08
暗い暗い闇
私はずっとその中にいた。
そして何かがまとわりついて離れない。
苦しい苦しい
ずっと叫んでいた
その時に限って一筋の光が私の元へと降り立つ。
泣かないで
大丈夫
ここにいるよ
その手にすがりたくなる
けれど掴んでもいいの?
私は、そこに行ってもいいの?
私は、許されているの?
怖い
寒い
嫌だ
全ての負の感情が私を取り巻く。
ほら、涙があふれて止まらないの。
ずっとここにいても、良いかな。
暗いけれど、怖くないの。
あの明るい闇よりも、怖くないの。
怖く、ないのに
目を開けると目の前にクレバーがいた。
「くれ、ばー…?」
「ユイ!」
クレバーが嬉しそうに私を抱きしめる。
ちょっと、とても痛いのだけれど。
なんか、体がギシギシいってるんだけど。
っていうかなんか体がものすごくだるいのだけれど。
「ごめん、嬉しくてつい力こめちゃった。今医師を連れてくるから待っているんだよ。」
「は?」
私、普通に寝たよね。
なんで医者なんか必要なの?
呆然としているとクレバーが医師を引き連れてきた。
なんか、涼しい顔をしているクレバーと違ってものすごく息切れしてるんだけど…
見てもらっているうちにああ、自分は今熱があるんだなと実感した。
全くだるくて体が動かない。
医者はしばらく安静だけれど最初よりも良くはなっていると言っていた。
最初?
「くればー…」
声を出すのも苦しいがこれは聞かなければと力を込めて声を出す。
「なに?」
クレバーは嬉しそうに応えながら私に布団をかける。
「最初って?私…」
「あぁ…」
横にある水のようなものが入っているボールのようなものにタオルを浸し絞りながら説明する。
「ユイ、ものすごく熱があって3,4日ほとんど気を失っていたんだよ。今はまだましだったけれど昨日とか結構大変だったんだよ。」
「え、」
熱?なんで?こんな変な世界にきちゃったから体が驚いたのかな?
「魔波数がまだ体になじんでないんだろうね。けれど良かった。何か口に含むかい?」
「いや、」
「ああ、そう言えばスタンを食べたらいいんだったな。トゥーラ、スタンをもらってきてもらえないか?」
光が宿ったかと思うとそこにトゥーラが現れた。
【承知】
そう述べたかと思うと突然消えた。
クレバーは何事もなかったかのように浸したタオルを私のおでこに乗せる。
「よし、これであとスタンを食べてもう少し寝よう。そしたらまた少し良くなるよ。ああ、スタンと言うのはね、うーん、ユイの世界で言うモモみたいなものだよ。甘くておいしいよ。」
少し汗っぽい私の髪の毛を撫でながらクレバーが話す。
少しするとドアのノックの音が聞こえてくる。
すると誰かが入ってきた。
【主殿、スタンを持ってきた。】
「ああ、ありがとう」
「クレバー様、王妃様が目を覚まされたようで。」
どこかで聞いたことある声、あ、私の世界からここへ来る時にもう一人いた人だ。
だるい体に力を向けて声のする方に顔を向ける。
するとイケメン青年がクレバーと話をしていた。
「ああ。なんとか。よかったよ」
「それは何よりです。それでは早速お仕事へ」
「いや、まだ油断はできないんだ。明日、うーん明後日かなあ…」
そう言ってスタンという果物をこれまたトゥーラが持ってきた果物ナイフで切り始める。
するとゾクっとするような視線が私に向けられるのに気付く。
ここへ来て居なかったことが不思議なくらいなかった負の視線。
お前なんかいらない。
異世界の少女なんかいらない
覚悟はしていたけれどこれほど辛いものだとは思いもよらなかった。
ため息をつくとクレバーの方を向く。
「クレバー、私、大丈夫だから、仕事行きなよ。」
「駄目だよ。まだまだ油断できないんだから。俺のいない間にユイに何かありましたなんて絶対あって欲しくないからね。」
はい、とスタンを私の口へ入れてくる。あ、ほんとだ、モモに似てる。
しかしおいしさなんか感じる暇はない視線は変わらないのだから。
「行って。じゃないと私ずっと起き続けるよ?」
「ユイ…」
「仕事はちゃんとしないと。だから行って。」
目を合わせる。ここでそらしてしまえばクレバーは絶対仕事に行かない。絶対そらさない。
先に折れたのはクレバーで息を吐くと立ち上がる。
「すぐ戻る。トゥーラを置いていくから、何かあったら遠慮なく言うんだよ?」
「…うん」
私のおでこにキスを送ると名残惜しそうに出て行った。
はあとため息をつくとトゥーラがこちらを向く。
【どうした?苦しいのか?】
「いや、そうじゃない…ちょっと疲れた。寝るね。」
【ああ、ゆっくりと休んだ方が良い。】
目を閉じる。
先ほどの視線、私の負はさらに深くなってしまった。
久々ですいません。
お気に入り登録ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!