行末(いくすえ)
お披露目の数日後、王の居室には、王夫妻とファーナ王女、マルセルとジャンヌ、それにミッシェルの姿があった。
マルセルがファーナの行末について話したいと王に伝えていたからだ。
ジョセ王子にも王からの伝言として、大切な話をするので同席するよう伝えてあった。
「マルセル? アスクが嫌らっている女だろう? 顔も見たくない」
お側付きが何度促しても、出て来る気配は無かった。
「子供の教育とは難しいものだ」
王はため息をついた。
「だが、諦めていたファーナの件がこれで解決すると言うなら、一つ良い方に進んだと思えるな」
周りの皆を見回して、ほほ笑んだ。
「お父様、私は諦められていたのですか?」
「それはこれまでの、お前の態度がそうさせていたのだ」
そう言ってファーナ王女をやさしく見つめていたが、期待を込めたように口を開いた。
「だが、儂は過去などより、これからの未来に期待したい」
「ファーナ、お前の行末と言うのは何なのだ」
ファーナ王女は大きく息を吸い込むと、皆の前に向き合った。
「はい、確かに今までの私には至らない所があったと思います」
「”聖女の証”の無い私には何も出来ないと思っていたのも事実です」
「ですが、何があっても困らないように私なりに準備はしてきたつもりです。その行為が期待を裏切ったように見られてしまったかも知れませんが」
「そしてお披露目式でマルセルさまの頭上に七色の花環が見えた時、この方といっしょなら、自分にも出来ることがあると確信したんです」
「ほう、お前にはあの光の環が七色の花環に見えたと言うのか」
「儂には光の環としか見えなかった」
「私には白に金色のまだらの花環のように見えました」
そう言うエレノア王妃に向かって、王は呟いた。
「ファーナには”聖女の証”こそ表れなかったが、これはひょっとするぞ」
「ええ」
ファーナはマルセルたちに向かい、話し始めた。
「まずはマルセルさんに私の先生になって頂きたいのです。私に、この国をまとめるお手伝いをさせていただくために」
「この国は今でこそ平穏ですが、このままでは何かあると脆く崩れてしまうかも知れません」
「そのためには準備が必要ですが、物資だけでなく、強い意志を持った人々の団結が必要です」
「私は自分に”聖女の証”が無いとわかってから、兄を陰になって支えるつもりで勉強してきたつもりだったのですが、残念ながら兄には人をまとめる力はありません。力を付けようとさえしていないのです」
「あのお披露目式でのマルセルさんは、決して目立とうとはされませんでしたが、精霊たちが、ちゃんとあなたを引き立ててくれてました」
「見るべき人には確実にわかるようにーー」
「今、国中の、精霊を感じることの出来る人たちが、マルセルさんの元に集まることを厭わないと思います」
「それが自分にでは無いのが悔しくて残念ですが、今の私にはそれは難しいことだとわかっています」
「なので、マルセルさまの仲間の一人として私を使っていただきたいのですっ」
王女の眼からは涙が溢れて止まらなかった。
「ファーナ この国では聖女の力が強い家が王家となる決まりがーー」
王の言葉を手で制して、マルセルは王女の前に立ち、自分のハンカチで王女の眼を拭い、言った。
「貴女は私よりお若いのに、わたしよりずっと先を眺めているのですね」
「先のことを、そのように考えるのは、お辛かったでしょうに」
マルセルはため息をついた。
「負けましたわ。私にも、あなたのように先を眺めることを教えてください」
誰も傷つかないように、冗談のように言うマルセルの言葉に皆は笑ったが、それは今こそが、ファーナとマルセルを中心として国が未来に向かい始めたと皆が認識した瞬間だった。
そうは言ってもすぐにという訳にはいかないので、それはこれから計画すると言うことにして、マルセル達は部屋を辞した。
マルセルを見送り、ファーナ王女も部屋を出て行った後、王と王妃だけが部屋に残った。
「エレノアよ 安心したが、難しくなるぞ」
「そうですね、ファーナの力が何倍にも増えたような気がします」
「あの様子だと、健気にも、身を引くために自分を抑えていたのだ」
「”聖女の証”が無くても、マルセルの花環を儂ら以上に美しく見ることが出来たのだぞ」
「聖女といっしょなら、何かできるということでしょうか?」
「すごいじゃないか」
「もっと早く気づいてやれなくて残念でしたわ」
「儂らの力は薄かったと納得するしかないな」
「至らず申し訳ありません」
「気にしないでいい。儂も同じだよ」
「ですが、ジョセはどうするでしょうね」
「もっと精進してくれればいいのだがね。マルセルの兄や、ウイルドンのシャークと仲が良いらしいな」
「残念ながらマルセルさんと兄のアスクさんは仲が悪いとか」
「異母兄妹だからかな? 他所の娘に産ませた子がマルセルだと聞いておる」
「それは良いとしても、未だに実子として認めておらんじゃないか。何を考えておるのかのう」
「聖女認定されるまでのマルセルさんに対する扱いは、とても酷かったと聞いてましたし」
「王家としては、シフォン家を見限ってでも、シバー家のマルセルを庇護するしかない」
「叔母のお前もシバー家の出であることでも、それは明白だ」
「ファーナの行動には驚きましたが、王家にとっては渡りに船でしたね」
「後はジョセがそれに気づいてどう動くかだが、次期王の冠が目の前にあるように見えていてはのう」
「他のものは見えていないのでしょうね」
「王になるには聖女の力が絶対条件だとも気づいておらんのかも知れん」
「私としては、何事も無く収まってくれれば、それでよろしいのですが」
「それはジョセとマルセルが結婚すればーーと言うことか?」
「ええーーですが、無理でしょうね」
「だがなーー」
王は、エレノア王妃の耳に顔を近づけた。
「ここだけの話だが」
「マルセルがこれまで解決してきたことで、結果が悲惨に終わったことは一度も無いそうだ」
「シャンツ王家はどうなるかわからんが、シャンツ家とシバー家は間違いなく残るぞ。モードネス家はもちろん、シフォン家もな」
そう言うと、王はにやりと笑い、王妃の肩を抱いた。
「あなたは結婚する前にも似たようなことを私におっしゃいました」
「ああ、お前を王妃として迎えられないかも知れないと言ったことか」
「だが、お前は今、王妃だ」
「お前がシバー家の人間だったからと儂は思っている」
「マルセルもシバー家の人間だ」
「悪い結果になるはずが無い」
そう言うと、エレノア王妃を促し部屋を後にした。




