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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
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義務

 来年がお披露目というマルセルの十一歳の誕生日に、ミッシェルがマルセルとジャンヌに話があると言ってきた。


「ジャンヌも知っているように、マルセルさまの来年の誕生日を過ぎると、お披露目に出席しなければなりません」

「それって、王宮で皆さまに、ご挨拶すればいいだけなんでしょ?」


 マルセルは気にも留めていない。


「もう貴族なんだから、殿方に誘われたらダンスも踊らなきゃいけないのよ」

「あちゃ!ジャンヌ そんなこと、あるって言わなかったじゃん」

「私にはどなたも近寄って来なかったですから、ダンスの練習は無駄になりましたけどね」


 思い出したジャンヌがそう言って笑った。

 ミッシェルも意地悪そうにマルセルに畳みかける。


「あなただと、どれくらい男どもが群がってくるのかしらね?」

「やめてくださいよぉ!」


 ジャンヌがテーブルの上に置いてあった小さな壺を取り上げ、それを割ると中にあった何かを取り出した。


「お披露目にはドレスが必要ですよね。これを使ってください」


 ミッシェルの前に差し出したジャンヌの手には、三枚の金貨があった。


「これ、どうしたの?」

「マルセルさまのお披露目のためと思って、狩りで得た獲物を売ったお金を貯めてきたものです。これじゃあ足りませんか?」


 ミッシェルはジャンヌのそばに行くと、ジャンヌを抱きしめた。


「心配しないで、費用は王さまが出してくれることになっているから」


 ジャンヌの言葉に驚いていたマルセルが口を開いた。


「ジャンヌが稼いだお金はジャンヌの好きなように使って欲しいわ」

「マルセル様のために貯めてきたお金ですから」


 それを聞いたマルセルはジャンヌに抱きついた。


「あなたのために使えば、私のためにもなるのよ」


 この二人は本当に固く結ばれた姉妹みたいと、ミッシェルは思った。


ーー私にも姉はいるけど、優しくされた記憶は無かったわね。


 ふっとため息をついて威厳を取り戻すと、二人に話を続ける。


「もう一つ大事なことがあります」

「お披露目が済んだ後は成人したと認められて、爵位を持つ人は王さまから領官としての仕事を命じられます」


 マルセルとジャンヌには何のことやらわからず、ポカンとしている。


「今までは子供だからということで免除されていたのですよ」

「ジャンヌもマルセルさまのお世話をしていたからこれまでは免除されていましたが、それも今度のお披露目までです」

「つまり、二人とも王都の領館で生活しないといけません」

「あら、それは困るわ。私ここが気に入っているのに!」


 マルセルが尖塔の居間を見渡す。


「そんなわけにはいきません」


 ミッシェルがピシっと言うと、マルセルは頬を膨らませて宣言した。


「じゃ、爵位を返納しますね」

「私もそうさせてください」


 ジャンヌまでが言い出した。


ーー爵位をもらえることを夢見てる人の方が多いというのに、この子たちは。


「はぁ、わかりました。聞くだけは聞いてみましょう」


 マルセルたちが駄々をこねると収まらないのを知っているミッシェルは、王さまに相談してみると二人に告げた。

 それを聞いて急に機嫌がよくなったマルセルがミッシェルに問いかける。


「ミッシェル先生、そうなると先生はいつまで私たちの面倒を見てくれるんですか?」

「国からは、マルセルさまのお披露目までと言われていましたから、もうすぐお別れですね」

「ずっといていただくわけにはいかないでしょうか」

「あら、どうして?」

「まだまだ教えていただきたいことが沢山あるんです」

「それに王都に行けば、王室図書館があるんでしょう?そこの本も読みたいし、わからないことは教えて欲しいわ」


 ミッシェルは、この二人との生活の中で、出来れば離れたくないという気持ちがつのっていた。

 ただ、この二人が自分のことをどう思っているか、計り兼ねていた。

 だから、自分の気持ちは抑えていたのだ。

 二人から、今後も一緒にいて欲しいと聞いたとき、ミッシェルはうれしかった。


「じゃ、それも王さまに相談してみましょう。母にも相談したいし」


 母という言葉にマルセルが反応する。


「お母さまはどちらにお住まいですか?」

「王都の外れに家を借りて住んでいるみたい。こちらに来てから会えてないけど、たまの便りだと元気みたいね」

「知らないこととは言え、私たちのせいなら申し訳ありませんでした」

「いいのよ、そんなに仲が良いというわけでもないし。私、家族とは馬が合わないんでしょうね。会えばケンカばかりで」

「でも、お母さまはお母さまですよ」

「そうですよ」

「ーー」


 マルセルの眼がチラッとミッシェルを見て言った。


「どうしても王都に住まいが必要だと言うなら、私たちの王都での館も探していただけないでしょうか」

「私がですか?それは構いませんが」

「小さくてもよろしくってよ」

「探してみましょう」


 ミッシェルが承諾すると、如何にも今気がついたと言わんばかりに、マルセルが言った。


「そうだ、お母さまが住まれている家には、空いてる部屋は無いのかしら?そうすればいっしょに住めるじゃない!」


 マルセルの、明らかにミッシェル親子のためを思っての見え見えの提案に、ミッシェルの目から涙が溢れて来た。


「ごめんなさい、ごめんなさいお母さん」


 当惑気味のマルセルとジャンヌに構わず、ミッシェルは泣き続けた。


 一週間後、王都から帰って来たミッシェルが、マルセルとジャンヌを呼んで言った。


「政務については、王さまから改めて指示を受けました」

「季節ごとに、つまり一年に四回だけ、一ヶ月ずつ王都にいればいいということになりました」

「でも、会議ではかなりもめたみたいですよ。特別扱いはやめろとかーー」

「元々、爵位を賜った時点で王都に住まないといけなかったはずだからとかーー」

「私の教え方が悪かったから、納得させることが出来なかったのだろうとかーーあの爺共が!」


 ここぞとばかりに、文句を並べ立ててきたらしい。


「じゃ、それ以上はもう言えないか」


 マルセルもジャンヌもミッシェルの立場は良くわかっているので、渋々承知した。


「それで、王都で過ごす屋敷の件ですがーー」


 じっとミッシェルを見つめているマルセルとジャンヌに気付いたミッシェルは、少し顔を赤らめて続ける。


「私の母が住んでいる家は王家の持つ屋敷のようでして、無償で使っていいと王さまが言われました」

「ジャンヌのお披露目のときに、あなたたちも泊ったはずよ」

「ああ、あそこかぁ。いいね」

「母の他に二人住んでいるのですが、三人は屋敷の管理をする条件で住んでいるそうです。ですから三人もそのままいてもらうことにしました」

「わあ、人を雇うことを考えなくていいのね」

「一度見て頂ければ、あの屋敷はきっとご満足いただけると思います」

「ミッシェル先生の見立てだもの、気に入らないなんてことは無いわ」

「細かいことは後ほど報告します」


 ミッシェルの語るところによると、大きな屋敷に並ぶ別棟に、屋敷と庭の管理をするという条件で、ミッシェルの母ら、女三人に住まわせているらしい。

 だからそのまま雇えば屋敷の管理も問題ない。

 屋敷は王都から少し外れた丘の上にあり、王都に来る来賓の宿泊先にもなっているので部屋数が多く、お披露目の時には宿泊所の一つとして使われている。

 敷地も広く、両側の隣地とは、川と湖と言えるほどの池で隔てられており、漁業権と狩猟権まで付いているので気軽に漁も出来る。

 それもそのはず、そこは元々王の隠居所として造られていた。

 先王が無くなられた後は、今の王さまは隠居所には全く興味を示さず、マルセル達が欲しいと言うなら全て無償で譲ってもいいとまで言われたらしい。

 それは余りにも恐れ多く、代わりに何か課されても困るので辞退しましたと、ミッシェルが笑って言った。

 では、無償で貸与するので自由に使っていいということで落ち着いたようだ。

 そこで、母屋より少し小さい別棟の方を使わせてもらうようにしたと、ミッシェルが話す。

 これで王都への足掛かりは出来た。後はミッシェルの扱いだ。


「ミッシェル先生、お願いがあるのですが」

「先生のお仕事が終わった後は、私たちの王都の館の執事をやって頂けませんか?」


 すでにマルセルに心酔しているミッシェルに異論は無かった。


「私で良ければよろしくお願いします」


 三人は手を取り合って、固く握りしめた。


 むしろ驚いたのは、任務を終えたミッシェルが王都に帰ってきたら、今度こそ学院長にしようと準備していた王宮の学院の方だった。

 ミッシェルを説き伏せようと何人もの教授が手を変え、品を変えてやってきたが、ミッシェルは頑として首を縦に振らなかった。


「私を都から外れたシバー家の尖塔に送り出していただいたことへの恩は忘れません」

「それに、私を必要ないと言われたことも忘れてはおりません」


 学院では仕方なくミッシェルに名誉学長の肩書を贈って、彼女の功績を称えるしか出来なかった。



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