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私が行くことを承諾すると私の学校入学の手続きは急ピッチで進められた。
まず文字を覚えること、これは必須だった。
こちらの文字はローマ字と違い平仮名、片仮名のように一語一語で音が変わるのでなく、一度文字を覚えれば読めるといった類であった。
そうと決まればとひたすら書き続けてようやく自分の名前も書けるようになった。
スムーズに話せるようにはなっていたのに、なぜ書くことはできないんだと悲観に思っていたがかければ問題はなかった。
毎日文字の練習をし、夜にはクレバーによる文字のテスト、単語のテストが行われていた。
「ほら、またここが間違っている。左側にはねるんだ。」
「…そんなのどっちでもいいじゃない…」
「クスッ、ユイ、君の国の…”漢字”と言ったかな?あれでは跳ねる方向が非常に重要なのだろう?」
「…まあそれは否定しない」
「それと一緒だと思ってくれればいい。それとも一緒にペンを持ちながら教えようか?」
「結構です!」
顔を真っ赤にしながらひたすら文字の練習をする。もちろん腱鞘炎にならないよう休憩をはさんでだけれど。
ふと、外を見る。夜だけれど明かりがぼんやりと暗闇を照らし続けている。
外を見る姿に気付いたのかクレバーも共に外を見つめる。
「あちらの世界と違って、暗いだろう?」
「うん、けど…なんというか幻想的だね。」
「幻想的…そうか。そう思えるのかもしれないね。」
そしてクレバーは空を指さす。
指した方向の窓の傍へ赴き空を見上げる。
「空も見てごらん、綺麗に見えるだろう?灯りがない分空が澄んで見えるんだ。星が美しいだろう?」
「わあ、本当だ…」
「たまに流れ星もあるからね。夜の空は見逃せないんだ。」
「へえ、凄いなあ…」
「…いつか、見たいと思ったんだ。」
「え?」
いつの間にか隣に移動してきたクレバーがぽつりとつぶやいた。
「あの世界とは違う、この世界の空を君と二人で。よかった。」
「…」
未だになれないこの甘い台詞は沈黙と共に流れてしまう。
しばらく窓の傍で佇んでいるとクレバーが私の肩をたたいた。
「さあ、単語テストの続きだ。先ほどの間違いは幼稚園児と同等だと思われるぞ。」
「…それだけは絶対嫌だ…」
無事クレバーの文字講座にも合格し転入試験を受けることができた。
ただしここからは私からの要求を伝えた。
それは私が今王妃候補になっていることをばれないようなやり方で入学させてほしいということであった。
クレバーはそんなことかと簡単に承諾したが、ちゃんとわかっているのかわからなかった。
しかしながら何とか転入試験でも合格し、晴れて私は王立学校への入学を許されることとなった。
「おお、似合っているではないか。」
「…そのなんか舐めるような目で見るのやめてくれない?」
「いや何を言う。それこそ絵にして残しておきたいぐらいだ。美しいよ、ユイ。」
「ありがとう…」
転入する当日、朝食の前に制服に着替えた私はそれをクレバーに見せに行った。
クレバーは途端に嬉しそうな顔で私の傍へ寄り褒めちぎった。
流石にやめてほしいと思うがやらずにいられないのかその行為は朝食の時間まで続けられた。
ご飯を食べ、もうそろそろ出発しなければならないのではないかと言う時、私はとうとう尋ねることにした。
「あのさ、前言った条件、大丈夫なの?」
「ああ、それは大丈夫だ。今からその儀式を行うからな。」
クレバーは嬉しそうにとある魔方陣の傍へ寄った。
そしてトゥーラを召喚するとぶつぶつと唱え始めた。
周りが光を放つようになり私はきょろきょろと周りとみているといつの間にか光が拡散され気づくと目の前にはロイが立っていた。
「…ロイ!!!」
「ユイ!」
私は嬉しくて思わず抱きしめるがクレバーがすかさず言葉を放つ。
思わず私はロイと離れた。
「ユイ、今から魔法をかける。それで姿が変化する。その姿でロイの従兄弟として入学するといい。」
「え?」
「すでにストラクス家とは話がついている。自分で真実を見聞きし、己の在り方を考えてほしい。」
「クレバー…」
再び唱え始めたかと思うとトゥーラが私の周りを回り光であふれた。
その光がなくなったかと思うと髪の毛がどこか短くなっており色も変わっていた。
「トゥーラを一緒に連れていけ。初めは戸惑うと思うがトゥーラはすべての属性を使用できる。連れていて損はないはずだ。精霊は改めて精霊の儀を行う予定だ。」
「…ありがとう」
「良い学校生活ができることを願っている。」
「うん!」
クレバーの優しさは私を包み込む。
何も答えられない自分が歯がゆいけれどクレバーに笑顔を見せロイに近づく。
「今日から、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ぺこりとお互いに挨拶をするとロイの父親が現れた。
ロイの父親はすかさずクレバーに挨拶をし、今からのスケジュールを話していた。
クレバーは納得したかと思うと、じっと私の方を見つめた。
そして再びロイの父親の方を向くとすっと頭を下げた。
その姿にロイの父親やロイ、私はぎょっとする。
王様が頭を下げるなんて、やっちゃいけないのでは…?!
案の定ロイの父親は焦っていた。
「陛下!おやめください!」
「ユイを、よろしく頼む。」
「わ、我が家紋に代えましてもっ!!で、ですから!」
再び顔をあげたクレバーはどこか安心した面持ちで私を見つめていた。
私は顔が真っ赤になるのが分かった。
馬車はすでに到着しているようでそろそろ移動することとなった。
私はふと、考えクレバーの前に立った。
「ユイ?」
「クレバー…ありがとう。その…行ってきます。」
初めていう「行ってきます」それはとても緊張して言葉にはなってなかったと思う。
けれどクレバーは嬉しそうに私にうなづいた。
「はい、行ってらっしゃい」
こうして私の学校生活は始まりを迎えたのだった。
久々の更新です。
少し前にですが拍手にこれに関連する小話を載せました。
ランダムなので見つけるの大変かと思いますが見ていただければと思います。