」
「はぁ??」
相当興味が無いのか、桜は弁当を再び黙って食べ始めた。
私も自分が言ったことが相当バカらしいのかと思い、弁当を食べた。
「では今日はこれまで、生徒会に所属する者は体育館に残って、
新入生歓迎会の準備の続きがあります。」
授業が終わった。
「すみれ〜帰ろ」
「ごめん、準備あるから・・・」
「そっか、先帰るね」
私は桜と別れて他のクラスの友達たちと体育館で新入生歓迎会の準備を始めた。
他の生徒会関係の人たちはステージの飾り付けや、椅子を並べたりしている。
私たちはペーパーフラワーを作りながら喋っていた。
「てか面倒だよね〜」
「一年も歓迎してほしいなんて絶対思ってないよね〜」
「そういえば菫の妹って一年にいるよね??」
「うん・・・」
今年入学してきた私の妹の茜は、私と違って目立つ存在で校内でも名前をよく知られていた。
茜は昔から要領がよく、いつも私ばかりが損してしまうので妹のことになるとちょっと
話すのが苦手になってしまう。
「菫の妹可愛いよね」
「そう・・・かな?」
「結構茜ちゃん待ちの男子とかよく見るよ」
「そうなんだ・・・」
妹のこともわかっていなかったなんていけないかな、と思った。
それから次第に準備が進んで行き、気づいたら先輩たちと私ぐらいしか残っていなかった。
準備が完了すると、体育館で解散してすぐに帰ろうと思った。
「坪山さん」
帰ろうと体育館から出ると、後ろから先輩が走って私のところへやってきた。
「何でしょうか?」
「これ、職員室まで頼んでいいかしら?」
そう言って先輩は私にハサミやノリが入ったカゴを渡して走り去って行った。
私は仕方なく職員室へ向かった。
「遅くまで、ご苦労様」
適当にまだ残っている先生にカゴを渡して私は急いで下駄箱まで行った。
辺りはもう真っ暗で早く帰ろうと廊下を走っていると、どこかで複数の男の声が聞こえた。
私は何故か物陰に隠れてしまい、辺りを見回していた。
すると薄暗い廊下で人影が見えた。
「あれ・・・?」
男の声がしたからどうせ先生か何かだろうと思っていたけれど、よく見たら
隣町の若葉山男子高校の制服を着た男が二人いた。
「なんでここにいるんだろう・・・?」
またよく見ていると、壁際にもう一人誰かがいた。
暫く見ていると段々顔や髪型などがはっきりと見えてきた。
「・・・れ・・・?」
それは紛れも無く渋木 霞だった。
「何で霞さんが・・・?」
私は何故かその様子に釘付けになり、暫くそこから動けなくなってしまった。