04
かみつかれた個所がとても痛い。
しかし徐々に体が楽になっていく。
噛んでもなおクレバーは私の首筋で何かを唱えている。
私は自分の体が温まるのを感じていた。
「くれ、ばー?」
気づけば目を閉じていた。
再び目を開けるとロイの部屋だった。
クレバーが来ていたのは夢だったのかな?
ふいに首に手をやる。
かさぶたができたようにかさかさする。
押してみると内出血が起こった場所のように痛む。
「夢じゃないの…?」
「夢じゃないよ」
はっと意識を声がした方へ向ける。
クレバーが寂しそうな笑みを浮かべながらベッドに向かってきた。
「体調はどうかな?」
「だいぶん良くなりました。」
「そうか。それはよかった。」
あと少しのところで触れるのをやめるクレバーに少しだけ、寂しくなる。
「・・・」
「・・・明日には王宮に戻る。」
「?!」
「もちろん、ユイを連れてね。」
クレバーの声が一段と低く聞こえた。
「私は…」
「結婚印については、全く説明していなかったね。まさかあそこでユイが手を離すとは思っていなかったから」
「それはっ!!!」
あなたが勝手に連れていこうとするかでしょう?!
そう反論しようにもクレバーの冷たい瞳が怖くて思わず口をふさぐ。
「結婚印は世界最古の魔法と言われている。その印は対になるものしか同じものを持たない。その物たちの絆は誰も干渉することができなくなる。例え、国でも、敵国同士でも。そして誰にも、その封印を解くことができない。封印を行った本人たちでもね。それだけこの封印を行うのには覚悟がいるんだ。」
「?!」
そんな重い魔法だと思わず目を見開く。
「今まで記憶をあやふやにしていたから何もなかったけれど、やはり再び出会ったら結婚印が許してくれなかった。」
「許さないって…何を?」
「俺たちの”愛”だよ。結婚印は二人の絆を誰に対しても絶やすことをさせない代わりにこうやって試すんだ。」
試す?あれが?!
「試して駄目だったらどうするの?私、あの、死んで…」
その言葉にクレバーが頷く。
「だから結婚印は危険なんだ。その結婚印の資格がないと思ったものに対し粛清を行う。封印した本人を殺すこともできる。」
「…」
「俺はユイに”アクア”を送ったんだ。ユイを、愛していると。」
”愛している”この言葉を発したクレバーはとても寂しそうだった。
しかしちょっと考えてみるとおかしくない…?
「それって、私もあなたに対してしなければならないんじゃないの?」
そう、私がこんなに苦しんだと言うのにクレバーは全く何もない様子だった。
私は、彼のことを、”愛していない”のに
「俺は、それを防ぐ力を持っているからね。それに、俺の愛はユイや印が思っている以上に強いらしい。」
クレバーは自分の言った言葉に苦笑していた。
「愛することと愛されることの均衡がおかしいんだろうね。俺は誰からも愛されていない代わりにユイを愛することだけに力を注いでしまったらしい。」
だんだんベッドに近付いてくるクレバー。
そして私の頬に手を添える。
「ユイ、覚えておいて。俺は、ユイを愛してる。」
「クレバー…」
「君を勝手に連れてきたことは、謝るよ。けれどね、」
そして抱きしめられたけれども振りほどくことができなかった。
「君が俺を許せなくても、愛さなくても、俺はずっと君を愛し続けるよ。」
力が強いのではない。
クレバーの切ない声が私に力を与えてくれなかった。
翌日、朝起きると隣でクレバーが寝ていた。
私を抱きしめたままだった。
手しびれてないのかな・・?
心配になったが起きようと腕をどかそうとするが全くどかない。
力を込めるとさらに腕の力が強くなる。
おいおい、どうなってんのよ!!!
そこでふと、私は気づく。
もしかして…
「ちょっと、起きてるんだったら早く離してよ。」
「…我が女神は手厳しいな。」
クスクス笑いながらゆっくりと腕を緩めてくる。
「今すぐ朝食を運ばせよう。」
そして手を振ると一瞬部屋の空気が変わる。
すぐにドアのノックがされるとメイド服のようなものを来た人たちが食事を持って現れた。
メイドさんって本当にいるんだなと呆然としていると後ろの方からロイが現れた。
「ロイ!」
慌てて立ち上がりロイの方へ向かうとロイはほっとした顔をしたのもつかの間スカートを広げ首を垂れてきた。
「おはよう、ございます」
・・・え?
「おはよう。昨日から部屋を有難う。」
「とんでもございません。陛下と皇后のお役にたてるのなら。」
ロイ、どうしちゃったの…?
「ロイ…?」
思わずロイの顔をのぞく。
「ユイ様、おはようございます。お目覚めはいかがだったでしょうか?」
ロイは蒼い顔をしているがその顔にではない。その言葉に驚愕した。
「ロイ…」
「ユイ、様…?」
「ユイ、どうした?」
クレバーが後ろの方で何か言っているが知らない!
私はロイをまっすぐ見詰める。
「違うっ!私は!」
ロイの顔を自分の方へ向ける。
「皇后なんかじゃない!ユイよ!」
「ゆ、ゆいさ」
「違う!ユイ!」
涙があふれて止まらなかった。
この世界で初めて優しさをくれた人、これからも彼女を私は友達でいるつもりだったのだ。
そして彼女もこのままずっと仲良くしてくれると思っていた。
「私!ロイの友達でしょう!?」
ロイの目が見開く。
「ロイは私の友達だよ!?ロイは?違うの?」
ロイの肩を必死に揺らす。
「ゆ、ゆい」
涙を浮かべたロイが私に抱きついてくる。
「ゆい、ゆい…」
「ロイ、ありがとう」
私もロイを抱きしめ返した。
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