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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
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思惑と憂鬱

 マルセルが”聖女の証”を授かったと国中が浮かれていたころ、学寮の自分たちの部屋でジョセとシャークが話していた。


「ジョセさま、聞かれましたか」

「ああ、シフォン家にいたマルセルとやらが、”聖女の証”を授かったらしいな」

「そうなんです。今、シフォン家は王室に呼ばれて大騒ぎになっているようですよ」

「そうだろうな。シフォン家も念願の王位継承権とやらが、次の代まで維持出来るわけだからな」

「そう思いますよね。ですが、バッセさまはマルセルを実子と認めておられないようなんです」

「本当か? 嘘でも真でも、実子と認めておきさえすれば、シフォン家も万々歳だろうに」

「そうですよね。私ならーー」


 すぐに認めますがねと言いかけたものの、アスクの顔が頭に浮かんで言葉を呑んだ。


「そうなると、アスクはどうなるんでしょうね」

「そのマルセルとやらが次の当主になるだろうからな」

「アスクは長男なので、当然当主になるつもりでいたようですから、当てが外れて焦っているでしょうな」


 そんな話をしているところに、憔悴しきったアスクが部屋に入って来た。


「おい、アスク どうなったのだ?」


 ジョセがおどけた調子で声をかけてきた。


「ご迷惑をお掛けしました。我が家にあった尖塔をマルセルに奪われてしまいましたよ」

「ーーあそこは、お祖母さまの形見の場所でしたのに」


 吐き捨てるように言うアスク。


「やはりお前の父上は、マルセルとやらを実子と認めなかったのか」

「ええ、最後まで父無し子を預かっただけとの一点張りでーー」

「でも父の行状を知っている人だったら、誰もそんなことは信じませんよね」


 蔑むようにアスクが言うと、ジョセとシャークの顔に笑みが浮かぶ。


「お前の父上の女漁りは国中で有名だものな」

「まあ、お前が家を継げることがはっきりしたなら良いことじゃないか」


 そう言って肩を叩いてくるジョセを恨めしそうに見て、アスクが言葉を返す。


「そんなことより、よろしいのですか?」

「来年はファーナさまが”聖女の証”を授かるのでは?」


 何だそんなことかとジョセが肩をすくめる。


「次期国王は私だぞ。そうなったら聖女が欲しい家に嫁にやるさ」

「そうだ!シフォン家だって、聖女が必要なのだろう?」

「ええ、まぁ」

「ファーナなどはどうだ?」

「それは父に聞いてみないと何とも」

「よし、他にも聖女が欲しい家はいないか聞いておくか」


 ジョセがそう言って、鼻歌を歌いながら部屋を出て行こうとする。

 ジョセの言葉に呆れていたシャークとアスクが顔を見合わせた。


ーーこの王子は本気でそんなことを考えているんですかね?

ーー”聖女の証”を持つ娘を娶った者が王になれるのでは?


「あの、ジョセさまーー」


 アスクが言いかけると、シャークが手を伸ばしてきて、アスクの口をふさぐ仕草をする。

 驚いて、シャークの方を見ると、口に人差し指を当てて、首を振っていた。

 ジョセの姿が見えなくなると、シャークが小声でしゃべり始めた。


「ジョセさまは、自分がお前と同じ立場にいるとは露ほども思っておられないようだ」

「意固地になっている今は、何を言っても無駄だと思うぞ。逆に火に油を注ぐようなものだ」


 シャークの言葉に、これまでの自分を重ね合わせたアスクは顔を赤くした。

 そんなアスクの様子にはお構いなく、シャークがお気楽に続ける。


「まあ、先のことはその時になって考えればいいじゃないか」

「俺たちは、今はジョセさまと共に歩むしかないのも現実だしな」


 他人事のように言うシャークに向かって、お前もだぞと言わんばかりにアスクが言った。


「そう言えば、ウイルドン家にも何やら動きがあるようですよ」

「そうなのか?」

「へぇ?聞いていないのですか」

「俺は、ウイルドン家とは名ばかりの遠い血筋ということになっているからな」


 シャークにとってはそれも他人事だった。


 ウイルドン家を継ぐことには渋々同意したジャンヌだったが、ウイルドン家の屋敷に住むことには全く興味が無かった。

 それどころか、マルセルと一緒に尖塔で暮らすことを望んだ。

 そんな折り、王室から打診があった。


「ウイルドン家を継ぐに際して、シャークを執事として置いてもらえないだろうか?」


 打診とは言え、命令に近い。


「あのシャークをですか?」


 ジャンヌはシャークを知っていたが、”三バカトリオ”の一人という印象しか持っていなかった。

 ジャンヌのあからさまな侮蔑の表情を見た大臣は慌てて言葉を続けた。

 

「彼はウイルドン家の血筋を引いている唯一の人間なのだ」

「お前も知っている通り、ウイルドン家の恩義を感じている王家としては、ウイルドン家の血を絶やすわけにはいかんのだ」

「代わりにそなたには、ウイルドン家に関係なく自由に動いてもいいと約束する」


 シャークに屋敷の管理をしてもらえれば、自分はマルセルと一緒に尖塔で暮らすことが出来る。

 そう思ったジャンヌは快く同意した。

 とは言え、ウイルドン家の全権はジャンヌにあるので、全く手を掛けないというわけにもいかないのが悩みとして残った。


 一方、その話を聞いたシャークは突然の幸運に喜んだ。


ーーウイルドン家再興の話は本当のようだな。そうなると当然、唯一血筋のつながる私が当主になるのだろうな。


 ところが蓋を開けてみると、ウイルドン家の血筋に全く関係の無いジャンヌが家を継ぐと言う。


 「それでは私はただの居候で使用人に過ぎないではないか!」


 シャークは愕然とした。

 シャークからして見れば、ジャンヌはただの赤の他人だった。

 彼女がどんな人物かも知る由も無かった。


ーー私がウイルドン家の当主になるためには、ジャンヌと結婚するか、ジャンヌが死にでもしない限り難しいということか!

ーー自分を後押ししてくれる強力な後ろ盾を探してウイルドン家を取り戻すしかないな。

ーーだが運のいいことに、学園での学友にジョセ王子がいるじゃないか。


 しかも寮は同室で、遊び友達でもあり、大いに気が合っていた。


ーージョセ王子が王になれば、ジャンヌを廃して自分がウイルドン家の当主になることも可能だろう。


 ジョセに賭けることにしたシャークは、より一層ジョセに近づいて行った。


 ジャンヌは他にも悩みを抱えていた。

 ジャンヌがウイルドン家を継ぐと知るや、口減らしのために捨て子同然にシフォン家に送り込んだあげく、何年も音沙汰無かった父が、渋る母とジャンヌの兄弟たちを引き連れて押しかけて来た。

 挙句に、ウイルドン家の屋敷を我が物同然に使い始めた。


「ジャンヌ、儂はこの部屋を使うぞ!ここに住むに相応しい生活費を出してくれ」


 多額の生活費までジャンヌに求めてきた。

 ジャンヌは心を鬼にして、家族に使用人部屋の一角に住むことだけを許すと宣言した。


「仕事をすれば、それに見合う給金を出すわ。それが嫌なら出ていってくれて構わないし」


 彼女の一家にウイルドン家を占領されるのかと呆然として突っ立っていたシャークに向かって、ジャンヌが言った。


「シャーク、この家と使用人の管理は執事のあなたに任せるわ」


 それを聞いた、これから貴族の親として贅沢な暮らしが出来ると喜んでいた父親は、肉親を使用人扱いするのかと大層腹を立てたが、ウイルドン家の血筋にあるシャークでさえも使用人の立場でしかないとわかると、しぶしぶながら納得せざるを得なかった。

 それでも、それまでの生活に比べれば格段に裕福な生活を送れるのである。


 それよりも、どうすればウイルドン家を以前のように栄えさせることが出来るかが、ジャンヌにとって当面の課題と悩みであった。

 家が廃れている間は国が管理していたとは言え、家も庭も荒れ放題で、何よりも、途絶えてしまった稼ぎの流れを如何にして元のように戻すかは、流石のジャンヌにしてみても頭の痛いことであった。

 ミッシェルにも相談して、当面は国からの支援を取り付けたが、それは期間限定のものであったので、それまでに自立の道を開かないといけない。

 尖塔でマルセルと話しているときでもそのことが頭から離れず、頓珍漢な受け答えが多くなった。


「ジャンヌ 最近可笑しくない? ジャンヌらしくないわよ」

「ありがとうございます」

「何よ、それ」


 マルセルが大笑いするのだが、何のことやらわからず、キョトンとしているジャンヌがそこにいた。



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