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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
未来の始まり
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謝罪と出会い

 ジョセが謝罪をしたいと言っていると、アスクから報告を受けたファーナ女王は、すぐに謝罪の受け入れを承諾し、モードネス家の広間に先王夫妻と、モードネス家のマルセル、デノーテ、ジャンヌたちを王館に呼び集めた。

 ジョセは心を入れ替えたようだと前もってアスクから聞いてはいたが、幼い頃にジョセから受けたファーナへの仕打ちが心に引っ掛かり、ドキドキしながら待っていた。

 ジョセはアスクとシャークと共に神妙な顔つきで広間に入って来ると、ファーナの前まで来て頭を下げた。

 ややあって、頭を上げたジョセが口を開く。


「女王さま、ご挨拶が遅れて真に申し訳ございません」

「この度のことはーー」


 ジョセの顔からは以前のような傲慢さが消えていた。

 それどころか、今なら王位を継いでもおかしくないほどの気品に満ちていた。


ーーお兄さまは本当に変わったんだ!


 嬉しくなったファーナは、ジョセの言葉を最後まで言わせず、途中で遮った。


「もう終わったことです。お兄さま、仰々しいことはやめましょう」

「いや、そうは言っても」


 ファーナ女王の横で、信じられない面持ちでジョセを見つめていた元王夫妻に向き直る。


「父上、母上 これまでの親不孝、お許しください」

「何の、こうしてここで、お前が自分の言葉で謝罪してくれただけで十分だ」


 今度はマルセルに向かい、ジョセは頭を下げた。


「マルセルさん、君にも迷惑をかけた。許して欲しい」

「いえ、私は何もーーそう言えばーー」

「ジョセさまは、私たちの尖塔に住みたいとおっしゃっていると、アスクさんからお聞きしておりますが?」


 マルセルが話を変える。

 ジョセの顔がそれまでと違った明るい顔に変わり、話を始めようとする様子を見て、安心したファーナが声を掛けた。


「楽しいお話になりそうだから、お茶を飲みながら聞きましょう」


 そう言って、皆に椅子に座るよう促し、メイドにお茶を出すよう合図した。

 皆が席に着くと、待ちきれなかったようにジョセが語り始めた。


「ああ、あそこでの生活は楽しい!」

「私も君たちと同じように、階段下の石畳の上で書棚の本を読んでいるんだぞ」

「一階にある本は全部読んだ。つくづくあそこでの君たちの努力が身に染みたよ」


 それを聞いて、マルセルは嬉しかった。


ーーモードネス家に尖塔を移さなくて良かった。

ーーあの尖塔にある本はこれからも、あそこを訪れる人たちに癒しを与え続けてくれるに違いないわ


「そういうことでしたら、どうぞ遠慮なくお使いください」

「そうさせてもらえれば有難い」


 皆の前にお茶が運ばれてきた。メイドたちが退室すると、ジャンヌが聞いた。


「身の回りのお世話をする者を置きたいのですが、何かご希望は?」


 アスクから、シフォン家に現れたときの酷い様子を聞いていたので、身の回りの世話をする者が必要だろうと思ったのだ。


「いや、それは構わないでくれていい」


 今までのジョセの生活からは想像出来ない、しっかりした答えが返ってきたので、皆は驚いた。

 その様子を感じ取ったジョセが、お道化て続ける。


「不思議だろうーー以前の僕だったら、人の手を借りないなんて考えられないよね」

「ここに来るのが遅れたのも、そのせいだったからね」


 アスクはジョセがシフォン家に現れた時のことを思い出して、鼻をすすり上げる。

 それを横目でちらっと見たジョセが真顔になった。


「実はもう、マッケン爺さんの伝手でケトゥ村の娘が来てくれて、すでに世話をしてもらっているんだ」

「へえ、ケトゥ村のーーですか?」


 マルセルとジャンヌが目を合わせる。


「これがまた、よく気のつく娘でね」

「この娘にも”聖女の証”があってもいいはずだと、彼女の双子の兄が言っているくらいだからね」

「彼女には”聖女の証”があったのですか?」


 驚いたマルセルが尋ねた。


「いや、それは調べたことは無いらしい。だけど兄の話だと、彼女が寝てるときに時々光っていることがあったとか」


 マルセルとジャンヌは目を見合わせたまま頷き合った。

 そんな二人に気づかず、ジョセは話を続ける。


「実は、この部屋に入った時に君を見て驚いたのだが、兄の方はマルセルさんに瓜二つだったぞ。妹の方は母親にそっくりらしい」


 マルセルは胸の動悸が早くなるのを覚えた。


「ケトゥ村? 私に似てる? 彼らのお母さんの名前は聞いてませんでしたか?」

「家族のことはあまり話してくれなかったが、母親の名は確かーーミネルバだったか?」


 それを聞いたマルセルが立ち上がって叫んだ。


「それ、私を生んでくれたお母さんです。間違いありません!すぐに彼らに会わせてください」


 マルセルはジョセの返答も聞かず、驚いて声も出ない彼の手を引いて、部屋の外に飛び出して行った。

 その場に残されて、何が起きたかわからず唖然としている皆に、事の経緯を説明したジャンヌも、アスクと一緒にシフォン家に急いだ。

 シフォン家の広間で待っているマルセルたちの前に、シフォン家から連絡を受けた兄妹が、何が起きたのかわからない様子で部屋に入って来た。

 マルセルが一度も見たことの無い母が、大きくなったマルセルを連れて、マルセルたちの前に現れた。

 兄はサックスと言い、確かにマルセルにそっくりだった。

 妹はチュールと言い、こちらは母のミネルバにそっくりらしい。

 何か粗相でもあったのかと固くなっている二人の前にマルセルが近づき、抱きしめて言った。


「私はあなたたちの姉よ。よろしくね」


 驚く二人にマルセルが優しく問いかける。


「あなたたちのお母さんのことを教えてちょうだい」

「母は亡くなりました」


 やはりミネルバは亡くなっていた。


「じゃ、今はどうしているの」

「二人で暮らしています。母が家とお金を残してくれていたので」

「そう、良かったわ。でもこれからは私も含めた生活に入って欲しいの」


 そう言って、二人の肩を抱き締める。


「もっと忙しくなるわよ」


 そしてジョセの方を振り向くと、にこやかに笑って、頭を下げた。


「ジョセさま、すみません。この二人は私が引き取ります」


 そう言うと、ジョセの了解もそこそこに、驚いて声も無い双子を連れて、モードネス家の館に戻っていった。

 唖然としているジョセの前で、ジャンヌが呼び寄せたメイド学院の優秀な生徒にジョセの世話を引き継がせると、ジャンヌもまたモードネス家に帰って行った。

  

「アスク、これはどういうことなんだ?」

「私にもよくわかりませんが、ジョセさまも”こちらの人間”になったことは間違いありません」

「お前、古いことをよく覚えているなぁ」

「肝に銘じてますから。それよりもーー」

「ここでこれからどう過ごされるかお考え下さい。出来る限り、お手伝いします」

「そうだな。私にも手伝えることがあったら言ってくれ」


 モードネス家に戻ったマルセルは、二人をファーナ女王の前に連れていき、マルセルの弟妹だと紹介した。

 すると、マルセルに瓜二つのサックスを見たファーナが、一目見るなり叫んだ。


「この方は私の運命の人だわ!」


 そう言うなり、サックスに纏わりついて離れなくなってしまった。

 サックスもファーナが気に入ったようで、すぐにファーナと仲良くなった。

 そして二人は互いの同意を得ると、サックスと結婚すると、ファーナはみんなの前で宣言してしまった。


「ファーナ、あなたはまだ学生の身でもあるのよ」

「学生だから結婚しちゃいけないってことは無いでしょう?」

「でもね、サックスはまだ教養を身に着けていないのよ。学園で勉強する必要があるわ」

「そうそう、遊ぶ暇もないくらいにね」

「でないと、サックスが笑い者になるのよ。ファーナはそれでもいいの?」

「それは困る」

「だから、あなたたちが学園を卒業して、まだ結婚する意志があったら、結婚すればいいじゃない」

「うう」


 一目惚れの二人に冷却期間を持たせようと、マルセルとデノーテは二人を説得するのが大変だった。


「お義母さま、ファーナって、あんな子でしたっけ?」

「あの子は、あなたが好きでたまらないから、サックスにあなたを見ているのかも知れないわよ」

「えっ、これは私のせいなんですか?」

「そうね。責任を持つ必要があるわね」

「そんな」

「どの道、私たちがファーナを支えないといけないんだから、大したことじゃないでしょう?」

「でも、年上の私には想い人がいないのに。不公平だわ」


 デノーテがマルセルを抱き寄せた。


「あなたも一目惚れ出来るよう、頑張ればいいじゃない」

「まわりにそんな男の人がいないんですよぅ。周りは女の人ばかりだし、たまに男の人に会えば妻帯者でーー」

「このまま歳を取るのかなあ」

「馬鹿なことを言わないで。まだそんな歳じゃ無いでしょう?ファーナが早すぎるだけよ」

「でも、追い越されちゃった」


 デノーテに抱かれて愚痴を聞いてもらっているマルセルは、本当の親子以上に甘えていた。

 そばで二人の会話を聞いていたジャンヌもその輪に入りたかったが、二人の仲睦まじさに押されて遠慮していた。

 その様子に気づいたデノーテがジャンヌに声を掛けた。


「ジャンヌ、お姉さんだからって遠慮しなくていいのよ。こっちにいらっしゃい」

「久しぶりに三人でお話ししましょう」

「はい、お義母さま」


 ジャンヌはデノーテの空いた手の中に飛び込んで行った。

 



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