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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
領主の務め
29/64

処遇

 王室に呼び出されたバッセとデノーテは、ベック長官からの報告書を突き付けられ、居並ぶ貴族たちの前で詰問が始まった。

 貴族たちからは、余りにもマルセルたちの扱いが酷いのではないかと責められた。

 だがバッセは、生まれた時に光が舞わなかったにもかかわらず、ちゃんと引き取って育ててきたじゃないかと強弁した。

 それでもなぜか、マルセルを自分の子だとは認めなかった。

 デノーテは仕方なく、マルセルを年端もいかないジャンヌに預けたまま放っておいたことを白状した。

 それを聞いた人々からは、幼女に対する扱いが酷すぎると、シフォン家に非難が集中した。


 これ以上はシフォン家にマルセルとジャンヌを置いておけないとの皆の意見は一致したが、今後誰が彼らの擁護者となるかについては意見が分かれた。

 マルセルの母の素性が全くわからなかったからだ。

 バッセはそのことについても何度も詰問されたが、ケトゥ村の娘から預かったとしか答えなかった。

 素性は絶対明かさないという、娘との約束を守ったのだ。


 国王のグーテは決めかねていた。


「ふむ、難しいことよのう。どの家にマルセルを託すべきか」


 困って、そばにいた宰相の顔を見る。

 宰相は王の想いを察して答える。


「”聖女の証”を持っている以上、最終的には王位継承権を持つ四家のどこかに落ち着くことになると思われますがーー」

「どういう状況であれ、シフォン家は論外としてーーただモードネス家、シバー家共に既に絶えておりますればーー」

「やはり、シャンツ家でお世話していただくしかありますまい」


 宰相の助言はもっともだったが、大きな不安もあった。

 今の国法では、母親次第で王家が他家に代わる可能性があったからだ。


「シャンツ家で世話をするのはいいとしても、マルセルの出自だけは明確にしておきたい」


 王はしばらく考えていたが良案も無く、口を開いた。


「仕方がない。ではそれがはっきりするまでマルセルとジャンヌの二人はシャンツ家で預かることにしよう」

「おおせのままに」


 王家にしてみれば、マルセルがシャンツ家の長男であるジョセ王子の婚約者になれば、シャンツ家の王位継続は間違い無いものになるわけで、願ったりであればこそ、拒否する理由は無かった。


 皆が退室して王妃と二人になると、王が王妃に問いかけた。


「のう、エレノア 結婚する時に儂が言ったことを憶えておるか」

「はい、私を王妃としては迎えられないかも知れないとおっしゃいましたね」

「うむ、モードネス家のデノーテの精霊の力の方が強く、王家となるに相応しいものだったからな」

「シバー家でも、私より妹のミネルバの精霊の力が大きかったですもの」

「ミネルバを立ててシバー家を王家にしようと、父は目論んでいたのかも知れませんよ」


 そう言うと、エレノア王妃がグーテ王に意地悪そうな笑顔を見せて囁く。


「私があなたと恋仲で無ければ、シャンツ家でも、あなたとミネルバと結婚させようとしていたかもしれませんね」


 そんな打診も受けていたグーテ王は慌てて話を変える。


「”聖女の証”とは面倒なものじゃの」

「儂はシャンツ家がいつまでも王位を保つ必要は無いと考えておる。それにーー」

「シバー家はお前の実家、モードネス家はデノーテの実家」

「マルセルを継がせるなら、どちらの家でも問題は無いと考えておるのじゃが」

「デノーテは此度の事で皆の心証を悪くしておりますので、モードネス家は難しいでしょう」

「それに今はシフォン家の嫁でもありますので、ことさらにーー」

「それに、シバー家は絶えているとは言え、妹のミネルバの消息が不明のままです。こちらも今は彼女を無視して勝手に動くことは出来ないかと」

「そうじゃの」


 王も同意せざるを得ない。


「のう、エレノア ジョセとマルセルの婚約は考えられぬかのう」


 王にしてみれば、マルセルがジョセ王子の婚約者になれば、シャンツ家の王位継続は固いものに出来る。

 とは言え、”聖女の証”を持つと言うだけで、素性のわからない娘をジョセ王子と婚約させるというのは、国民の目からすると、王位継承権欲しさとしか見えないだろう。

 性急に事を運ぶのは憚られた。


「今はそう思っておられるだけでよろしゅうございましょう。ただ、ジョセがどう動くか」

「ふむ、あの様子ではな」


 長男のジョセ王子の遊び歩きは国中で有名だったのだ。

 王が匙を投げたような顔になる。

 それを見たエレノア王妃が王に語りかける。

 

「ですが、来年はファーナが五歳になります故」


 妹のファーナ王女は生まれた時に光が舞い、女王になる存在として国民に期待されていたのだ。

 王の顔が緩んだ。


「そうだな。その結果次第か。頭の痛いことだな」

「いずれにしても、しばらくは様子見ですね」


 話が落ち着くところに落ち着いたと、皆がホッとしたのもつかの間、それまでどんなに手を尽くしても全くわからなかったマルセルの母の消息が、あっけなく判明した。


 マルセルがケトゥ村にいた娘の子だとの噂を聞いたケトゥ村の村人が、ケトゥ村で”聖女の証”を持っていた女は、ミネルバという名の娘一人だけだったと報告してきたのである。

 南の国で、ミネルバという名で”聖女の証”を持っていたのは、シバー家の次女のミネルバしかいなかった。

 エレノア王妃の妹でもあったミネルバは、姉のエレノアとグーテの結婚式のパーティで知り合った男と駆け落ちをして行方を眩ませたことになっていた。

 シバー家では手を尽くして探したが、探し出すことが出来なかった。

 二人はシフォン家の領地であるケトゥ村に逃れていたのである。


 ミネルバの隣の家に住んでいたと言う男が、役人の前でおずおずと報告した。


「ミネルバは男といっしょにケトゥ村にやって来たんでやんす」

「男はどうにも腰の落ち着かない奴だったようで」

「手持ちの金が無くなると、ミネルバを置いて逃げ帰ったらしいでやんす」

「ミネルバはあちこちで家事の手伝いなどをして暮らしていたようでやんすが、酒の席で酔いつぶれて、自分は”聖女の証”を持っていると漏らしてしまいましてね」

「それを聞いた村の若者たちの口から、ミネルバは”聖女の証”を持っているらしいと村中に噂が飛んだんでやんすよ」


 その噂を聞いたバッセが、ミネルバの小屋を訪れたらしい。

 出自をばらすぞと脅されて関係を結び、一年後に女の子が産まれたと、その頃ミネルバの手伝いをしていて、出産にも立ち会ったと言う娘が証言した。


 バッセはもう一度呼び出され、その話を聞かされてようやく観念し、マルセルの母はケトゥ村のミネルバだと明かした。

 そこでマルセルがバッセとミネルバの間に出来た子だと認めさえすれば、シフォン家の次期王位継承権は確実なものになるはずなのだが、バッセは頑なにマルセルを自分の子であるとは認めなかった。

 バッセが王位継承権に固執していて、”聖女の証”を持っていると噂のあった娘を漁っていたのは有名だった。

 マルセルがバッセと同じシフォン家独特の紫色の瞳を持っているにも拘わらず、違うと言い張るバッセに皆は驚いた。


 困った王家は、マルセルの髪の色がエレノアと同じ白銀色で、それはシバー家特有のものであることから、マルセルがシバー家のミネルバの子であり、シャンツ家のエレノア王妃の姪ということに疑いは無いと判断し、マルセルをシバー家の後継者として認めることになった。

 そうなるとシバー家を引き継ぐだけでなく、その王位継承権をもって次期王位の一番の候補者と言うことになり、マルセルは王家と同格に扱われることになった。


 そこで改めて、マルセルをシフォン家の庇護から外し、元のシバー家の領地と屋敷を与えて、マルセル・シバーと名乗らせることにした。

 ミネルバの実家であるシバー家は、ミネルバ失踪後は子に恵まれなかった。

 長女のエレノアはすでにシャンツ家に嫁に出ており、家は途絶えたも同然だった。

 後継者であるはずのミネルバの消息がわからないままなので領地を取り上げるわけにもいかず、エレノア王妃の懇願もあり、王室が管理していたのだ。


 マルセルが王家に繋がる血筋とわかると、王妃の姪を一人でここまで育て上げたジャンヌの功績が大きく認められ、ジャンヌにも爵位と領地を授与することが決められた。


「ジャンヌに与える領地はあるのか」

「元ウイルドン家はどうかと思われます」

「ウイルドン家か。あそこには、あれだけ国のために尽くしてもらいながら、儂の力が足りなかったために、すまぬことをしたからのう」


 先王の死によって王を継いだばかりのグーテ王には貴族同士の争いを抑える力が足りず、ウイルドン家を助けることが出来なかった。


「今も血筋の近い者を探してはおりますが、あの事件の余波は凄まじく、一族が皆殺しに等しい状態で生死もわからなくなっておりますので」


 先王の時代に宰相として善政を行ない、国民からも敬われていたにもかかわらず、国王代わりの権力争いに巻き込まれて罪を問われただけでなく、夜襲によって屋敷に集まっていた一族は皆殺しになり、断絶同然に四散していたのだ。

 後にすぐ、政敵の策略によって無実の罪を着せられただけでなく、唆しにより夜襲にまで至ったことがわかり、王室としても申し訳ない気持ちから、ウイルドン家再興の機会を探っていたのだ。


「しかし、ウイルドン家とは何の縁も所縁も無いジャンヌをウイルドン家の当主とするのも、いささか無理があるのではないか」

「ウイルドン家の遠い縁者になりますが、ジャンヌさまと同じ年頃のシャークという男が王都の学園に在籍しておるようです」

「ウイルドン家に少しでも縁のある人間をそばに置いておくということで、皆を納得させましょう」

「なに、ウイルドン家を潰すのに加担した後ろめたさは皆持っておりますでしょうからな」


 宰相はニヤリと薄笑いを浮かべた。

 それを聞いた王も、自分にもいささか後ろめたさがあるので、こめかみに手をやる。


「ただシャークには一つだけ困ったことがありましてーー」

「彼はーージョセ王子さまのお友達のようでーー」

「残念ながら、皆さまの市中での評判は芳しくないようです。これがどう響くかーー」


 ジョセのシャークとシフォン家のアスクを引き連れての遊び歩きは王都でも有名だった。

 何の功績も示せず、悪い評判しかないシャークを筆頭にしてウイルドン家の再興を許すわけにはいかなかった。

 王室としては、シャークがジャンヌに協力してウイルドン家を再興に力を尽くし、その実績を持って二人が結婚し、ウイルドン家を継いでくれればと願った。

 それにより、シバー家、ウイルドン家の問題が共に一挙に片付くからである。

 そんな思惑を秘めて、ウイルドン家はジャンヌをもって再興することに決められた。


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