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第三者目線です。
我が国、サルバハート王国はこの世界有数の大国である。
また、王が世襲制で決められその王自身が国を治めていくいわゆる絶対君主制国家である。
よって王の力量が国の全てを変えてゆく。
以前は錆ついた大国と言ってももはや歴史だけが残りつつあるような国であったが、それを大きく変えたのも現国王、クレバー様である。
クレバー様は前国王の第5皇子であられた。
生まれて一年した頃私はクレバー様の傍で暮らすことになった。
私がそのような尊き方の傍で暮らすようになったのは私の母がクレバー様の乳母であったからだ。
今でもはっきりと覚えている。
初めて会った時のあの感動を。
『そなたが我の元につくのか。』
その時の笑顔が眩しくて私はずっと見惚れていた。
そしてそれと同時にこの人を守っていこう、そう誓った。
しかし、世界は思ったよりも残酷だった。
徐々にクレバー様の笑顔が失われていく。
そしてそれと比例して増えて行く体の傷。
クレバー様は優秀だった。
二番目の兄皇子と同じぐらい。いやそれ以上に能力のある方だったのだ。
それに恐れをなした二番目の兄皇子以外が傷つけていたのだ。
二番目の兄皇子はクレバー様と違い、そのような事はさらりとかわしていた。
クレバー様は自分の兄弟である兄達を信じていたのだ。
それが徐々に失われていく。
何を信じればいいのか、何をどうしたらいいのか。
人と接するよりも本と向き合うことの方が多くなられた。
私も私の母も心配し外へ外出することを勧めていたが一向に首を縦に振ることはなかった。
そうしてクレバー様は塞ぎ込んでいかれた。
クレバー様が6歳になられた時、突然【サクラ】を使うと言いだした。
【サクラ】とはこの国の神木であり、時のアクアを司っているとされている。
この国は王が国を治めているが、次に権威のあるのはこの【サクラ】を管理しているクライフォード家であった。
この二つは干渉しあっているが、お互いに混ざり合うことの許されない権威であった。
【サクラ】が行うことのできるのは異世界への移動だった。
クレバー様はこれを使い異世界へ行こうとされた。
私はもちろん、母も反対した。
【サクラ】を使ったことあるとされているのは初代サルバハート国王の王妃であり、他はあまり知られていない。
それだけに何が起こるかわからないのである。
しかしクレバー様はそれでも行くと言い出した。
それからはクライフォード家への申請、国王へのあいさつなど様々な事が行われた。
時少なくしてクレバー様は旅立たれてしまった。
大丈夫なのだろうか、奇妙な場所へ飛ばされていないか、心配は尽きなかった。
毎日【サクラ】に祈りをささげていた。
一週間後、クレバー様は帰国された。
【サクラ】の下へ降り立ったクレバー様はゆっくりと顔をあげる。
その顔はとても幸せそうなしかし切ない顔だった。
『私は、あちらの者と結婚する。』
その数カ月後、クレバー様は王立学校へ入学されることとなった。
もちろん私も通うことが許された。
本当は相手の世界へそのまま移り住もうとしたらしい。
しかし、こちらで暮らしていた様々な証を残したまますんなり暮らすことなど優しいクレバー様には不可能だった。
そしてなによりクレバー様の魔力は大きすぎるため彼女の世界をも破壊してしまう恐れがあった。
魔力はその世界によって周波数のようなものがあり、違うものが膨大に入ってくると世界を歪めてしまう。
あちらの世界へ行くためにはとてつもない魔力が必要でしかし回復した魔力ではあちらの世界にいることができない。
可能な限りあちらにいたようだが、とうとう世界に亀裂が走ったのをクレバー様は見たようだった。
考えた末にクレバー様はこちらに彼女を呼びよせることにした。
先日精霊の儀が行われ、トゥーラと名づけられた精霊を呼び出された。
学校へ行かなくても本で大体の知識を習得されたクレバー様が王立学校へ入るのには理由があった。
王立学校へ入る。すなわち一般人同様の暮らしをするのである。
それは王位継承権を放棄することと同意であった。
クレバー様が早々に王につくことを拒否したのだ。
『私は、彼女を迎えるために様々な準備をしなければならない。』
王立学校へ入ってからクレバー様はひたすら勉強をした。
彼女と幸せな生活を送るためには自分で稼げるほどのお金が必要だとクレバー様はおっしゃった。
この王立学校での成績はそれ以降の人生に大きくかかわる。
上位にいれば国の管理している職場で働くことができ、生活も豊かな生活を送ることが約束されている。
おそらく、クレバー様は王室からも出るつもりだったのだろう。
だからこそ勉強だけでなく、様々な方とお話され一般の生活とはどのようなものかを学んでいた。
クレバー様は優秀であられるため常に主席だった。
なおかつ様々な方と隔たりなく談話されている。
一躍クレバー様は王室の中で一番人気となってしまった。
クレバー様は王家のものとしてしてはいけないことを行っていた。
それは犯罪者への手助けである。
彼女の母はこちらから脱走しあちらに移り住んだ者だった。
クレバー様は彼女の母が追跡者の手から逃れられるように彼女の魔力を感知できないように細工していた。
もちろん全て彼女のためである。
何度も何度も質問した。
本当に、本当にそれでいいのか、と。
するとクレバー様はとても嬉しそうな顔をしてこう答えるのだ。
私は、幸せだよ。
私はクレバー様をお慕いしている。
あの時見た笑顔を僭越ながらも私が守らなければならないと思った。
だから必死に私も勉強をした。
どうしたらクレバー様を守ることができるのかと。
なぜ【彼女】でなければならなかったのだ?
この世界の者と幸せに心豊かに暮らすことができたらよかったのに。
顔も知らない【彼女】に嫉妬しても仕方がない。
けれど、私はクレバー様の幸福を願っているのだ。
クレバー様の願いをかなえたい心と、それを壊したい心。
幼い私の心にはその二つが混雑していた。
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