女学園
モードネス家に第二尖塔が出来上がると同時に、デノーテを理事長とした女学園を開校して生徒を募集した。
すぐに定員以上の希望者が現れ、くじ引きで生徒を選ぶことになった。
何とかならないかと親たちからの嘆願もあり、来年は考えると言うしかなかった。
全寮制で、ほとんどのことは自由だったが、生徒が入寮する時の持ち物はスーツケース一つだけと定められていた。
案内書にそうは書かれていても、いくつも荷物を抱えて来たり、荷物を山のように積んだ馬車を引き連れてくる生徒は少なからずいた。
娘に不自由させまいとあれこれ持たせただけでなく、持ち物が多いと言うことはより位が上位だと言えるので、見栄を張った親が多かったのだ。
デノーテは正門前で所持品検査をし、スーツケース一つに入るだけの、本当に必要と思われる物だけを娘に選ばせた。
残った荷物は付き添いで来た家族に引き渡された。
文句を言う親もいたが、デノーテは頑として言い放った。
「そんなあなたたちの甘やかしが娘さんを怠惰にさせてしまうのですよ」
「教育方針が気に入らなければ、辞めていただいて結構です」
もとより、その教育方針に賛同して娘を送り出した親は多かったので、むしろ自分たちの行いを恥じて引き下がった。
それだけでなく、学期の終わりに帰省した娘たちから、そんな考え方を厳しく叱咤される羽目になり、親たちもが教養高く考えられるようになっていったのである。
講義は第二尖塔の半地下の広間で行われた。
礼儀作法などはウイルドン家で学ぶことになっており、園芸や料理はシフォン家を使って学ばせた。
時折、シバー家を使って、看護の実習もおこなわれた。
ジャンヌは仕事の手が空いたときには希望者を集めて、剣術の指導もした。
相変わらず、馬は苦手だったので、乗馬はトールに頼み込んだ。
これらが意外に好評で、殆んどの娘が二人の指導を受けていて、年に一度、庭で剣舞や馬術を披露した。
ミッシェルは以外にも音楽も堪能で、武芸の苦手な娘たちはミッシェルに音楽の教えを受けた。
そして、請われればコンサートを開いて合奏を披露したりした。
そんな彼女たちの卒業式は、元祖であるシフォン家の尖塔を使った。
二階の広間で待っている娘たちは、自分の名が呼ばれると螺旋階段を上がっていき、屋根裏部屋の扉を叩く。
「お入り」
そう声を掛けるのはデノーテだ。
不思議なことに、あれほど嫌がった尖塔の中に入っていくことが出来るようになっていた。
マルセルをモードネス家の書斎に入ることを認めたからじゃないかとか、そこにあったガラスの小瓶に触ったからじゃないかとか言い合ったが、デノーテはマルセルに一層近づけた気がして嬉しかった。
そこで一人一人に誉め言葉と、直すべきことが告げられ、卒業を証する指輪を指に嵌めてもらう。
何か希望は無いかと問われた娘たちの全員が、屋根裏部屋から望む景色を見たいと願った。
マルセルとデノーテの一件は有名だったからだ。
娘が窓辺に立つと、シフォン家の元デノーテの部屋の窓辺にマルセルとジャンヌの顔が見える。
手を振ると、マルセルがそれに答えて、こちらに来いと合図する。
すると娘は猛ダッシュで会談を駆け下り、垣根を飛び越え、シフォン家に向かうのだった。
最初はシフォン家にデノーテ、尖塔にマルセルという案だったのだが、折角デノーテも尖塔に入れるようになったのだからと、立ち位置を変えたのだ。
その後にシフォン家での立食パーティに臨むのが、生徒とその親たちの最大の楽しみになった。
卒業式が近づくと、マルセルはため息をつく。
「こんなこと、誰が広めたのかしらね」
そう言って、マルセルがジャンヌの顔をちらっと見る。
ジャンヌは澄まして答える。
「私は垣根を飛び越える練習を手伝っただけだわ」
「気にしないで。あの娘たち、おかげでスタイルが良くなったのだから」
マルセルに対するシフォン家の仕打ちが世間に知れてから客の数が激減していたシフォン家にとっては、このパーティは有難いことだった。
そしてだんだんと元のような賑やかさを取り戻していったのである。
そのうち、王都の学園からも、卒業パーティは合同でやらないかと提案があり、シフォン家での立食パーティはまるでお見合い会場さながらとなってしまった。




