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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
33/64

シバー家

 シバー家の当主となった後も、マルセルが屋敷を訪れることはなかった。

 ジャンヌやミッシェルに家の管理を丸投げ出来たこともあるが、シバー家そのものがマルセルにはピンとこなったからだ。

 実の母のミネルバがシバー家の出だと聞かされてはいても、自分はずっとシフォン家で育っているし、育ての母はジャンヌだと思っている。


 空き家になっていたシバー家の屋敷がマルセルの所有物となると、それまで管理していた王室の手から離れることになり、今度はマルセル自身が管理しないといけない。

 そのためには屋敷のことを知っておく必要があるのだが、マルセルが面倒がるので、仕方なくミッシェルが屋敷に入って調査を始めていた。

 部屋を一つ一つ調べていたが、どうしても入れない部屋がひとつだけあった。

 以前に屋敷で働いていた女を探し出して尋ねると、そこは失踪したミネルバの部屋だと言う。


 部屋には精霊の力を借りた鍵が掛けられていて、本人か、その血を受け継いだ者でないと開けられないようだ。

 ミネルバは行方不明になっているので、開けることが出来ると思われるのはマルセルだけということになる。

 もしマルセルがこの鍵を開けることが出来れば、マルセルは間違いなくミネルバの子供だと確定する。

 そこで一計を案じたミッシェルが、シバー家の屋敷を見に行くようにマルセルに勧めたのだ。


 親の愛を知らないマルセルにとっては、ミネルバの部屋に何があろうと興味は無い。

 それどころか、開けてしまえばマルセルがミネルバの子であることが確定して、このシバー家の管理が確実にマルセルの肩に圧しかかってくるという事実だけが残る。

 出来たら開かないで欲しいと願うマルセルの気持ちとは裏腹に、扉の前に立っただけで、手も触れないのに鍵が外れてしまった。


「あちゃー、シバー家の家系確定か」


 肩を落とすマルセルをそこに残したまま、ジャンヌとミッシェルが我先に部屋に飛び込んでいった。

 窓辺の厚いカーテンを全部開いて部屋が明るくなると、まるで今でも人が生活しているような空間がそこに広がる。


 皆の後から渋々部屋に入って行ったマルセルだが、何度もここに来たことがあるような、懐かしい気持ちになったので驚いた。

 大きなベッドには少女姿のミネルバが、まだ寝ているような気がした。

 それはジャンヌやミッシェルも感じたようだ。


ーーここは当分の間、このままにしておいてあげた方が良さそうね。


 三人はカーテンを閉め、部屋を出ると、そーっと扉を閉めた。

 もう鍵が掛かることは無かった。


「多分、ミネルバ様はどこかでご健在なのだと思うわ」


 ミッシェルがそう言うと、二人も同意するように何度も頷いた。


 せっかく訪れたのだから他の部屋も見ておきなさいと、ミッシェルが無理矢理にマルセルの手を引いて屋敷を案内し始めた。


 シバー家は初代の聖女がいたために王位継承権を持っているというだけで、特に秀でた力を見せたという家柄ではない。

 それにも関わらず、シバー家には必ず女の子が産まれ、その子は”聖女の証”を手に入れていた。

 そうして王位継承権は途切れることなく継いできたのである。

 ただ歴代の当主は王位云々ということには全く興味を持つことなく、人々を癒す事業を続けてきていた。

 それだけでなく、シバー家から他家に嫁いだ娘は、嫁いだ家を豊かにしていた。


 エレノアやミネルバが生まれた時には、流石に王家になれると欲が出て来たのだが、エレノアがシャンツ家に嫁に行き、ミネルバが失踪してしまうと、その夢も露と消えた。

 結局、ミネルバは戻らず、悲観した当主夫妻も亡くなって、シバー家は廃家となってしまったのである。

 屋敷はとても住みやすく造ってあった。

 驚かされるのは、どの部屋も、庭に面した壁の全面がガラス窓にしてあり、それは天井の半分まで伸びていた。

 昼は太陽の光を十分に浴び、夜には満天の星空を見ながら休めるという趣向だ。

 特に、浴場は今でも清らかな水が湛えられており、すぐにでも使えそうだった。

 浴槽に流れ込む滾々と湧き出る水は、子供なら無理をすれば入れる位の石の隙間から流れ出ていた。

 その水にキラキラと光の粒が混じっているように見えたので、不思議に思ったマルセルが穴を覗こうとしたが、ジャンヌの声で中断された。


「マルセル シバーの家ってすごく癒されるわね」


 ジャンヌが感心したように言った。


「この水は、以前は身体に効き目のある温泉だったらしいですよ」


 ミッシェルが付け加える。


「ミネルバさまがいなくなったころから、ただの水に変わったそうです」

「それでも、その効能は続いているみたいですね」

「療養所とか、癒しの場にも使えそうだわ」

「あっ、それ賛成!」


 マルセルも同意する。


「でも今はそんなこと考えている暇が無いから、しばらくこのままにしておきましょうか」

「お手入れだけ進めておきますね」


 ミッシェル女史が言う。


「うん、そうしてください」


 シバー家当主の確定したマルセルは、もう逆らうことは出来なかった。


 三人が出て行ってしばらくすると、さっきマルセルが覗こうとした穴の奥がボゥっと光り始めた。


 「ミネルバーー帰って来た」


 そして、安心したように、湧き出る水に光の粒がさっき以上に混じり始め、心なしか水温が上がり始めた。




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