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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
39/65

苦悩

 マルセルが”聖女の証”を得た次の年に、シャンツ家の王女であるファーナが五歳になった。

 そしていよいよ今日は”聖女の証”鑑定の日である。

 ファーナが生まれた時に眩いほどの光を放ったことを知っている者は、ファーナもマルセルに続いて”聖女の証”を得ることを誰も疑わなかった。

 教会の周りには、新しい女王候補の誕生を見届けたい者たちが集まって、朝からお祭り騒ぎになっていた。

 だが、皆が固唾をのんで見守った鑑定が始まってみると、ファーナが触った小瓶が光ることは無かった。


 ”聖女の証”の儀が終わった後に、自分の部屋の中でベッドの上に座り込んで呆然としているファーナの姿があった。

 生まれた時からずっと、聖女の生まれ変わりだと誰からも噂され、それはファーナの耳にも届いていた。

 生まれた時に光ったという事実が、その噂は真実であると信じるに足りていた。

 それなのに、まさか”聖女の証”が得られなかったとは、ファーナ自身が信じられなかった。

 ファーナ本人だけでなく、その場に居合わせた皆をも落胆させた。

 誰もが”聖女の証”を得るのは当然と思っていたからだ。

 驚き騒ぐ皆を静めてその場から去らせた王は、ファーナに声を掛けようとしたが、ファーナは逃げ帰り、自分の部屋に閉じこもってしまったのである。

 この時以来、王宮でもファーナ王女の姿を見かけることは稀になっていく。


 王と王妃は、今後のファーナの扱いをどうするか相談するために帰って行った。

 教会の広間に残ったのは、ジョセ王子と、取り巻きのシャークとアスクだった。

 ジョセはほくそ笑んでいた。

 この日まで、自分が王になるただ一つの障害になるかも知れなかった、ファーナの”聖女の証”が目の前で消えたのだ。

 ジョセの目に、はっきりと王位が見えるようになってきた。

 これで、ファーナ、マルセル、ジャンヌたちを出し抜いて、シャークやアスクと一緒に国を動かすことが出来ると、大きな希望の光を見ていたのである。


「ジョセさま、これであなたの次期国王は間違いないようですな」


 シャークがまるでお付き用人にでもなったようにモミ手をしながら言った。


「うん、王になったら、お前たちの処遇も考えんといかんなーー」


 ジョセはすでに王になった気持ちに酔っていた。


「ところでアスク、前にも言ったことがあるが、ファーナを嫁にしないか」

「えーっ、我が家には、いまだに”聖女の証”を持つ娘を欲しがっている父がいるのは、ご存じでしょうに」

「”聖女の証”を持たない娘となるとーーいずれにしてもねぇ?」

「あれは病気だな。”聖女の証”を持つマルセルを未だにシフォン家の子とは認めておらんようだし」

「父がマルセルを認めたら、私はどうなるんでしょうね」

「私がいるじゃないか。その時は任せておけ」

「お願いしますよ」

「それにしても、アスクの父上を理由に婚姻を拒否されるとは、ファーナも落ちたものだな」


 今度はシャークの方を向いて言う。


「シャーク、お前はどうだ。王家の娘と結婚となれば、ジャンヌからウイルドン家をお前の手に取り戻せるのは容易いぞ」

「願ったり、叶ったりと言いたいところですが、ファーナさまはまだ五歳ですよ」

「お披露目が済むまで婚約しておくという手がある」

「そりゃ、ジョセさまと親戚付き合い出来るのは、魅力的でしょうね。その時はまあ、よろしくお願いします」

「おう、仲良くしようぜ」

「前祝いに、街に繰り出しますか」

「いいな、行こうぜ。私の奢りだ」

「そうこなくっちゃ。いい店を知っているんですよ」



 城の居室に戻ったグーテ王とエレノア王妃は、お付きの者たちを下がらせて、二人きりで話し始めた。


「やはりーーだったな」

「ええ、あの子の力は”聖女の証”を持っているとは認められませんでした」

「どうすれば、あの子の力を皆に納得させられるのかのう」

「あの子の力だけでは、目に見えて何かが出来るというわけではありませんからーー」

「精霊の力を吸い取ることだけは無限だと思うのですが」

「しかも、吸い続けることを止めると死ぬのであろう?」

「ええ、今は私の持つ精霊の力を少しづつ与えていますから何とか」

「それはお前が精霊の力を存分に身体に留め置くことが出来ていたからの話だ」

「ファーナにはそれが出来ない」

「ええ、このままでは、私が死ねばファーナも確実に死にます」

「”聖女の証”が認められれば何とかなるのではと期待しておったのだがーー何とかならんのかの」

「精霊の力を持った方が常にそばに居ればいいのですがーー例えばデノーテさんとか、マルセルとかーー」

「頼むことは出来んのか」

「代わりに死んでくれと言うようなものですよ。それにーー」

「ファーナが寿命を全うするまでをお願いしないといけないのですから」


 王は頭を抱えた。

 わかっていたこととは言え、現実に確定となると、その重みはズシっと彼にのしかかってくる。


「いずれにしても、デノーテさんやマルセルには知っておいていただいた方が良いでしょう」

「お二人の生活が成り立つよう、手は打ってあります」

「そうか、良く気の付く妃殿だ」

「あなたにはジョセの今後をお願いします」

「ああ、それな。そっちの方が頭が痛いな」

「この度のことで、歯止めが利かなくなるでしょうからね」

「誰か良い娘はいないのか」

「シャンツ王家を維持しようとするならーーマルセルでしょうね」

「だが、あのグループとは犬猿の仲なんだろう」

「ジョセもですがーー特にアスクさんがマルセルを毛嫌いしているようですね」

「あそこも複雑だったからな。とは言え、我が家も他所事と笑っていられなくなったが」

「私の力が枯れるまでには何とかしたいものですね」

「何とかならなかった時は、ファーナを連れて三人で天国にでも行こうじゃないか」

「あら、ジョセは連れて行かないのですか」

「ジョセはーー儂らよりもあの二人と生きる方を選ぶんじゃないかな」

「どうするつもりなのでしょうね」

「アスクは実家の父親の件で、多少目が覚めたらしいと聞いておる」

「シャークもジャンヌのお陰で、目を覚ましかけているらしい」

「ジョセはーーファーナの結果を見て、今は有頂天で、何を言っても無駄だろう。しばらくは放っておくしかない」

「では、私はこれまで通り、ファーナを見守ることにします」

「よろしく頼む。あの子はシャンツ家の切り札には違いないのだから」




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