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目覚め

《 episode 1 》

目覚め






______時は30xx年

人は死後、49日で輪廻転生を行う。


しかしこの世界では、死後49日の輪廻転生は自然に行われず、ある一定以上の激しい感情を抱くと、砂化する世界になっていた。

砂化する世界には、思念エネルギーという物質が存在し、その塊は思念獣という世界に災厄と最悪をもたらす化け物になるのだ。


思念獣は、人の死後に残る思念エネルギーを餌とし、

それを得るために人を襲う。


-『Z機関』

正式名称 : ゾアル機関。

砂化し、思念となってしまった人々を輪廻転生させるために、思念エネルギーを集めることを目的としている。

思念獣と戦い、この砂化する世界に抗う、人間の最後の砦。


俺は___

この窮地に立たされた世界で、思念獣を狩る者として、『Z機関』所属S級ハンターをやっている。


近くで銃声が鳴り響く。

誰かが近くで戦っているようだ。


ひどく頭が痛い...。

身体もすごく重い...。


空は灰色。

冷たい雨が降り続き、雨粒が容赦なく俺の頬を打つ。

一粒、また一粒と、感覚を取り戻すたびに現実が侵食してくる。


誰かがこちらに近づいてくる。


[???]

「おい、しっかりしろ!」


身体を強く揺さぶられる。


[???]

「『シェパード1』...ッ!無事か!」


朦朧としていた意識が鮮明になっていく。

ーー俺は今回、"最悪の思念獣"討伐作戦に参加中だった。


[???]

「しかしまぁ、普通なら即死レベルで派手に吹き飛ばされて生きてるとは...さすがS級だな。

幸い、打ちどころは悪くなかったらしいが、立てるか?」


銃を構えたままの男が肩を差し出す。

俺はその腕に体重を預け、どうにか立ち上がった。


男の様子から察するに、

俺はしばらく気を失っていたらしい。


[???]

「軽傷だが、大丈夫そうだな」


銃を構えたま肩を貸してくれたこの男は、同じZ機関所属のB級ハンター『ハウンド4』だ。

作戦中は混乱を避けるため、俺たちは本名ではなくコードネームで呼び合う。


ハンターは『思念適正』という、思念エネルギーを操る能力がある。

言ってしまえば、超能力のようなものだ。


能力や階級によって配属される部隊が変わる。


『シェパード』は、

俺が配属されている上級ハンターの部隊。

『ハウンド』は前線を担う攻撃部隊。

『イーグル』は後方からサポートを行う支援部隊。


その呼称が、今この戦場での俺たちの立場を示している。

そして後ろにつく番号は、作戦ごとに割り振られる識別番号だ。


ーー『シェパード1』

それが、今回の俺の呼称だ。


肩にかけていた銃のヒモが、

体を起こした衝撃に耐えきれずぷつりと音を立て、

銃は重たい音を響かせて地面に落ちた。


地面に落ちた銃は、

先ほど吹き飛ばされた衝撃のせいで、

無残にも二つに割れていた。


[ハウンド4]

「おいおい、銃がこんな真っ二つになることあるか?ったく、これを使え」


ハウンド4が背中に差していた刀状の武器を、こちらに投げ渡す。

俺は反射的にそれを掴み取った。


[ハウンド4]

「お守り程度に持っていたが、戦うには充分だろう」


刀の柄には『Z機関』の刻印がある。

思念エネルギーを媒介にして戦うーー思念武器。


思念エネルギーを操れば、超常じみた力さえ行使できる。しかし、感情値が上がりやすくなるため、そのまま扱うのは砂化の危険性がある。


その補助として、Z機関は感情値を犠牲にしない『思念装備』を開発した。装備によっては治癒、遠隔物体操作、身体強化などが可能だ。刀型の思念装備であれば、高密度のエネルギーを刃に収束させ、斬撃として放つことも可能だ。


……もっとも、武器の耐久性にもよるが。

試しに、刀へ思念エネルギーを流し込み勢いよく振ってみる。


閃光が放たれ、光の尾が空気を裂き、遠くの瓦礫(瓦礫)を一線で断ち切った。


[ハウンド4]

「使い方は....問題なさそうだな」


ハウンド4は一安心と言った様子だ。


......

...

.


俺たちは岩陰に隠れながら移動し、

つい先ほどまで交戦していた思念獣の反応を追う。


[ハウンド4]

「しかし、周りがやられたってーのに、

逃げずに1人でアイツとやってたのか?」


ハウンド4は半信半疑といった様子で、確認するように尋ねてきた。


少しずつ、記憶を遡る。

頭を打ったせいか、少し記憶が混乱している。

戦力は徐々に削られ、包囲は崩れ、

俺だけが“最悪の思念獣”の正面に立っていた。

戦うしかなかった。


[ハウンド4]

「俺だったら逃げてるな...感情値のこともある」


ハウンド4は首元のチョーカーを指でトントンと軽く叩く。

MMTーーMind Measurement Terminal / 思念測定通信端末


MMTチョーカーと呼ばれるこの首の機械は、激しい感情を抱くと砂化するこの世界で、人間の感情を測ることができる。

50が正常、80になると危険域だ。

逐一アラートが鳴る仕組みになっている。

そして100に達し、激しい感情を抱くと――人は“砂化”する。

砂化しないために、人類は感情を抑えてきた。

そして開発された感情抑制薬などを使い、人類は生きながらえてきた。


[ハウンド4]

「休ませたいのも山々だが、今はそんな余裕なくてな。」


あたりを見渡すと、砂化した人の残骸、倒れた人、人_____そして異常な量の小型思念獣と"最悪の思念獣"。


[ハウンド4]

「今回の思念獣は"最悪の思念獣"だ。

油断すれば死ぬ、お前も気を抜かずに戦え。」


『ピッーーピッーー』

『ーー感情値76、感情値が急上昇しています。

落ち着いてください。』


ハウンド4のMMTチョーカーのランプが赤く点滅し、AI音声でアラートが流れる。


[ハウンド4]

「はいはい、感情抑制剤を使いますよっと。」


ハウンド4はアラートを止めて腰のポーチから、ペン型の注射器を取り出す。


[ハウンド4]

「今まで俺の感情値は30前後で安定していたのに、ここ最近は上がりっぱなしだ。仲間が沢山死んでんのに、怒るな、悲しむなって、薬を使って感情を抑えることしかできない...やってらんねえよ...」


小さな悲嘆を滲ませながら、ハウンド4はヒモを口で咥え、片手で腕を縛り圧迫する。

もう片方の手で浮き出た血管に注射を打ち込む。


ハウンド4の感情値が徐々に落ちていく。

76……54……32……少しずつ、心が静まっていくのが数値とともに見える。


[ハウンド4]

「一緒に行動していたハウンド2とイーグル4がやられて、俺は逃げることしかできなかった。B級で汎用タイプの俺が1人で戦っても死ぬだけだからな。」


ハウンド4は淡々と話す。


"最悪の思念獣"の唸り声が聞こえる。

地の底から這い上がってくるような、不快な振動。

鼓膜ではなく、骨の奥に直接響く音だった。

"最悪の思念獣"は、小型思念獣の群れを引き連れ、あたりを徘徊しているようだ。


[ハウンド4]

「ひとまず、応援を呼ぼう。俺たちだけでアイツとやるのは危険だ」


ハウンド4はMMTチョーカーに手を当て、通信を開始する。


[ハウンド4]

「こちらハウンド4だ。聞こえるか?」


MMTチョーカーから流れるハウンド4の立体音声と、目の前の肉声が同時に耳へ響く。


ーーザザッ

[イーグル2]

『こちらイーグル2、聞こえるわ』


ノイズ混じりの女性の声が応答する。


[ハウンド4]

「こちらハウンド4、軽傷のシェパード1と合流した。目標ターゲット、地点Cにて発見。至急応援を求む。それと...シェパード4とハウンド1、3がやられた。ハウンド3は砂化だ。」


ハウンド4は端的に状況を伝える。


ザザッ-

[イーグル1]

『こちらイーグル1だ。地点Aで共に行動していたシェパード2が意識不明の重傷だ!今すぐ迎えそうにない!シェパード2に治癒を施してるが、効いてないんだ....。どうしたらいいんだ...』


ノイズ混じりに限界そうな男性の声が伝わる。


[イーグル1]

『クソッ...こんな時に敵の増援か....!すまないが、俺たちは緊急で戦線離脱する。敵の増援で今はゆっくり話せない。』


どうやら、向こうも極めて深刻な状況らしい。


[イーグル1]

『ひとまず、俺はZ機関まで重傷のシェパード2を運ぶ。その後はなるべく急いで合流地点に向かう。そしたらまた、後で通信を送る。検討を祈る...。』


イーグル1の通信が切断された。


[イーグル2]

『つまり今、戦えるのはイーグル3と私たちだけね...。イーグル3聞こえてた?合流して、地点Cで...』


先ほどからイーグル3からの反応がない。


[イーグル2]

『イーグル3....?』

[ハウンド4]

「部隊の生体反応を確認してみろ」


俺はMMTチョーカーを操作し、ホログラムで画面を映し出した。

画面に、今回の作戦に参加しているハンターの情報が表示される。


......


ーーシェパード1 : 生体反応100% 生存

ーー装着者 : xxx シェパード2 : 生体反応16% 危険

ーー装着者 : xxx シェパード3 : 生体反応0% 死亡



ーー装着者 : xxx ハウンド3: 生体反応エラー

▲認証エラー : MMTチョーカーが装着されていません。

▲生体反応エラー : 生体反応を測定できません。


......


MMTチョーカーは一度装着されると、外れることはない。装着者を認証し、首を失った場合でも生体反応は表示される。『認証エラー、生体反応エラー』の同時表示ーーつまり身体が存在しない状態で死亡したことを意味する。


身体が存在しない状態で死亡、すなわちーー“砂化”だ。


イーグル3の生体反応を確認してみる。


......


ーー装着者 : xxx イーグル3: 生体反応エラー


......


イーグル3は、作戦中に砂化していた。


[イーグル2]

『ッ....』


ノイズの向こうから、緊迫と絶望が伝わってくる。


[ハウンド4]

「...」


感情抑制剤による影響か、ハウンド4は悲嘆に暮れるでもなく、イーグル3の死を淡々と、ただ事実として受け止めていた。


俺は映し出されたホログラムの画面を閉じた。


[イーグル2]

『私の思念適正は『集中タイプ』だから、前線での戦闘にはあまり向いてないわ。でも、できる限り援護するわ。今から地点Cに向かう。』


[イーグル2]

『各自、メンタルにも細心の注意を』


そう言われ、俺は自分の感情値を確認する。


『ーーピピッ』

『ーーあなたの感情値は現在11、非常に良好です。』


俺の感情値は安定して低かった。

仲間の死を、何とも思わないわけじゃない。

ただ、悲嘆したところで無意味だからだ。

戦わなければ、何も変えられない。

戦うしかないんだ。


[イーグル2]

『2人とも到着までどうか、無事を祈るわ。』

――ザザザッ――


通信が切断される。


[ハウンド4]

「戦えるハンターは3人だけ、"最悪の思念獣"は現在...状況は最悪だな」


ハウンド4は状況を冷静に分析する。


――キィィイ!!キィイイ!!

探索型の思念獣がこちらに気づき、超音波のような叫びで周囲に情報を伝播させる。

思念獣の群れがこちらに向かってくる。


[ハウンド4]

「待つ暇もなさそうだな...戦えるか?」


俺は黙って頷く。


[ハウンド4]

「よし。」


ハウンド4がMMTチョーカーに手を伸ばし、再び通信を開始する。


[ハウンド4]

「こちらハウンド4、敵に見つかった。

これからシェパード2と目標ターゲットを...いや」


その言葉の切れ目で、視界の奥に“最悪の思念獣”ーーアダムが姿を現す。


「迎撃する!」




ーーグオオォォォオオーーーッッッ!!!

思念獣アダムの咆哮が地面を震わせる。


ーードババババッ!!

銃声が周囲を切り裂き、次々と押し寄せてくる思念獣の群れを払う。


[ハウンド4]

「クソッ...あちこち小型思念獣だらけで邪魔だ!

1体や2体ならまだいいが、この多さは....。

流石に"最悪の思念獣"、まるで帝王だな!」


群れの中を縫い、次々と押し寄せる思念獣を払いのけるハウンド4。

その声には圧倒的な迫力と興奮が混じる。


[ハウンド4]

「俺が雑魚引きつけるから、お前はアイツをやれ!」


ハウンド4の援護により、群れの壁がわずかに裂けた。

その隙を突き、俺は思念獣アダムの目前まで駆け寄る。


思念獣アダムは獲物を見つけたとばかりに、

左前足を大きく振り上げる。


この一撃を真っ向から喰らえば、俺は先ほど同様、吹き飛ばされ気絶していただろう。

何度も同じ手に引っかかるわけにはいかない。


俺は体勢を後ろにずらし、左から来る大きな打撃を回避した。

避けた反動を利用し、思念獣アダムの中心へ飛び込み、斬りつける。


ーーーザシュッ!!


さらに体勢を変え、強烈な打撃を与えてくる左前足の部位破壊を狙い、再び斬りかかる。


ーーーキィン!

しかし爪で剣先を弾かれた。


普通の思念獣なら防御などしない。

だが、アダムは狙いを見抜き、左前足を爪で弾き防御した。

まるで知能があるみたいだ。


[???]

「これでも喰らいなさい!」


頭上を掠めた銃声が、思念獣アダムの右目に命中する。肉を抉る鈍い衝撃音。

巨体がわずかに仰け反った。


[イーグル2]

「待たせたわね、援護するわ!」


イーグル2が後方で大砲型の銃を構えている。

その銃口からは、まだ白い煙がゆらりと立ちのぼっていた。

先の銃弾はイーグル2の援護射撃によるものだった。


[イーグル2]

「私の能力は『集中タイプ』だから、戦闘には本来向かないわ。ーー"本来"はね!」


イーグル2は続ける。


[イーグル2]

「身体強化や解析に使う思念のコストをこっちに回せば、こんな使い方もできるの、よっ!!!」


イーグル2は再び銃を構え、照準を思念獣アダムに固定しーーー凄まじい轟音を放つ。


イーグル2の弾丸が思念獣アダムの左前足に命中する。


彼女はC級ハンターとしてイーグル部隊に所属しているが、感情値が"特別"低ければ、A級ハンターとしてシェパード部隊に所属していただろう。

それくらいに、彼女の攻撃はとても規格外だった。



ーーガァアアア!!

イーグル2の弾丸が効いたのか、思念獣アダムは怯んでいる。


[イーグル2]

「これが本物の捨て身の戦法ってやつよ。」


ーーグルルル....

右目に弾丸を撃ち込まれ、左前足を大きく負傷したアダムは、呻き声を上げている。


[ハウンド4]

雑魚の処理は、おおかた片付いた!!

今からそっちに加勢する!!


[イーグル2]

ハウンド4、私たちで穴をあけるわよ!

コアが露出したらシェパード1、あなたが一気に叩き込んで!!


[イーグル2]

はあああぁ!!!

[ハウンド4]

うぉおお!!!!!


――ズドドッ!!!ズドドッ!!!――

――ドバババババーーーッ!!――


2人の絶え間ない攻撃で、思念獣アダムのコアが露出する。

今にも瀕死の状態だ。


[ハウンド4]

今だ!行けッーー!!!

[イーグル2]

シェパード1、お願い!!


俺は刀にありったけの思念エネルギーを注ぎ込む。


[シェパード1]

はぁあッーーーー!!!!!


刃が高密度のエネルギーで満たされ渾身の斬撃を放つ。


ーーパキィィン!!

放った斬撃が、思念獣アダムのコアに命中し、砕け散る。


――グォォォオオッ!!!

アダムが地面に倒れ込む。


......


...


.


[ハウンド4]

「...!!やったか!!!」


砕けたコアの破片が、まだ淡く光を放っている。

その周囲に、濃密な思念エネルギーが霧のように漂っていた。


[イーグル2]

「倒せたのね!」


[ハウンド4]

「しかし、とんでもねぇ量の思念エネルギーになりそうだ。回収作業が大変だな...。」


イーグル2]

「そうね。なんたって数千年を生きていた最悪の思念獣だもの。最初の思念獣イヴよりも膨大な思念エネルギーを持っていて、およそ100億人の輪廻転生も容易だと言われてるわ」


[ハウンド4]

「そんなやべーやつを俺らは倒したのか...そりゃ今まで一筋縄じゃいかなかったのも納得だ」


[イーグル2]

「あなた...知らないで戦ってたの?」


[ハウンド4]

「とにかく強いのは知ってたぜ」


ハウンド4が得意げに笑い、イーグル1は呆れた様子だ。


[ハウンド4]

「他の思念獣と比べて段違いに強いとしても、正直、この程度なら歴代S級や精鋭でカタがつきそうじゃないか?思念獣アダム、意外とあっけなかったな。」


[イーグル2]

「数千年も生きて戦い続けていたら、そりゃいつか滅ぶわ。思念獣といえど、生命体よ。全ての生命は、生まれた瞬間から死が確定しているの。永遠なんて存在しないわ。」


[ハウンド4]

「それもそうか。」


ーーおかしい。


通常、思念獣はコアが破壊されると、

1分もしないうちに姿形を保てなくなり思念エネルギーに分解されるはずだ。

しかし、1分以上経過しているのにも関わらず、思念獣アダムはまだ形を保っている。


コアは確かに砕けたはずなのにーー。


[シェパード1]

「コアを砕いてから、1分以上経ってるのに思念エネルギーになってない。変じゃないか?」


[イーグル2]

「これほど膨大な思念獣ともなれば、思念エネルギー化も他の思念獣より時間がかかるんじゃないかしら。」


イーグル2はMMTチョーカーを操作し、思念エネルギー回収モードを起動する。



コアは思念エネルギーを具現化させる器官だ。

その器官が破壊されれば、どんなに膨大な思念エネルギーをもつ思念獣であっても、1分も姿形を保つことはできない。

だが、俺たちは確かにコアを砕いた。

それにも関わらず、アダムはまだ姿形を保っている。


[イーグル2]

「シェパード1、何深刻そうな顔で固まってるの?ほら、ハウンド4も思念エネルギーを回収するわよ!」


通常は1体の思念獣に、1つのコアが存在する。

しかし、コアが必ずしも1つとは限らないとすれば……?


[イーグル2]

「ちゃちゃっと思念エネルギーを回収して、Z機関本部に戻りましょ。」


イーグル2が思念獣アダムに近づく。


[シェパード1]

「ダメだ!近づくなッ!!!」


ーードクンッッ!!

思念獣アダムの体が大きく跳ね、背部が内側から裂ける。骨のような突起が裂け赤黒く発光する、もう2つのコア。


アダムの目が、ゆっくりと開いた。



ドガァッ!!!!

イーグル2が思念獣アダムに捕えられた。


[イーグル2]

「いやッ!!!離してッ!!!」


イーグル2は思念獣アダムに抵抗する。

しかし、その抵抗も虚しくーーー


ドォォォッ!!!ドォォォッ!!!

何度か地面に叩きつけられたあと、イーグル2の身体は投げ飛ばされ大岩に打ち付けられる。

イーグル2の身体が、ずるりと岩壁を滑り落ちる。


――グォォォオオーーーーーッッ!!!!

思念獣アダムは咆哮を上げると、そのままどこかへ逃げ去った。


逃げ去るその背中には、砕けたコアと、もう2つのコアが(あらわ)になっていた。


[ハウンド4]

イーグル2!!!!


俺とハウンド4は、吹き飛ばされたイーグル2の元へ駆け寄るーー即死だ。


イーグル2の四肢は不自然な角度に折れ曲がっている。美しかったイーグル2の姿形が、見るのも憚れるくらいに、無惨な姿になっていた。


あんなの....無事なわけがない。


ハンターは思念エネルギーを操ることで、身体強化や超能力じみた力を扱う、といったことができる。

だから基本的に思念ハンターは、金属バットで殴られても無傷で済むといった強靭性が得られるのだ。


しかし、能力によって得意・不得意がある。

思念エネルギーを操れるハンターにしても、身体強化には限度があるのだ。

特に戦闘に不向きなイーグル部隊は、身体強化や攻撃を同時に行うのを、あまり得意としない。


そしてイーグル2の思念適正は局所型・高力の「集中タイプ」だった。


つまり思念エネルギーを攻撃に全集中させていた、イーグル2の身体は『華奢な女性』並だ。

思念適正が「万能タイプ」のS級ハンターである俺でも、大きく吹き飛ばされ気絶していたのだ。


そうでない者が、ましてや華奢な女性があの強烈な一撃を喰らえば...。


[ハウンド4]

「イーグル2!!イーグル2!!!」


ハウンド4はもう反応しないイーグル2を呼び続ける。


[ハウンド4]

「起きろよ!イーグル2!!

ッ......リノッ!!!」


ハウンド4が肩を抱き起こす。

力を入れた瞬間、彼女の腕がだらりと揺れた。

反応はない。


[ハウンド4]

「嘘だ...こんなの....」


さっきまで冷静に状況を分析していた声が、もう聞こえない。


『ピッーーピッーーー

ーー急激な感情値の上昇を感知』


ハウンド4のMMTチョーカーから、アラートが鳴り響く。


[ハウンド4]

「リノは、怖かったはずなんだ...イーグル部隊で、戦闘も得意じゃない。攻撃に全部振ってたせいで、防御は紙みてぇだった。それでも前に出た。俺の横に立って、俺たちと前線で戦ったんだ」


ハウンド4はイーグル2...リノだった身体抱きしめる。


[ハウンド4]

「俺は、

ーーリノのことが好きだった」


ハウンド4はリノだった身体を地面に優しく置く。


[ハウンド4]

でもこんな世界じゃ、好きになればなるほど死が近づく。だから俺は、あらゆる手段でずっと必死に抑えてきた。必死に、、、必死に!!!


拳を強く握る。


[ハウンド4]

「たとえ、俺に感情がなくなったとしても、いつかリノと結ばれたかった。家族として、リノと共に人生を歩みたかった...」


ハウンド4は虚空を見つめる。


[ハウンド4]

「たとえ結ばれなくても、リノは俺にとって生きる希望だ。リノが生きていてくれれば俺は幸せだ。でもリノは死んだ」


声が、かすれていく。


[ハウンド4]

「もう、こんな世界は散々だ……。

愛する人がいなくなった希望のない世界で、感情を殺して生きたって意味がない。輪廻転生で同じ魂で生まれ変われたとしても、それは俺の知っているリノじゃない。そもそも、また、“人として”輪廻転生できるかどうか...」


強く握った拳を地面に叩きつけ、叫ぶ。


[ハウンド4]

俺の愛する人が……こんな形で……!

こんな形で死んでいいわけがないんだよ……!


『ピッーーピッーーー

ピッーーピッーーー』


『-ー感情値が86、危険域です。

ただちに感情の抑制措置を行なってください。』


MMTチョーカーのアラート音が、さっきよりも短い間隔で鳴り続ける。

まるで、秒読みのように。


[シェパード1]

「ハウンド4、感情値が危険域だ!

感情抑制剤を——」


[ハウンド4]

「戦う前に使ったアレが最後の1本だ。」


かすれた声は、諦めを帯びていた。


[ハウンド4]

それに、もういいんだ。

俺にはもう、生きる意味も目的もない...。


その言葉は、死を受け入れた人間の響きを帯びていた。


[シェパード1]

ッ......!死なせない....!


俺は、感情抑制剤を取り出すために腰のポーチを開けた。ポーチの中を探る。

――空だ。

数時間前、大きく吹き飛ばされ気絶した時の衝撃で、すべて砕けたらしい。


ハウンド4のアラートは、無常にも鳴り続ける。



[シェパード1]

「ッ...」


拳を強く握る。

他に方法はないか、頭の中で必死に探る。

ハウンド4を殴って、強制的に冷静にさせるか?

いや、激昂すれば逆に悪化する。

砂化のリスクが跳ね上がるだけだ。


『ピッーーピッーーー』

『-ー感情値が97、危険域です。

ただちに感情の抑制措置を行なってください。』

ハウンド4のアラートがけたましく鳴り響いている。


[ハウンド4]

「リノ......リノ......」


ハウンド4――ハルタは、リノだった砂を、指の隙間から零れ落ちる砂を、宝物のように見つめている。


[シェパード1]

「ハルタ!!やめろ!もう何も考えるな!!!」


作戦中だということも忘れ、俺はコードネームではなく本名を叫ぶ。


『ピッーーピッーーー』

『-ー感情値が102、危険域です。

ただちに感情の抑制措置を行なってください。』


[ハルタ]

「あ、あぁ...俺の、か、らだ、、が......」


ハルタの指先から、足先から、砂に変わっていく。

砂化した下半身は上半身を支えきれず、胴体が崩れ、地面に落ちる。


[シェパード1]

「ハルタッ......」


俺はどうすることもできず、膝から崩れ落ちた。


[ハルタ]

「リ、ノ...」


ハルタは、自分だったものと、リノだったものが混ざった砂を、抱きしめるように両腕ですくい上げた。


[ハルタ]

「ま、もれ、なくて……ごめ……」


けたましく鳴り響いていたアラートが鳴り止む。


ーーハルタの砂化を止められなかった。


あの時、複数のコアの存在に気づいていればリノは...

悪化するリスクがあっても、ハルタを殴っていれば...

俺がちゃんと仕留めていれば、こんなことにはならなかった。


過ぎた時間は戻らない。

後悔の念が、じわじわと胸を締めつける。


――そうだ。

イーグル1とシェパード2は、無事に本部へ辿り着けただろうか。

イーグル1。あいつは他人のために自分を犠牲にする。

感情値が上がりやすいから心配だ。


きっと今頃、Z機関本部にいるだろう。


震える指でMMTチョーカーを操作し、

二人の生体反応を確認するため、ホログラムを映し出す。


ーー装着者 : xxx シェパード2 : 生体反応0% 死亡


息が止まる。


ーー装着者 : xx イーグル1: 生体反応エラー

▲認証エラー : MMTチョーカーが装着されていません。

▲生体反応エラー : 生体反応を測定できません。


装着されていない?


外れるはずがない。


つまり。




身体が、存在しない。




[シェパード1]

「う、あぁ......」


――(せき)を切ったように声が溢れ出す。



[シェパード1]

「ぁぁぁぁあああああッ!!!!」


俺は仲間を失った喪失感と、思念獣アダムを仕留めきれず逃してしまった怒りと悲しみを、拳に込めて地面へ叩きつけた。

鈍い衝撃が骨を軋ませる。


『ピッーーピッーーー』


『-ー急激な感情値の上昇を感知。』


『-ー感情値が87、危険域です。

ただちに感情の抑制措置を行なってください。』


うるさい。

感情抑制剤は、もうない。


怒りと虚無が胸の奥で渦を巻き、

自分が自分でなくなりそうだった。

そんな俺の内側の嵐とは裏腹に、雨はぴたりと鳴り止んだ。

アラートは、けたましく鳴り響き続けている。


――俺は、この世界を許せない。


思念獣が現れない、平和だった世界。

誰も砂にならず、誰も悲しまずに済んだ世界。

そんな日常が、どこかにあったはずなのに。

それを奪ったこの世界を、俺は許せない。

こんな残酷な世界なら、いっそ。


_____ぶっ壊してしまいたい_____




そう願った瞬間、目の前の空間が裂けた。


裂かれた空間は次第に大きく歪み、

その中から、フードを被った人影がゆっくりと現れる。裂かれていた空間が、次第に歪曲しながら閉じていく。


[???]

「へぇ、これが30xx年の世界かぁ〜〜!」


場違いな間延びした男性の声が、空間のざわめきに混ざる。


[???]

「おやおや⭐︎こんなところに瀕死っぽいモブAが......ッ!!」


……なんだ、こいつ。


その声の主は、呑気な足取りで近づいてくる。

男は被っていたフードを脱ぎ、俺の顔をのぞき込む。白髪の端正な顔立ちの男が、目に映る。


ーーどこかで会ったことがあるような...。


白髪の男は、俺のMMTチョーカーに手を伸ばす。


[???]

「感情値93...本当に瀕死寸前じゃん」


けたたましく鳴り響いていたアラートが、男の手で止められる。

男の表情が一瞬だけ鋭くなる。


[???]

ふぅん、なるほどね


だが次の瞬間、また軽薄な笑みに戻った。


[???]

ちみぃ⭐︎世界を憎んでるって顔してるね⭐︎


とても端正な顔には似合わない、能天気な声と発言。


突然プスリと腕に注射される。感情抑制剤だ。

暴走しかけていた俺の感情が、じわりと落ち着いていく。


[???]

「これ、今の君には必要でしょ? はい、貸しね」


男はニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべながら言う。


……一体、何なんだ。


[???]

「貸しついでに、君には世界を救ってもらいたい」


男は真剣な眼差しで言う。


世界を救ってもらいたい...?

こいつは、何を言ってるんだ。

俺は、この世界を壊したいと思ったばかりだ。

だが——

もし本当に救えるなら。

誰も砂にならない、平和な世界にできるなら。


[シェパード1]

「願ったり叶ったりだ」


[???]

「いい返事だ。」


男は満足そうに笑う。


[???]

「僕は未来から来た。訳あって本名は名乗れないけど...」


男は大きく息を吸い込みーーー


[ジョンタイター(?)]

「時空の管理者卍ジョンタイター⭐︎♡とでも呼んでくれッ!」


盛大に前髪をかき上げ、そのまま大きく反り返る。反り返りすぎて、あと数センチで後頭部が地面に着きそうだ。


……なんなんだ、こいつは。


[ジョンタイター(?)]

「コホン、きみの名前は?」

[カイン]

俺は...カインだ。


未来から来たという能天気な声の主は、ジョンタイターを名乗る。


かつてインターネット掲示板に現れた、自称タイムトラベラーと同じ名前だ。


ーーだが、あれはただの都市伝説のはず。


相対性理論においても、人間が自在に過去や未来を行き来できる証明はない。

時間は一方向に進む。それが常識だ。


[ジョンタイター(?)]

「はぁ〜。その顔は信じてないね?IBMを作ったのも、回収したのも、僕なんだけどなぁ。」


ジョンタイターを名乗る男は肩をすくめる。


[ジョンタイター(?)]

「しょうがない......」

ジョンタイターを名乗る男は後ろを振り返り、空間に手をかざす。


空気が軋む。

景色が歪み、渦を巻いて引き裂かれる。


思念が形を持つときの歪みに似ている。

しかし思念エネルギーや思念獣は形を持っても、人間のような知能を持たない。


何もないはずの空間が、口を開けた。


[ジョンタイター(?)]

「ははは、どうだい!これ、僕が開発した時空の技術さ。びっくりした?」


ジョンタイターを名乗る男は、こちらを振り向き、両手を大きく広げる。

そして誇らしげに叫ぶ。


[ジョンタイター(?)]

「名付けてッ!『タ・イ・ム・マ・シ・ー・ン』ッ!!↑」


……センスは最悪みたいだ。


開かれた空間の口が、渦を巻いて閉じていく。


[ジョンタイター(?)]

「あと、僕は思念獣じゃない。安心してくれたまえ。」


心を読まれた?

未来の人間は思考まで解析できるのか。


[ジョンタイター(?)]

「なぜ君の思考が分かるのかって?

えっへん。僕はエスパー(嘘)だからね!」


……なんだ、こいつ。


[ジョンタイター(?)]

「これは経験というか、ある種の技術だよ。経験と知識と推測に基づいた人間の心理学的な?君と変わらない、同じ人間ってこと。一応はね。」


さすがにここまで証明されたら、信じざるを得ない。


[カイン]

「でも、世界を救うってどうやって?」


[ジョンタイター]

「君が世界を救う方法、それはね。」


俺は息を呑む。


[ジョンタイター]

「過去に戻り、自分の魂を7回殺す事だ。」


ーーー過去に戻り、自分の魂を7回殺す?


[ジョンタイター]

「厳密には、この世界軸に存在する“君の魂”を7回殺す。そうすれば輪廻上の“自死”を再現できる。」


俺は何を言っているのかわからなかった。

理解が追いつかない。


[ジョンタイター]

「何を言ってるかわからない...って顔だね」


ジョンタイターはどう説明しようか、悩んでいる様子だ。


[ジョンタイター]

「輪廻転生はわかるよね?」

[カイン]

「あぁ。」


ーー輪廻転生。

人は死後、49日で輪廻転生を行う。

しかしこの世界には輪廻転生できる魂の数には上限があり、自然に行われない。

例えば、コップ一杯の水が満杯になると1つの魂が輪廻転生できる...みたいなことが、この世界の輪廻転生のシステムだ。


しかし、この世界ではそのコップの数に上限がある。


コップの数が上限に達した状態で子供が産まれても、

その子供には魂が宿らずただの"肉塊"になってしまう。


俺たちZ機関は、そのコップの上限を増やすために、

思念エネルギーを集めている。

コップの上限が増えれば、この世界で輪廻転生できる人の数がその分増える。


[ジョンタイター]

「君たち『Z機関』が回収してる思念エネルギー。機関で負の思念エネルギーは、正の思念エネルギーに転換されるね。」


魂を持つ人間が死ぬと、その魂は肉体を抜け思念エネルギーとなり、正と負の思念エネルギーが残る。

自然界にも思念エネルギーは正と負の2つが存在している。

2つのエネルギーは自然界をただ漂うだけで、何も影響は及ぼさない。


だが、(かたまり)になった瞬間に性質が変わる。


正は(かたまり)になれば、(たましい)になる。

負は衝撃波や異常現象といった物理的な力へと変質する。

(かたまり)となった正と負が混ざり合えば、

正が"核"を担い、負が"器"を形成する。


それが、思念獣の正体だ。

核を持ち、形を持った、歪な生命体。


Z機関の『浄化装置』は、負の思念エネルギーを正へと転換する機能を持つ。

だから俺たちは思念獣を倒し、散らばった思念エネルギーを回収し、負を正へ戻さなければならない。

それが、この世界の循環。常識だ。


[ジョンタイター]

「この世界にはね、思念エネルギーの他に、輪廻転生エネルギーっていうのがあるんだ」


空気が変わる。


[ジョンタイター]

輪廻転生エネルギーってのは、魂が輪廻転生を行うのに必要なエネルギーなんだ。

それはとてもすごいエネルギーでね。


[ジョンタイター]

君がつけているそのネックレス...


〈ネックレス立ち絵〉

父から譲り受けたネックレスを指差される。


[ジョンタイター]

それ、輪廻エネルギーを回収できる装置だよ

〈ネックレス立ち絵アウト〉


[ジョンタイター]

「とりま、その輪廻転生エネルギーを集め、願望樹(がんぼうき)に一定の量を注ぐと1つ願いが叶えられるようになる」


[カイン]

「願望樹?」


[ジョンタイター]

「あー......今だと浄化装置ってやつだったかな。

負のエネルギーを正のエネルギーに転換できるよね?それが願望樹だよ。」


[ジョンタイター]

「願望樹は元からこの世界に自然に存在していた、世界を循環させるシステムの1つだ。」


ジョンタイターは悲しそうな顔をして、ズイっとこちらに寄る。


[ジョンタイター]

「しかしカミサマってのは意地悪でぇ(しくしく)

なーんか、どっかの誰かさんが変なお願いしちゃってぇ!世界がこんなんになっちゃったんだよねぇ、、、(ぴえん)(泣)」


ジョンタイターは戯けた表情から一変し、また鋭くなる。


[ジョンタイター]

「願いを叶えられる願望樹といえど、完全ではない。」


ジョンタイターは真剣に続ける。


[ジョンタイター]

「願いを叶えるにも、代償があるってことだよ。大きい願いほど、その代償も大きい。人にすぎた願望と力は世界を滅ぼす。この世界は綺麗なまでに、調和で成り立っている。君は世界を救い、変えることを望むが、別の形の破滅が訪れるかもしれない。」


人差し指を立て、空気を壊す。


[ジョンタイター]

「この世界は綺麗なまでに、調和で成り立っている。(キリッ)とかいったけど、その不条理を覆す方法はあるんだよね。」


[カイン]

「の不条理を覆す方法?」


[ジョンタイター]

「それが輪廻上の自死の再現だ。」


[カイン]

「何がどうしてそうなる。一体、何の関係が?」


[ジョンタイター]

「輪廻転生には、思念エネルギーのほかに、輪廻転生エネルギーが必要なのは理解(わか)るね?」


[カイン]

「あぁ。」


[ジョンタイター]

「輪廻転生のルールにおいて、自害は輪廻転生を0にする。自害した魂は輪廻転生を行わず、生まれたての魂になるんだ。」


ジョンタイターは問う。


[ジョンタイター]

「現世の自分が、前世の自分を

殺すとどうなるとおもう?」


現世の自分が前世の自分を殺すとどうなるか...。現世の自分も前世の自分も同じ魂を持っている。それなら答えはひとつだ。


[カイン]

「同一の魂を殺すから、自害になる?」


[ジョンタイター]

「半分は当たりで、半分は外れ。

答えは、自害に見せかけた他殺になる。」


ジョンタイターは続ける。


[ジョンタイター]

「同じ魂の殺人だけど、自分の手で自害した訳じゃない。だから自害に見せかけた他殺、"自死の再現"になる。このバグが、世界を騙し、世界を救うカギだ。」


[ジョンタイター]

「そして、この輪廻上の自死の再現で生まれる輪廻転生エネルギーは、途方もないパワーになる。いわゆる、バグ技チートってやつ?」


ジョンタイターは真剣な表情で問う。


[ジョンタイター]

「改めて訊く。」


真剣な表情で、俺の顔に視線を向ける。


[ジョンタイター]

「それでも君は世界を変えることを望み、世界のために戦えるのか。」


ジョンタイターの視線が、真っ直ぐ刺さる。


俺は息を呑む。

俺の胸の内にあるのはーー


[カイン]

「この絶望の世界を変えられるなら、俺は戦う。」


[ジョンタイター]

君なら、必ずそう答えてくれると信じてたよ。

ジョンタイターは満足そうに微笑むと、こちらに手を伸ばす。


「!!」


条件反射で、俺は手を払いのける。


[ジョンタイター]

「ごめん、びっくりさせたね

これを渡そうと思って」


そう言ってジョンタイターは手のひらを見せると、そこには、小さなチップが置かれている。


[ジョンタイター]

「タイムマシーンだよ」

[カイン]

「……これが、タイムマシーン?」

[ジョンタイター]

「あはは、タイムマシーンが大きな乗り物だと思った?ナンセンス!」


息を大きく吸い込み...


[ジョンタイター]

「技術者は何でも小さくしたがる性癖があるんだよ!(ドカーン)」


ナンセンスって...センスが最悪なお前が言うか。


[ジョンタイター]

「それじゃ、君のMMTチョーカーに、

タイムマシーンをインストールするからじっとしててね。」


.

.

.


[ジョンタイター]

「はい、完了っと!」


タイムマシーンのインストール以外にも、何か他のこともやっていたようで、少し時間がかかったらしい。


[ジョンタイター]

「ついでに輪廻回収機能も追加したよ。そのネックレスに溜め込む形で連携させてある。輪廻エネルギー回収モードにすれば、自動的に回収されるよ。」


説明を受けながら、使い方を理解する。


[ジョンタイター]

「タイムリープモードにして、空間に手をかざしてみて。」


説明を受けながら、使い方を理解する。


[カイン]

「ッ......」


言われた通りにやると、ピピッーーと音が鳴る。

ーータイムリープモード起動、トラベル先を設定してください。

MMTチョーカーからAIの音声が流れる。


[ジョンタイター]

「トラベル先はそうだね......今から1000年前の20xx年に設定!」


空間の裂け目が大きく開き、時空が姿を現す。

暴風のような風が吹き込む。

空間そのものが悲鳴を上げているようだった。


[ジョンタイター]

「言い忘れていたけど、パラドックスを避けるため、トラベル先では時空の管理者として『ジョンタイター』を名乗ってほしい」


ジョンタイターは続ける。


[ジョンタイター]

「“今日”の君がタイムリープして“昨日”の君を殺す...なんてこともしないようにね。"同じ世界の自分"を殺してしまうとそれは自害になるから。


ジョンタイターは俺の耳に、口を寄せる。


[ジョンタイター]

「なにより、深刻なパラドックスを引き起こす。」


ズキン、と頭の奥を針で刺されたような痛みが走る。視界が二重にぶれ、空間が波打つ。


[ジョンタイター]

「まあ、後の詳しいことは、ジョンタイターver.小動物もどき(笑)が案内してくれるよ」


背中を押された。


[カイン]

「えっ……ちょ――」


言い終わる前に、足場が消える。


[ジョンタイター]

「困ったことがあれば、ジョンタイターver.小動物もどき(笑)や世界のあちこちにいるジョンタイターを頼ってみてくれ!」


空間に飲み込まれた瞬間、身体が引き伸ばされる。

骨も肉も溶け、一本の麺のようにぐにゃりと歪む。

上下も左右もわからない。

遠くで、タイターの声だけが陽気に響く。


[ジョンタイター]

「それじゃ、いってらっしゃーい⭐︎」


笑顔で大きく手を振る姿が、裂け目の向こうで歪む。

空間の境界がゆっくり閉じていく。

裂け目は細く、細く、糸のようになり――やがて完全に消えた。


[ジョンタイター]

「今度こそ...君が無事に戻ってこれるの期待してるよ」


こうして、俺の長いタイムリープの旅が始まった___

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