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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
変わり目
64/65

備え

 海の国の商人との話し合いを終えてしばらく経ったころ、シフォン家のアスクの屋敷にファーナ女王から使いが来た。

 王を決める集まりの最中に、ジョセと一緒に途中で席を立っていたアスクは、何かお咎めがあるのかと気を揉んだ。

 だが、使いはアスクに思いも掛けないことを言った。


「南の森の街道のシフォン領側に関所を設けたいのです」


 一瞬驚いたが、アスクも今はシフォン家の当主だ。気を取り直して答えた。


「設けるのは良いとしましょう。ですがその関所の管理をシフォン家にせよと言われても、今のシフォン家には我が領以外のことに費用を割く余裕はありませんよ」

「それに今まで何の問題も無かったのに、今になってなぜ関所を設けないといけないのでしょうか」


 使いの者は、それは想定内だとばかりに、落ち着いて話し始めた。


「ファーナ女王がまだ王女でおられる時、刺客に襲われたのはご存じですよね」

「その刺客が海の国の言葉を使ったらしいのですよ。つまり、この街道を通って入って来たかも知れないということです。ですからーー」

「それはモードネス家の人間がやったことで、シフォン家には関係ないですよね」


 使いの者はちょっと肩を竦める。


「ええ、ですがモードネス家のデノーテさまは、あなたのお母さまですよ」

「母はシフォン家から離縁されています」


 アスクもつい熱くなって答える。


「まあ、そんなに熱くならなくてもよろしいですよ。とにかくーー」

「こちらとしては、シフォン家には関所を置くことを承諾していただくだけで結構ですので」

「えっ?」

「関守にはシャンツ家が峠に置いていた兵士と、モードネス家のデノーテさまの私兵を充てるとのことでした」

「我が領に、他領の兵士を置くということですか?」


ーー尖塔だけじゃなくて、関所までもシフォン家の権限を奪うのか!


「それは許容しかねます!」


 アスクの頭に尖塔をシバー家の飛び地とされたことがよぎり、熱くなって我を忘れかけた。

 そんなアスクに使者が水を掛ける。


「では、シフォン家だけで全部やっていただけるということですか?」

「そういう意味ではーー」


 シフォン家で全てやるとなれば、それでなくてもギリギリの財政をもっと圧迫することになるのは目に見えていた。

 かと言って、相手の言葉を認めることは、アスクのメンツが許さなかった。

 使いの者は葛藤するアスクを見つめていたが、目を逸らすと、さも諦めたように告げる。


「どうしてもシフォン家領に関所を造らせないとおっしゃるのであれば、そう報告しておくしかありませんな」

「造らせないという訳ではなくてーー」


 それでなくてもジョセを筆頭とした反ファーナ派だと自分が思われていることに気がついたアスクは、慌てて打ち消した。


「私の領に他の領の人間を置くのが嫌なだけで、造らせないとはーー」


 そんなアスクを見た使いの者が、口元に笑みを浮かべると、アスクの思いもよらぬことを言い出した。


「関所を造らせていただければ、今まで王都で開いていた定期市を、関所の近くのシフォン領内で開きたいとファーナ女王はおっしゃっています」


 急な話の変化に、アスクは驚きを隠せなかった。


「このシフォン領で、あのシャンツ家の財源である定期市をーーですか?」

「はい、ただしこの件について、アスクさん、いや、シフォン領主の了承がいただければの話ですが」


 王都で開かれる定期市でシャンツ家は大きな利益を得ているとアスクは聞いていた。

 その利益の泉をシフォン家に譲り渡すと言われているのだ。拒否が出来るわけは無い。


「そこまでおっしゃられるなら仕方ないですな。わかりました。いろいろと不本意なところはありますが、承諾しましょう」


 精一杯、渋々だぞと言わんばかりの振りをして、アスクが承諾の返事をした。


「それでは、ここに関所と定期市の位置と場所とその広さを書き置いたものがありますのでお渡して置きます」

「関所の工事は、女王の許可が下り次第に始めさせて頂きます」

「三か月後には、海の国から商人がやってきますから、市を開く場所の準備などはシフォン家でお願いします」


 帰りかけた使者が思い出したように振り返ると、アスクに言った。


「そうそう、今回は今まで通りにモードネス家の主催とさせていただきます」

「次回からの商売については、その時に彼の商人とシフォン家で取り決めを行ってください」

「わかりました」



 使いの者が帰ってくると、ファーナたちが結果を尋ねた。


「どうでしたか?」

「皆様の申された通りに事が運びました」

「それは良かったわ。では、計画を進めましょう」


 そう言うと、ファーナはデノーテの方を向いた。


「改めて伺いますが、義母さま、本当によろしいのですか?」


 デノーテは関所にモードネス家の私兵として、刺客として捕えられていた男の家族を充てると言ったのだ。


「言ったでしょう?彼らはモードネス家のために尽すと言っているのよ」

「形の上ではモードネス家が王家なんだから、裏切るようなことはしないでしょう?」

「それに峠を守っていた元シャンツ家の兵もいるから、心配ないわよね」


 ファーナは心を決めた。


「お義母さまがそう言われるならーー」


ーー絶対に侵入なんて許さないようにしましょう。


「それにしてもーー」

「一つ片づけたらすぐ次の問題が出てくるなんて、どうなっているのかしら」


 マルセルが頭を抱えて独り言を言っている。


「考えてみたら、片づけたというより、後回しにしただけの気がするわ」


 それを聞いたファーナ女王がマルセルの耳元で囁いた。


「マルセル義母さまは何でもすぐ解決する達人として有名ですのにね」

「私に遠慮して抑えておられるのなら、心配しないで早く解決しておいてくださいね」

「残されても困りますもの。それに、立つ鳥跡を濁さずと言いますでしょう?」


 そう言うと、他人事のようにマルセルの肩を叩く。


「頑張ってくださいな」

「ファーナっ!」


 マルセルが叫んで振り向いた先には、もうファーナ女王の姿は無かった。



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