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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
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再会

 家の調査を終えた三人がシバー家の門を出ると、ジャンヌと同じ位の歳の女の子が、小さい女の子の手を引いて歩いてくるのに出会った。

 ジャンヌにはその顔に見覚えがあった。


「あなた、マリーーーよね?」

「えっ」

「私よ、隣に住んでたジャンヌよ」

「あっ、ジャンヌ」


 マリーと呼ばれた娘は急にそわそわして周りを気にし始めた。


「急に居なくなるから心配してたのよ。元気だった?」

「ええ」


 マリーは周りに誰もいないのがわかると、ジャンヌの耳元で呟いた。


「こんなところにいたなんて、誰にも言わないでね」

「ねえ、ジャンヌ その娘は?」


 それを見ていたミッシェルが声を掛けた。


「えっと、私の実家の隣に住んでいたマリーです」

「ジャンヌ 言わないでって言ったのに!」

「大丈夫よ。マリー この人たちなら心配いらないわ」


 二人の様子から何かを察したミッシェルがマリーに言った。


「こんな所では何ですから、一度屋敷に戻りましょうか」


 少しだけならと渋々言うマリーを連れて、皆は館に引き返した。

 居間のソファに座るとようやく、マリーは落ち着きを取り戻した。


「マリー、元気そうで良かったわ。あれからどうしてたの?」


 ジャンヌが問いかける。


「今はこの下の村にいるわ。前の村の人に見つかる度に、あちこち逃げ回ってた」

「大変だったわね。その子は?」

「私の妹よ。今度五歳になるんだけど、また父さんがーー」

「ああ、例の”聖女の証”?」

「母さんは、もうやめろって泣いて止めるのだけど、言うことを聞かないのよ」

「この子、生まれた時に光ったりしたの?」

「ううん」

「でも父さんは、五歳になったら光るかも知れないって聞かないの」

「光っても苦労、光らなくても苦労するのね」


 隣で聞いていたマルセルがうんざりとした顔で言う。

 そんなマルセルの事情を知っているジャンヌは苦笑するしかない。


「マリー、あなたは今何をしてるの?」

「外に出ると見つかるからと言われて、家の中でお母さんの手伝いよ。今日はたまたま、この子の散歩を頼まれたの」

「人のいないシバーの屋敷の周りだけ歩けって」

「確かに、幽霊屋敷だものね」


 ジャンヌとマルセルは顔を見合わせて笑った。


ーー人がいない場所で、長く会わなかった人と会えるなんて、偶然では無いわよね。

ーー縁があったのよ。


 マルセルがミッシェルを見つめる。

 それを見て察したミッシェルが、マリーに向かって言った。


「マリーさん、私たちはこの屋敷の手入れが出来る人を探しているんです」

「あなたや、あなたの家族にお願いできないですかね?」


 突然のことにびっくりしたマリーだった。


「私だけじゃ決められないので、父と母を呼んできてもいいですか?」

「もちろんです」


 了解を得るなり、父と母を呼ぶためにマリーが飛び出して行った。

 あまりに慌てていたので、妹はそこに置き去りにされてしまった。

 ジャンヌが幼女のそばに屈みこんで聞いた。


「あなた、お名前は?」

「ジュナ」

「じゃ、ジュナちゃん、お姉さんが帰ってくるまでお菓子食べながら、いい子にしててね」


 ポケットからビスケットを出して、ジュナに渡した。

 そのお菓子を食べている様子を見て、まるで、小さい時のマルセルを見ているようだとジャンヌは懐かしんだ。


 しばらくすると、マリーが家族を連れて入って来たが、他にも数人の男たちが荒々しく入って来た。

 その中の一人が叫んだ。


「あんたがこいつの借金を返してくれるのか?」

「ジャンヌ、ごめんなさい。ちょうど借金取りが来ていたみたいなの。知らずに仕事の話をしたら、それを聞きつけて付いてきてしまって」

「心配しないでください。マリーさん」


 落ち着いた声でミッシェルが言い、男たちの方に向き直った。


「よろしいですよ。それでは、三日後に、この屋敷に証文を持ってきてください。今日は大切な話があるのでお引取り願えますか?」

「そんなの信用できるか。今すぐ返せ!」


 ミッシェルは怖がる様子もなく男を見つめて言った。


「この方はーー」


 そばにいたマルセルを指差した。


「このシバー家のご当主です」


 今度はジャンヌを指差した。


「この方もウイルドン家のご当主です」

「それに、私は王室の者ですがーー」

「それでも信用できないとおっしゃられますか?」


 思いもよらず、位の高い人の前に居ることを知った男たちは、平身低頭して逃げるように出て行った。

 マリーも、その両親も、あまりのことに声も出ない。

 そんな両親の前に立って、ミッシェルが口を開いた。


「マリーさんから聞かれたと思いますが、あなた方に、このシバー家の管理をお願いしたいと思いますが、いかがですか?」

「よ、喜んでさせていただきます。なあ?」

「ええ」


 両親に異論は無かった。


「じゃ、そのようにお願いしましょう」


 ミッシェルは父親を窓のそばに連れて行った。


「門の横に小屋が見えるでしょう。今日からあそこに住むといいわ」


 そこは以前、シバー家の庭師が住んでいた小屋だった。


「たちまちは、門から玄関までと、屋敷の広間を掃除をお願いします」

「三日後に、またこちらに来ますから、それまでにね」


 一気にそう言うと、ミッシェルはポケットから鍵束を取り出し、マリーの父に渡した。


「鍵を渡しておきます」

「よろしいんですか?」

「何か問題でも?」

「私を信用していただけるので?」

「私はマリーさんを信用して、彼女の家族といっしょに雇うつもりでいます。ですから、何かあった時の責任はマリーさんですし、その保証人はウイルドン家のジャンヌさんですからーー」

「これまでのように変な考えは起こさないことね」

「も、もちろんです」


 マリーの家族が引っ越しのために部屋を出て行ったが、すぐにマリーが戻って来た。


「ありがとうございます。あの小屋は今より何倍も広いです」


 そう言うと、ジャンヌの方に向き直る。


「ああ、ジャンヌ さっきあなたに会った時、また引っ越しをしないといけないかと思ったのに!」

「引っ越しする羽目にしちゃって、ごめんなさいね」

「そうね」


 二人は笑い合った。

 ジャンヌはマリーの手を取って言った。


「マリー、あなたはウイルドン家に来ない? 私の姉さんも、あそこでメイドになる修行をしてるの」

「良かったら、あなたもメイドの修行をしたらどうかしら」

「ああ、そうしてもらえるなら、ぜひお願いしたいわ」

「と言うことです。魔女先生、一人引き抜きまーす」

「仕方無いわね。でも卒業したらシバー家に戻ることが条件ね」


 それを聞いていたマルセルが口を尖がらせてむくれた。


「ジャンヌはいいなあ」

「どうしました?」

「だって、あちこちにお友達がいるんだもの。私なんか、同い年の友達なんていないじゃない」


 困ったジャンヌが何とかなだめようと頭を巡らす。


「でも、私がいますしーー」

「私の友達はマルセルさまの友達でもありますしーー」


 するとマルセルが声を上げた。


「友達の友達は皆友達だ! マリーも私の友達ってことで、よろしくね」

「え、ご主人さまですよね?」

「友達ですぅ」

「はい、わかりました。でもジャンヌも丁寧な言葉遣いしてるから、同じにしていいですね」

「ジャンヌはねーー、前から私の言うことを聞かないんだ」

「じゃ、私も同じようにさせていただきます」

「何か言ってやって。魔女先生」

「あなたが私を魔女先生と呼ばなくなったら、そうしましょうか」

「ぶーっ、私には本当の友達はいないのじゃ」


 それを聞いていた娘たちは大笑いした。




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