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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
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再起

 ジャンヌはシャークが仕事をしている書斎に行くと、まず謝った。


「シャーク、ごめんなさい。あなたに屋敷の管理を任せると言ったのに、私が勝手に決めてしまったわ」


 そして自分の家族をこの屋敷で雇った経緯を語った。

 シャークも使用人探しに頭を悩ませていたところだったので、ジャンヌの身内が意外に優秀であることがわかり、反対どころか大賛成だった。


 ジャンヌはシャークに、マルセルとミッシェルが提案してくれたメイド養成学校のことも話した。


「それはいい! メイドの躾けがしっかりしているのは、王家とシフォン家位だからね」

「雇う側にしても、雇われる娘にとっても、役に立つと思うよ」


 乗り気になったシャークと二人で時間を忘れてアイデアを出し合った。

 ジャンヌといっしょにメイド養成学校の計画をしているうちに、ジャンヌたちが縁も所縁も無いウイルドン家を元のように再興させようと一生懸命尽くしていることにシャークは気がついた。

 そんなジャンヌのお陰でウイルドン家の再興という芽が芽生えて大きくなろうとしているのに、遠い血筋というだけでその当主になろうとした自分をひどく恥じるようになっていた。

 そして自分もジャンヌといっしょに再興に加わりたいと考え始めていたので、二人で話し合った計画をまとめると、ジャンヌに見せた。


「シャーク、こういう仕事は、あなたの方が適任だわ!」


 シャークはシャーク家のメイド養成学校の設立を担うことになった。



 ダンをマッケン爺さんの弟子にしてくれるよう頼むため、ジャンヌは父とダンをマッケン爺さんの小屋に連れて行った。

 父を見るなり、マッケン爺さんの方から声を掛けて来た。


「よう、ベンツ 久しぶりだな」

「あなたは、あのマッケンさんですか」

「あれだけ腕が良かったのに、どうしたのかと思ってたぞ。若いお前に負けまいと、儂も一生懸命頑張ってたのにな」

「お恥ずかしいことです」

「親方に好かれていたお前を妬んでいた奴も多かったからな。気持ちもわからんでもない」

「今考えると、見返してやろうという気持ちが弱かったんですね」

「結局、お前が辞めた後はどうにも仕事が回らなくなってな。その時になってようやく奴らもお前の凄さに気が付いたが、もう手遅れで、解散するしかなかった」

「儂も今ではこうやってシフォン家で働かせてもらっておる」


 そばで聞いていたジャンヌがマッケンに声を掛ける。


「マッケンさん、お願いに来たんです。ダンをあなたの弟子にして欲しいのです」

「儂が教えんでも、ベンツなら十分にこの子を鍛えられるじゃろうに」

「いや、もう何年も庭仕事をしてないので、こいつに教えるのは無理ですよ」

「そうか、そう言うことならわかった。うちで鍛えてやろう」

「よろしくお願いします」

「何と言っても、ジャンヌの頼みじゃ断れんしな」

「父にはウイルドン家の庭師をお願いしたんですよ」

「ほう、それは良かった」

「ベンツ、手がいる時には遠慮なく言ってくれ」

「よろしくお願いします」


 ウイルドン家にメイド養成学校を造るべくシャークが奔走している間に、ジャンヌはウイルドン家の使用人と自分の家族に徹底した屋敷管理の教育を始めた。

 これから作ろうとしているメイド養成学校は、ウイルドン家の現状を手本にさせようと思ったからである。

 シャークの努力の甲斐あって、メイド養成学校開校の目途がつき、開校式典の招待状が送られた。 

 式典に賓客として招かれてウイルドン家を訪れたマルセルとミッシェルは、屋敷の外観だけでなく、室内や食事、使用人たちの作法を見て目を見張った。


「やっぱり、ジャンヌのやることはすごいわ!」


 紹介状によると、メイド養成学校では三年間住み込みで教育をすることになっている。

 家の豊かさを考慮して授業料には差が付けられているが、学内での生活は家柄に関係なく皆平等になっていて、それを守れなかった者は、即刻退学とされる。

 開校当時は規則を守れず退学させられた生徒も少なからずいて、最初こそ身分ごときでと擁護する声もあったが、学校の素晴らしさがわかって来るにつれ、逆に退学になった者への世間の風当たりは厳しいものになっていった。

 

 最初の二年間は、家事、料理、作法、育児のみならず、学問と剣術まで叩き込まれる。

 最後の一年間は、ウイルドン家のメイドとして実際に働くことになっている。

 自分の極めたいことが見つかればいつでも、申請することでそれを習得することも出来る。


 最後に卒業式が行われるが、それは卒業生だけで企画、運営するようになっている。

 そしてその会場はジャンヌの希望で、尖塔が使われることになった。

 当然、卒業証書授与は尖塔の屋根裏部屋で行われる。

 二階の広間でメイド服姿で待機している娘たちは、名前を呼ばれると階段を上がって行き、屋根裏部屋でカストが彫ったペンダントをジャンヌに掛けてもらう。

 そして螺旋階段を下りていき、一階で待ち受ける両親たちの前でカーテシーで感謝の言葉を述べ、すぐにそこからメイドとして客をもてなすのだった。

 卒業式に招待された両親たち、特に花嫁修業のつもりで気楽に娘を送り出していた人たちは、一人の経営者になったと言っても過言ではないほどの成長を見せている娘たちを見て驚愕した。

 そしてその噂はたちまち広がり、入学しただけにもかかわらず、殆んどの娘の良家への嫁入りが決まってしまうほどになったため、ウイルドン家のメイド養成学校への入学希望者は後を絶たなくなっていた。

 ジャンヌとシャークはウイルドン家を以前以上に立て直したのである。


後日談:

 卒業式はその後、ペンダントの代わりにシフォン家自慢のバラを受け取るようになる。

 そしてマルセルからシフォン家に続く秘密の小道の歩き方を伝授される。

 螺旋階段を降りた卒業生は、石畳の周りで待っていた自分の親たちと一緒に、抜け道を通ってシフォン家へと向かう。

 そこが卒業パーティの会場になり、そこでメイドの仕事ぶりを披露するのだ。

 卒業式への参加は自由とされているので、シフォン家の広い広間や庭には彼女たちを見に国中から来た人たちで溢れかえっており、彼女たちの評判は国中に知れ渡ることになる。

 これまでジャンヌとマルセルしか知らなかった抜け道も、こうして広く知れ渡るようになり、尖塔とシフォン家の屋敷の間の垣根は無くなっていったのだが、これはもう少し先の話。




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