超かぐや姫!ifストーリー
本編とは異なるIFストーリー。
もし、かぐやといろはの関係がすれ違っていたら
同居生活の中で積み重なった小さな違和感は、やがて決定的な衝突へと変わる。
かぐやは姿を消した。
整いすぎた日常の中で、いろはは気づく。
自分が支えていたはずの関係の中で、
本当は自分こそが支えられていたのだと。
「いろはってさぁ、お母さんとかお父さんとかいないの?」
昼下がり。テレビの笑い声が、やけに軽く響いていた。
いろはは、包丁を持つ手を一瞬だけ止めた。
「……さあね」
それだけ言って、また野菜を刻む。
規則正しい音。少しだけ強い。
かぐやは「ふーん」とだけ言って、ソファに寝転がった。コントローラーのカチカチという音が続く。
それ以上、何も聞かれなかった。
オムライスの卵が少し焦げ付いていた
⸻
「それ、聞いちゃダメなやつじゃー?」
翌日、BAMBOOcafeの隅で芦花と真実が顔をしかめた。
「えーー?」
「いろはの親の話、私たちでも聞いたことないし。たぶん、そういうことでしょ」
軽い口調だったのに、妙に重く落ちた。
かぐやは一瞬だけ黙る。
「謝った方がいいよー、絶対」
その言葉に、うなずくことしかできなかった。
⸻
その日の夜。
キッチンから、味噌汁の匂いがする。
「いろは、昨日のことなんだけど――」
「昨日はなんかごめんね、ちょっと機嫌悪くって」
先に言われた。
あっさりと。
何でもないことみたいに。
かぐやは、口を閉じる。
用意していた言葉が、行き場を失う。
「……ううん、いいよ」
それしか言えなかった。
⸻
模試の結果は、C判定だった。
東京大学の名前の横に、小さく印字された文字。
「まだ伸びるよ」と先生は言った。
でも、頭に入ってこなかった。
(最近、バイトで忙しかったからかなぁ、それに、家でもかぐやが……)
そう思った瞬間、すぐに打ち消す。
そんなわけない。
でも、
(……じゃあ、なんでこんなに余裕ないんだろ)
⸻
バイト帰り、家の前で立ち止まる
今日はバイトでミスしちゃった…
お客さんに水こぼしちゃって、いつもは私が
「今度からは気をつけてね」って後輩を慰めるんだけどなぁ
深呼吸をひとつ。
ドアを開ける。
大きな笑い声
爆音で流れるゲームの音。
床に転がるエナドリの缶
流しには、朝のままの皿。
いろはは何も言わず、靴を脱ぐ。
ゴミを拾い、皿を洗う。
「おかえりー」
画面を見たままの声。
「……ただいま」
小さく返す。
冷蔵庫を開けると、夜食のために買っておいたカップ麺がなくなっていた
「ラーメン、食べた?」
「あ、うん!ちょっとお腹すいちゃってさ」
悪びれもない声。
いろはは一瞬だけ目を閉じた。
「そっか」
それだけ言う。
フライパンに油を引く。
ジュッという音。
その音に、別の記憶が重なる。
――「こんなこともできないの?」
皿が流しに叩きつけられる音。
――「ちゃんとしなさい」
焦げた匂い。
息が詰まる。
手が一瞬止まる。
「いろは、ケチャップどこー?」
現実に引き戻される。
「そこ」
振り返らずに答える。
そのとき、
カン、と軽い音がした。
空き缶が床に捨てる音
ほんの、小さな音。
でも、
何かが、切れた。
⸻
「かぐやは毎日毎日気楽でいいねよね…」
気づいたときには、口が動いていた。
自分でも驚くくらい、冷たい声だった。
「ゴミも散らかしっぱなしで、ゲームしてばっかりでさ」
止まらない。
「ご飯も自分で作れないし、勉強もバイトも私、頑張ってるのに……」
かぐやが、こちらを見る。
何も言わない。
その顔が、少しだけ困ったように見えた。
「なんで私が、なんであんたなんかを――」
言葉が、詰まる。
視界が揺れる。
――「なんでわかってくれないの」
ドアが閉まる音。
あの日の空気。
胸が締め付けられる。
でも、
「……もういいから、早く寝てよ」
最後まで、言い切ってしまった。
⸻
静かだった。
その夜は、やけに静かだった。
⸻
次の日、かぐやはいなかった。
⸻
部屋は、綺麗だった。
ゴミは片付けられ、皿も洗われていた。
テーブルの上に、メモが一枚置かれていた
でも、私はそれを見なかった
見たくなかった
⸻
模試は、A判定に戻った。
バイトも、いつも通りちゃんとできてる
生活は整った
全部、うまくいっている
それなのに、
料理は二人分の量で皿を二枚出す
そして、気づくいてひとつを戻す。
それを、毎日繰り返す。
財布の中の金が、全然減らない。
ゲームの音が、聞こえない
「……おいしい?」
と言いかけて、やめる。
誰もいないから
⸻
高校の卒業式の日。
一通の手紙が届いた。
『いろはへ
あのときはごめんね。
ちょっと、びっくりしちゃったよね
でも、私ちゃんと分かってるよ。
いろはがどれだけ頑張ってたか。
私、甘えちゃってたね
だから、一回ちゃんと一人でやってみることにしたんだ!
喧嘩?したまま別れちゃったけどさ、
ずっと感謝の気持ちでいっぱいだよ!
PS 今は新人ライバーとして活動中!!
チャンネル登録よろしく!!!!』
思わず、笑った。
あまりにも、あいつらしい。
同時に、涙が落ちた。
私は手紙を、胸に当てる
なんだか温かい気持ちになった
⸻
その夜。
いろははスマホで一枚の写真を眺めていた
卒業証書を持った、自分と芦花と真実が謎のポーズで写っている
少しだけ迷ってから、文字を打つ。
『おかげで高校卒業できました。大学も第一志望に受かりました』
送信ボタンを押す。
机の上に、もう一枚の写真。
幼い頃の自分と、母親。
少しだけ見つめ、それから、そっと伏せた
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