刺客?
まだ日も登らぬ薄暗い中に、王館に衛兵の声が響いた。
「待て!どこへ行く」
「ここを王館と知って入って来たのか!」
「俺はまだ何もーー」
「うるさい!こっちへ来い」
この国始まって以来の珍事が起きた。
王館に刺客が現れのだ。
ファーナが狙われたらしいのだが、その行動は全くお粗末なもので、ファーナの部屋にたどり着くどころか、王館に足を踏み入れただけで捕まってしまった。
刺客を捕らえた警備責任者のガークがファーナに報告してきた。
「毒を塗った短剣を隠し持っておりましたので、捕まえて尋問を行いました」
「奴が白状した話によると、ファーナさまを狙ったのは間違いないようです。ただ変なことを口走っていまして」
「自分はモードネス家に所縁のある者だと言うのですよ」
「それに、狙ったのはシバー家の血筋の者だと」
「シバー家のお陰で、モードネス家は大きな被害を受けたと言っております」
エレノアのシャンツ家とデノーテのモードネス家の間で起きた王家争いのことを言っていると思われるが、すでに十年以上前の話だ。
「確かに私はシバー家の血を受け継いではいますが、なぜ私が狙われたのですか?」
「お母さまもマルセルさまもシバー家の血を引いているわ。お兄さまだってそうですよ」
ファーナは訳がわからない。
ガークが言い難そうにしていたが、皆の目を感じて、仕方なく声を張り上げた。
「一番弱そうだったからと白状しております!」
「男じゃ失敗するかも知れないし、エレノア王妃やマルセルさまは”聖女の証”を得ておられる」
「ファーナさまは”聖女の証”を得ていないから容易いだろうと思ったと言っておりました」
「はぁー?何ですって!」
ファーナが怒気を含んだため息を漏らす。
そこにいた皆が大笑いした。
ファーナとマルセルが手を結んでから、この二人はここ南の国で最強だと誰もが認めて疑わないのに、この刺客はそれを知らなかったらしい。
ファーナはもうどうでもよくなって、ガークに問う。
「それで、それから?」
「ファーナさまは、この国で最強だと言ったら、目を丸くしておりました」
「後は、ペラペラと聞かないことまで白状してくれました」
「グーテ王さまが即位されてしばらくは国も荒れた時期がありましたが、その頃追放されたジェクトン牧師の息子だとも言っておりました」
ジェクトン牧師と聞いたジャンヌが問いかけた。
「ジェクトンって、あの多額のお布施集めで有名だった?」
「ええ、モードネス家を王家に仕立てるために動いていた一人のようです」
「ただよくわからないのは、彼の家系は元々モードネス家を監視するためにいたらしいのです」
「その必要も無くなったので、改めてモードネス家に尽すことにしたと言っていました」
それを聞いてたジャンヌが訝しがる。
「モードネス家の監視のためにですか?誰が監視しようとしたのですかね?」
「モードネス家には何か後ろめたいことでもあったのでしょうか」
「何しろ昔のことなので、奴もそこまでは知らないようです。親からは”モードネス家のために尽せ”と言われて育ったらしいです」
「昔、モードネス家内部で何かあったのかもね。書庫の本に何か書いてあるかも」
「・・・」
ファーナはもう興味を失っている。
ジャンヌはチラッとファーナを見ると、ガークに尋ねた。
「それは、デノーテさまもご存じなのでしょうか」
「いえ、モードネス家の名前が出てきましたから、お伺いしたところ、何もご存じない様子でした」
「ただ、涙を流されてーー」
「私のせいで父上やバッセさまだけでなく、マルセルにも迷惑をかけているのに、他にも犠牲になった方がおられたのねーーと」
「”モードネス家の呪い”のせいかしらと」
デノーテの名前を耳にしたファーナが、いつの間にか聞き入っていた。
「呪いで人を殺そうとしているの?」
「呪いは、そんなに単純なものではないと思いますよ」
この話を聞いた時のデノーテが気落ちした様子が見て取れるので、ファーナが口を開いた。
「いいわ。彼の単独での行動であるとはっきりしたら、彼はデノーテさまにお預けしましょう」
「やろうとしたことは問題だけど、モードネス家のために動こうとしたのだから」
「彼の家族も含めて、寛大な処置をお願いしておくわ」
「あのウイルドン家を巡る争いも、元はと言えば、王家とモードネス家の王家争いが発端とも言えるのよね」
「もしかしたら、それにもジェクトンたちもそれに関わっていたのかも知れないわね」
「お父さまが、禍根を残さないように進めたはずなのに」
ファーナの顔に悔しさが滲む。
「ですが、あの後に、いくつかの家がひっそりと居なくなったとも聞いております」
「どこに潜んで、何を企んでいるかわかりませんから、今後は注意が必要ですな」
ガークが言い添える。
「他にも同じような使命を持った人がいるかも知れないということね。気を付けるようにしましょう」
「ファーナは弱いからね」
それまで黙っていたマルセルがボソッと言う。
「それ、皮肉?」
そう言ったファーナの顔が見る見る赤くなっていく。
「あ、やばいかも」
「ジャンヌ、用事があったじゃない」
ジャンヌを促し、大慌てで退室していくマルセルだった。




