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07

クレバー様は年に一度だけ全く何もしない日がある。

その日は朝から買い物に行くのである。

軽装をし、決して王族のものと悟られないように城下町へ出て行く。

女が好むようなお店を見て回っては店員に何度も何度も質問する。

その姿はとても楽しそうでまるでそう、好きな女性へのプレゼントを買いに行くようなものだった。

一つだけ気に入ったものを買うと城の自分の部屋へこもる。

何をしているのかはわからない。

しかしそれこそ夜ご飯も食べずに部屋で静かに過ごしているようだった。

何をしているのですか?など決して聞くことはできない。

その笑顔が全て物語っているのである。

これも、彼女のためなのだと。







クレバー様が王立学校に入学して月日は穏やかに流れていった。

もちろん、クレバー様のお兄様方の刺客が学校を訪れそのたびに対処に追われていた。

しかし、徐々に笑顔を取り戻していくクレバー様を見ていると私は本当にここへ来てよかったと思った。

クレバー様は学年が上がるたびに私にこう尋ねてくるようになった。

『私は彼女と結婚する。それは王家を離れることを意味する。そうなるとお前には何もしてやれない。それでも、私と共にいるのか?』

そう、王家を離れてしまえば私のクレバー様傍にいる役目もなくなる。

だから早々に次の進路をと思ったらしい。

しかし私はその頃から決断していた。

『クレバー様、私はクレバー様の傍でクレバー様をずっと見守り申し上げたいと思っております』

何ができるかはわからない。

クレバー様がどんなところでお暮しになろうとしているのかもわからない。

しかし、その傍で私はクレバー様を見守りたいと思っていたのだ。

その言葉を述べると毎回クレバー様は少し照れた様子で私に感謝の言葉を述べる。

少しでも穏やかな時間を。

今までの悲しい出来事を全て消し去ってしまう様に

私はずっと祈っていた。









しかし世界は再びクレバー様に牙を向ける。

王立学校高等部最後の年に入るときそれは起こった。

クレバー様のお父様である前国王陛下が亡くなられた。

傍若無人な国王として有名だった前国王陛下が亡くなった時、市民は歓喜に沸いた。

しかし困ったのはそれからだった。

その時王太子であられた第一王子は前国王陛下の性格をそのまま受け継いでいた。

そんな人物が再び国王になったら今度こそこの国は滅んでしまう。

第三王子、第四王子も同じような人物だった。

国民は焦っていたがクレバー様は今まで通り学校へ通い朝早くから夜遅くまで勉強に勤しんでいた。

ただ、これ以上王家の争いに巻き込まれたくなかったため王になる意思はないと提言した上で学校の寮で暮らすことにした。

もちろん危険性はないわけではなかったが、城にいる方が何十倍もの危険があった。

第二王子も王にならないと述べたらしい。

二人が王になることを辞退すると第一王子、第三王子、第四王子は喜んだ。

能力にしても人気にしても二人が非常に勝っていた。

その二人が辞退したと言うことは王には自分になるも同然と3人はそれぞれ思った。

3人は前国王陛下に似て我がままで自分の考えを押し通そうとする人たちばかりだった。

昔から協力していた3人だったため初めは話し合いをしていたが徐々にそれだけでは済まなくなってきた。

言うまでもなく3人は争い始めた。

人を使って殺しに行こうとする者、薬を使い毒を飲ませようとする者。

3人は本気だった。

争いはどんどん城下まで広がっていく。それぞれを推す貴族の力を使ってきたのだ。

どれだけ戦火が広がるのか市民も不安がっていた。

ところが長期を待たずに三つ巴の戦いに決着がつくこととなった。

3人とも頭が悪かった。

お互いがどう考えているかなど考えもせず自分の考えだけで行動していた。

それは自分を破滅へと導くことにもつながる。

3人はお互いに仕組んだ罠で殺し合って死んでいった。









王宮の使いが来たのは翌日に就職試験を控えていたときだった。

クレバー様は何食わぬ顔で就職試験の願書を出していたのだ。

寮に現れたのは前国王の宰相殿だった。

クレバー様はいつか来ると思っていたのだろう。あまり驚いていなかった。

お互い真向かいに座り黙ったままだった。

『王子、戻ってはいただけないでしょうか。』

『どうして。』

王子の時のクレバー様はとても不機嫌だ。

不機嫌なクレバー様には私とて話しかけにくい。

なのに前宰相殿はいとも簡単にクレバー様の一番嫌な事を言いのける。

『第一王太子、第三王子、第四王子が今回の争いで亡くなられました。』

『…』

クレバー様は黙ってはいたが目を大きく見開き拳を強く握る。

『第二王子は突如失踪しました。』

『なんだって…?!』

流石に驚いたのだろう、クレバー様は立ち上がり前宰相殿に突っかかる。

『なんとか探すことはできないのか!?私はすでに王立学校で学んでいる身。王族から離れようとしているんだぞ!?』

『あの方は頭が良いですから。特殊な呪いをかけ魔力を悟られないようにしている故…』

『捜索隊は出したのか!?』

『今がこの状態ですからとてもそこまで手を回せる状態では…』

クレバー様は茫然としたままソファに勢いよく座った。

争いが終わったからと言ってすべてが元通りになるわけではない。

全ての場所の状況確認、修復作業、治安警備、騎士団にはやらなければならないことがたくさんあった。

国にとって幸いなことに王子はもう一人いる。

一人が見つからないのだったら場所が分かっている王子を引っ張り出してこればいい。

それが国の上層部の決めたことだった。

『あと一年、あと一年経っていたら、私は王族から離れていたのだ。』

『…』

クレバー様は目を閉じながら手で額を抑える。

しばらく沈黙が漂う。

クレバー様はぽつりと呟く。

『それでも、王族を離れると言ったら、どうする?』

『クレバー王子!』

次は前宰相殿が絶望する番だった。

『これ以上何かが起きれば市民から暴動が起きます!国が滅んでしまいますぞ!』

『…』

『市民の命とあなたの望むことどちらが大切なのですか!あなたは王族ですぞ!王になる義務があります!』

前宰相殿が前のめりで説得する。

お年も年なのに大声でいうものだから息切れをしていた。

クレバー様は下を向き再び沈黙が訪れる。

『…義務、か』

クレバー様はため息をつくと拳でソファをたたく。

『時間をくれないか。』

『逃亡されないのであれば』

『できるのか?』

クレバー様は鼻で笑うと机に向かった。

『二人とも出ていってくれないか。しばらく一人にしてくれ』

その目は全く生きる希望を失っていた。








3カ月後、学校を卒業されたクレバー様の即位式が行われた。

精霊の言霊を聴き、神とサルバハート市民に命を捧げるのだ。

クレバー様が国民の前に現れる。

そして左の人差し指を前に出しその腹の部分をナイフで切る。すると滴り落ちた血を前の台に置かれている誓約書にこすりつける。

『我が名クレバー=ギルティア・オルティウス・アマベラ・サウティカリスト・ゴーストリオ・ナイトアビス・マーキュリア・アフロディーティオ・サルバハートの元に誓約す』

するとその誓約書は光を放ちクレバー様を包み込む。

その光は幕を張るようにこの国を包むのだ。

市民からは拍手が送られる。

しかしクレバー様は笑顔一つお見せにならなかった。

最後に神の祝福を受ける。

神の祝福とは国王になった者の願いを神が一つだけ叶えるというものである。

先ほどのところから一歩市民の方へ足を向ける。

『我が願いを請う』

クレバー様は目をつむり何かを呟く。

『我が願いは我が妻になる異世界の少女「如月優衣」の永遠の幸せである』








それから数年、クレバー様は市民のために復興に力を入れた。

私も微力ながら宰相としてお傍で手伝わせてもらえることとなった。

クレバー様の尽力な行動のおかげで思っているよりも早く国を建て直すことができた。

安心しているもつかの間クレバー様が次に行ったのは【彼女】を呼ぶための準備だった。

【彼女】はこの国のことを何も知らない。

誰も味方がいないのだ。

だからこそ初めはこの城の者が味方にならなければとクレバー様は様々な役所の者に語りかける。

市民に優しいクレバー様の選ばれた人ならばと一般市民は喜んで受け入れてくれた。

しかし貴族たちはそうもいかなかった。

必死に反対をした。幸せを願いだけならまだ許せる。

しかし知らない世界の者と結婚されても困ると言うのだ。

それは私も同意見だった。

クレバー様を笑顔にしてくれる人物であるのは変わらないが、それでも得体のしれないものだ。

貴族の懇願にクレバー様ははっきり結婚しないのは不可能だと述べた。

そして【彼女】とかわした誓約を聞いて一同何も言えなくなった。

そう、クレバー様は【彼女】と結婚印を交わしていた。

クレバー様は私が幼いころに運命を決めていたのと同じようにすでに自分の運命を決めていた。

私のクレバー様の願いを壊したい気持ちは徐々に消えていった。

しかし貴族はそうもいかなかった。

初めから祝福する貴族もいればそれすらにも呪いをかけようと思う貴族もいた。

後者はクレバー様によって厳重に処罰を与えられた。

処罰を知ってか貴族は大人しくなっていった。

徐々に内側から王宮を変えていき数年後、ようやく【彼女】を迎えに行くことができた。








私はクレバー様をお慕いしている。

だからそのクレバー様が決めた【彼女】を何があろうと受け入れなければならないと思っていた。

ところが彼女の行動がそれを揺るがす。

クレバー様を知らない。

魔法をかけている間に途中で手を離す。

城に行きたくないと駄々をこねる。

なんだこれは。

何かの茶番なのか。

思わず倒れそうになる体を必死に抑える。

挙句の果てに勝手に熱を出して倒れている。

ただの馬鹿としか思えない。

しかしその馬鹿にクレバー様はずっと付きっきりで看病している。

クレバー様、仕事はどうするのですか。

あなたの承諾印がなければ通せない書類が執務室に埋め尽くすように積まれているのですよ。

クレバー様の嬉しそうな顔を見てため息をつくと私は再び執務室へ戻った。


以上、宰相殿の回想&ぼやきでした。

次からはユイ視点に戻ります。




お気に入り登録ありがとうございました!

これからもよろしくお願いします「!

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