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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
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仕事

 夏が近づき、渋々王都に出仕してきたマルセルとジャンヌに、王家からすぐに呼び出しが掛かった。

 領館の執務室の二人の机の上に置かれた書類の山を見て、ため息をついていた二人は、これ幸いと王さまの元に急いだ。

 会議室で二人を迎えた王は殊の外機嫌が良く、大臣たちが居並ぶ中で二人の労をねぎらった。


「二人とも、この度は初めての出仕、ご苦労じゃった」

「コンドルセ家のことについては、儂が思う以上の結果を出してくれたこと、うれしく思う」

「いえ、たまたま思い通りになっちゃって」


 マルセルが頭を掻くと、王が機嫌良さを隠さずに言う。


「褒美は何がいいかの?」

「褒美が頂けるのですかぁ?何がいい?ジャンヌ」

「マルセルは何が欲しい?」

「今のところはーー」

「はっ、はっ お前たちは欲が無いのう」

「今は困っても無いし、ねぇ?」

「ねぇ」

「わかった、わかった。では儂が与えたいものを与えるということでどうかな?」

「御心のままに」


 マルセルとジャンヌが深く頭を下げる。

 それを見ていた王の顔がいたずらっぽく変わり、二人に話しかけた。

 

「ふむ、ところでお前たち、領館の自分たちの机の上を見て、何か気付かんかったか?」


 そう言われてみると、山積みになった書類の量がすごかった。


ーーこれだけの仕事がこれからも増えるとなるとーー

ーーこりゃ、手が回りませんぜ王さま。


「皆さん、いつもあんなに多くの仕事をされているのですか」


 げんなりした表情を隠さずにマルセルが問う。


「いや、四半分も無いと思うぞ」

「じゃ、嫌がらせですかね。やはり爵位は返上させていただいた方がよろしいですね」


 王がまあまあと手で制してニヤッと笑う。


「これまでお前たちが進めた仕事は、全て順調に進んでいるらしいのう」

「難問があっても、すぐに解決策が見つかると報告があった」

「となると、他の貴族どもが気づかんわけが無くーー」

「一度相当な難題の書類を間に忍ばせてみたらしいぞ」

「そうすると、今まで困っていたのが嘘のように解決したらしい」

「あの量は、その結果を見てのことらしい」

「へぇ、そうでやんすか?」


 あまりのことに、王を前にした言葉がぞんざいになる。


ーー全部仕事を丸投げしようと思っているのか知らん?


「マルセル、お前の”聖女の証”から得られる力はー仕事がうまくいくーその辺りにあるようだ」

「エレノアが言うには、シバー家の人間となれば”祝福”の力があるらしいからの」

「申し訳ないが、今回だけは彼らの気持ちを承知しておいて欲しい」

「今回だけですよ」


 二人はしぶしぶ承知する。

 王が合図をすると、お茶が運ばれてきた。

 王都産の紅茶は有名で、シフォン家も頑張っているのだが、まだそこまでのものは出来ていない。

 マルセルとジャンヌがその香りを楽しんでいると、横でそれを見ていた王が話を切り出した。


「実は、”聖女の証”を持つこととはどういうことか、今までよくわかってなくての」

「お前が生まれる前に、この国で”聖女の証”を持っていたのは三人じゃ」

「エレノア、デノーテ、それにお前の母のミネルバもだが、彼女の安否は不明じゃ」

「そしてマルセル、お前が次の世代の聖女というわけじゃ」

「つまり、次の王家はお前が継いでも不思議は無いということになる」


 突然の話にマルセルは面食らう。


「でも、シャンツ家にはファーナさまがおられますよね」

「残念ながら、あの子は”聖女の証”が得られなかったからの」

「お前の肩には大きな重圧がかかることになるかも知れん」

「それは?」

「エレノアが北の山の峠に結界を張っているのは知っておるであろう」

「はい、四百年もの間、聖女により結界が護られてきたとか」

「エレノアの後を、誰が継ぐのかということだ」

「ファーナは”聖女の証”が得られなかったので継げないことがわかっている」

「結界を張らなくてもいいようにしない限り、その責務は王家になったの聖女に課せられてくる」

「しかもそれは、その者の命を削るに等しい。それくらい、聖女の力を消耗するのだ」

「にもかかわらず、昔からの伝統とそれに胡坐をかく貴族たちは、聖女の本質を考えることもせん。軽く見ておる」

「デノーテやミネルバが、世間からどんな扱いを受けたか?」

「聖女を、単に王位継承の道具としか考えておらんように思える」

「じゃから、マルセル、お前もそんな扱いを受けて育てられてしまった」


 しばらくは、誰からも言葉が出ない。

 王は居並ぶ者たちの様子をしばらく眺めていたが、急に明るい声で話し始めた。


「まあ、それは先のことよ」

「要は、難しい仕事があれば、マルセルにちょっと手を触れてもらえば万事片が付くということがわかったということじゃ」

「よろしく頼むぞ」


 そう言って、王が頭を下げた。


「褒美はーーそうじゃ、王館からお前たちの領館までベルトコンベアでも造ってやろうかの?」


ーーこの王さま、私たちに仕事を全部押し付ける気だ!


「いえ、王さま!それでは王宮で働く人のためになりません」

「自分で考えて決めていくことが大切なのです」


 二人は必死だった。


「私にそんな力があるとすれば、国事の誰もが責任を取れないところや、北の国との戦争回避に向けて使うべきです」


 それを聞いていた王さまはマルセルをじっと見ていたが、真面目な口調で口を開いた。


「そうじゃ 儂もそう思う」

「じゃが、儂も歳を取った」

「儂の代はそれで良いが、次の代でも同じ考えかは良くわからん。例えばジョセ」

「ジョセ王子は激しい性格みたいですね」

「ふむ、聖女の力は戦争に使うべきと思っているやも知れんぞ」

「元々は四人の聖女が北の国と戦って追い払ったことで、この国は成り立っておるからな」


 ジャンヌが思い出したように口をはさむ。


「そう言えば、アスクさんはジョセ様と仲が良いとか」

「あの二人は王室学園の寮で同部屋だったからな」

「まあ、あ奴らには、気をつけておくことだ」


 時間が来たと侍従が王に耳打ちをする。

 立ち上がって、奥に入りかけた王が振り返って二人に声を掛けた。


「褒美については、儂の思う”もの”を二人に送ることにしよう」

「文句は言わせんぞ」


 そう言って王がニヤリと笑い、奥に入ってしまった。

 不安を感じた二人は見つめ合った。


 次の日、二人で机を並べて、だらだらと書類に決済のサインを入れていると、王宮から来たと言って、四人のメイドが入って来た。

 入って来るなり、二人の左右に陣取り、サインの済んだ書類を引き取り、空いたスペースに次の書類を置き始める。

 手を休めようものなら、コツコツとメイドのつま先がリズムを刻む。


ーー褒美って、警報付き人力オートメーションコンベアかい!


 おかげで、二か月は掛かるかと思った書類が一ヶ月で終わったので、二人はすぐに尖塔に逃げ戻っていった。



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