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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
未来の始まり
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アスクとミッシェルの結婚

 マルセルやジャンヌの領館がモードネス家に移ったため、ミッシェルもモードネス家で仕事をしていたが、尖塔で暮らすジョセと連絡をとるために、度々シフォン家横の尖塔を訪れていた。

 マルセルへの扱いが酷いと言う噂が広がってからと言うもの、シフォン家には屋敷が維持できないほど寂れた時期があった。

 仕方なくアスクは使用人の数を減らして、何とか凌いできた。

 それを見ていて危機感を持ったマルセルたちの協力もあり、元々質の高い経営をしていたこともあって、徐々に元のような賑わいを取り戻しつつあった。

 それでも減らした使用人を元のようにまで戻すことはまだ難しく、特に海の国からの定期市が開かれる時などには、手が足りなくなることもあったのだ。

 そんなアスクの疲れ切った様子を見ていたミッシェルが、忙しい時には遠慮なく言って欲しいとアスクに声を掛けていた。

 最初はアスクも遠慮していたのだが、ある時どうしても家を空けないといけなくなり、困ってミッシェルに相談した。


「ミッシェルさん、申し訳ないが留守の間、屋敷を見ててもらえないだろうか」

「いいですよ」


 快く承諾したミッシェルに後を任せて家を出たアスクだったが、よくよく考えてみると、今までミッシェルに屋敷の管理を少しでも任せたことは無い。

 気付いてからは、帰って来るまで心配でならなかった。

 ところが帰ってきて目にしたのは、まるで元からいる女主人でもあるかのような彼女の采配と、その手際の良さだった。

 それからはミッシェルに全面的に信頼を寄せ始め、手伝いを申し入れることが多くなったが、その内容は正に主のやる仕事に相当するものだった。


「遠慮しないでおっしゃってくださいね」


 ミッシェルはどんな仕事でも、仕事をすることを楽しんでいて、アスクが願ったことは完璧にこなしていった。

 そうなると日々の生活にも余裕が生まれてくる。

 暇が出来た時は、東屋の椅子に向かい合って座り、二人でお茶を飲むようになった。

 そこで話すうちに、将来に向けたシフォン家の経営についても話すことも増え、ミッシェルとアスクは意気投合していった。

 お互いが信頼で結ばれていって、後は形にするだけとなった。

 

 ある日、お茶の途中で急にアスクが切り出した。


「ミッシェルさん、正直に本音を語っておきたい」

「僕は君と結婚したいと思っている。だけどーー」


 アスクはミッシェルにモードネス家の呪いのことを打ち明けた。


「だから、結婚してくれとは言えないのが辛い」


 その言葉は自分が示すべき気持ちを彼女にすり替えたものだとすぐに気がついて、アスクは顔を赤らめた。


「卑怯な言い方をして申し訳ない」


 そう言って、アスクは頭を下げた。

 頭を下げたままでいるアスクを見ていたミッシェルは、笑みを浮かべるとアスクの手を取った。


「あなたが望んでいるなら結婚してもいいーーあっ、いえ、私はあなたと結婚したいわ」


 アスクは驚いた。もう明日から彼女の顔を見ることはないだろうと思っていたからだ。


「改めて謝罪させて欲しい」

「気にしないでいいわ。私も同じようなことを言いかけたもの。お互い様よ」


 恥をかかせないようにしてくれたミッシェルの配慮が嬉しかった。

 それでも、大事なことは確認しておかないといけないと思ったアスクは覚悟を決めた。


「君はモードネス家の呪いのことは気にならないのか?」

「子供や孫や、子孫までモードネス家の呪いが続くかもしれないんだよ」

「それでも、僕は君についてきて欲しいんだ」

「ええ、その時は、あなたといっしょに呪いの苦しみを共にしたいわ」

「それよりあなたこそ、こんなお姉さんだけどいいのかしら」

「ミッシェルを愛しているんだ」


 アスクが立ち上がり、ミッシェルの前で片膝をついて、手を伸ばした。


「結婚してくれないか。ミッシェル」

「もちろんよ。アスク」


 そう言って、ミッシェルはアスクの手を取ると、アスクに口づけをした。


「どんなことがあっても、後悔しないわ」


 二人はすぐにモードネス家に出向き、結婚することをデノーテに報告した。

 デノーテは喜んだが、ミッシェルを見て言った。


「モードネス家の呪いに立ち向かう覚悟は本当にあるの?」

「はい、そのことは二人で話し合いました。それは天命として受けるしかないと」

「私は知らなかったから結婚したけど、もし知ってたら、いくら相手が最愛のバッセだとしても、結婚したかどうか自信は無いわ」

「あなたにその覚悟があるなら、そんな私には何も言えない」

「さあ、広間にいる皆に報告しに行きましょう」


 デノーテは二人を皆の前に連れて行き、結婚を報告させた。


「魔女先生、おめでとうございます」


 マルセルがミッシェルにお祝いの言葉をかけて、横にいたアスクの手を取った。


「おめでとうございます。アスクーーお兄さま」

「ありがとう。考えてみれば二人だけの兄妹なんだ。これからは仲良くしてくれ」

「もちろんですよ。ミッシェル義姉さまもいるんですもの」

「あらマルセル、魔女義姉さまと呼ばれるのかと思ってたわ。残念ね」

「私たちはこれからも魔女先生とお呼びしますよ」


 ファーナとジャンヌがそう言って皆を笑わせる。


「モードネス家の呪いについては、私がいるうちは大丈夫ですし、必ず何とかしますので、心配しないでおいてください」


 マルセルがそう言うと、ミッシェルはマルセルの手を優しく握り、笑顔で答えた。


「そのことはいいの。もう覚悟は出来ているから」

「それよりーー」


 ミッシェルが顔を少し赤らめる。


「ーー結婚式の後で、私たちもあの尖塔の屋根裏部屋で一晩過ごさせてもらえないかしら」

「いいですよ。ねえ、ジョセさん?」

「もちろん!ジャンヌさんにも使ってもらいましたからね」

「尖塔で暮らしたことのある三人の中で、私だけがまだ夫婦として使えない訳か。残念」


 マルセルが肩を落とす。


「じゃ、私が先に使わせてもらおうかしら」


 ファーナの言葉に皆が驚いた。


「ファーナ、まだ学生だから卒業するまで待ちなさいって言ったでしょ!」


 全員が同時に叫ぶ。


「まさか。冗談ですわ」


 その後、アスクとミッシェルの間には三人の男の子が生まれる。

 アスクもバッセのように、聖女の証を持つ娘を探すか、普通の貴族になるか迫られたが、もうそんなことは気にせず、シフォン家の稼業にミッシェルといっしょに励むことにした。



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