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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
未来の始まり
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母ミネルバ

 弟妹が見つかった騒ぎも落ち着いたころ、自分の知らない母のミネルバをもっと知りたいと思ったマルセルはチュールを呼んで話を聞くことにした。

 興味津々のジャンヌとファーナもそばにいる。


「ねえ、チュール お母さんはいつ亡くなったのかしら?」

「9年前です」

「9年前と言うとーーあの時か!」

「あの時ですね」


 マルセルとジャンヌには思い当たる節があった。


「やはり、それまでお母さんが”祝福”を送ってくれていたんだわ」


 ジャンヌがコクコクと頷いて、同意する。


「ところで、チュール、お母さんは私のことを何か言ってなかった?」


 自分の生まれた時の様子が知りたいと、一縷の望みを持ったマルセルがチュールに聞いた。


「知ってますよぅ」


 チュールが悪戯っぽく返してきた。


「お姉さまは、おっぱいを飲んでいるときに精霊の力を吸う力がものすごくて、殺されるかと思ったと言ってましたよ」

「えーっ」

「だから早く手放すしかなかったんだとか」

「マルセルさまは生まれる前からずっと、お母さまの精霊の力をいただいていたと言うことでしょうか」

「生まれた時には光らなかったのは、精霊にも入り込む隙が無かったのかも知れないね」


 ジャンヌの言葉にマルセルも同意する。


「それはですねーー」


 チュールが得意そうに続ける。


「自分の子供に精霊の力が宿っていることを、お母さんは出来るだけ隠そうとしていたみたいです」

「お披露目が終わった後になって初めて、私もそのことを聞かされたんです」

「お姉さまだけじゃなく、私が生まれた時も、聖女認定の時も、お披露目の時も、私の力を吸い取って隠していたと言っていました」

「そして死ぬ直前になって、”返すわ”と言って、お母さんの持っていた精霊の力を私に注いでくれたんです」

「だから公には、わたしに精霊の力があることを知る者はいません」

「お母さんはそれからすぐに亡くなりました」

「あの時にそんなことがあったなんて」


 ジャンヌはマルセルが言いようのない悲しみに暮れていたことを思い出していた。


「お母さまは、残っていた精霊の力を全てあなたに授けたということね。他人ごとではないわ」


 ファーナがそう言うと、チュールがこくんと頷く。


「私はお母さんの言いつけを守って、これまで自分の力を人に見せたことはありません。ここしかないという時に、命を賭けて使いなさいと、お母さんは言っていましたから」


 それは自分に向けて言われたことでもあると、マルセルは胸が痛む。


「精霊の力を使い切ると死んでしまうと、お母さまは気付いておられたんでしょうか」

「使い道も無いまま亡くなられたのは悔しかったでしょうに」

「エレノア元王妃の話では、もしミネルバさまがシバー家に残っておられたなら、間違いなく今の王家はシバー家になっていたとのことでしたからね」


 ジャンヌが感心して言う。


「あら、チュール じゃ、あなたが女王さまだったかも知れないのね」


 ファーナが茶化すと、チュールも負けずに言い返す。


「ファーナさまもシバー家の血を継いでおられるでしょうに。それに兄ともいい仲じゃないですか」


 まあ、まあとジャンヌが間に入った。

 ジャンヌはミネルバのとった行動について考えていた。


ーーミネルバさまは、自分の力をシバー家のために使えなかったことだけを悔やんでおられたのかしら。


「でも、この最強のマルセルさままでお生みになったのだから、誰にも非難はさせたくないですわ」


 そう言って皆を見回す。

 ミネルバがどんな気持ちでいたかはわからないが、この場にいる皆もそう思っていた。


「恋多き乙女よ! きっとすごく情熱的な方だったのよ」


 ファーナが感激の目で声を上げる。


「それはシバー家の血よ。ファーナそのものだわ」


 マルセルが、ファーナとサックスのことを茶化す。


「その点、マルセルさまはそれを受け継いでおられないような」


 今度はジャンヌが茶化す。


「なによ、それ。でも、それは私の父が反面教師になっているのかもね」


 真顔になったマルセルが応じた。


「精霊の力を使うだけでなく吸い取れたのか。ファーナも同じようなことが出来てるわよね」

「私は吸い取るだけで、捨てる事しか出来ないけどね」


 自嘲気味にファーナがつぶやく。


「でも、情熱的なのはファーナも受け継いでいるんじゃない?」


 サックスに一目ぼれして付きまとっているファーナをまたマルセルが蒸し返す。

 赤くなったファーナはマルセルの言葉を無視した。

 それを横目で見ていたジャンヌが相槌を打つ。


「エレノアさまとミネルバさまは姉妹だから、それは間違いなくあり得ますね」

「それがシバー家の力ということかしら」

「ミネルバ母さんは、離れていても死ぬまで私に”祝福”を送り続けてくれていたというなら、私やチュールにもそれが出来るのかな?」

「残念ながら、ミネルバさまがおられないのでは、どうすればいいのかがわかりませんね」

「エレノアさまも、ファーナに精霊の力を送っておられたのでしょう?」


 ジャンヌがファーナに問いかける。


「母は、わからないけど出来たとしか言わなかったわ」

「やり方はわからない。やれば出来た。精霊の力が無くなった。死んでしまう」

「そこが問題ね。どうすれば死なずに済むか」

「結局のところ、何もわからないまま力を使えば死ぬということだけは間違いないのよ」

「たぶんそれは、ミネルバ母さんもわかっていたのじゃないかな」

「自分は使い切る機会を失ったから、私を守るために使い、後はチュールに託した」

「そうかもしれませんね」


 マルセルはシバー家のミネルバの部屋で感じた若き日のミネルバの姿を思い浮かべていた。


ーーあの頃は、精霊の力をどう使おうと思っていたのかしら?


「悔やんではおられなかったと思いますよ」


 ジャンヌの声にハッとしたマルセルがジャンヌの顔を見る。


「精霊の力が強い娘を二人もお産みになったのですもの、満足されているのじゃないでしょうか」


 精霊の力を使い損ねて後悔しているんじゃないかと考えていたマルセルは、ジャンヌに悟られたのを知って顔を赤らめた。


「そうよね。お母さんは悔いてなんかいないでしょうね」

「私とチュールがそれを証明すればいいだけだわ」

「えっ、私もですか?」

「当たり前でしょう。姉妹なんだから」

「それを言われると、返す言葉がありませんけれど」

「冗談よ。心配しないで私はあなたに重荷を負わせる気はないわ」

「たぶん、お母さんも同じように考えていたんじゃないかしら」


 マルセルがかみしめるように言葉を選んで話し始めた。


「力のちゃんとした使い方がわかるまでは、力が使えないように吸収しておいた」

「でも、ちゃんとした使い方がわかるようになるまでは自分の命が持たないことがわかったからーー」

「チュールに力を返すしか無かったのよ」

「だから、チュールは無暗に力を使わないように、大人しく待っていてちょうだい」

「私が力のちゃんとした使い方を探し出すまではね」




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