お披露目
お披露目の当日、マーサの仕立てた白いドレスを着て、姉の作った花冠を頭に載せたジャンヌが王室の広間にいた。
マルセルはもちろんのこと、ジャンヌの母やマーサも広間の隅に陣取っている。
お披露目式が始まり、名前を呼ばれて前に進み出てカーテシーをした時に頭上にほのかな光の環が出来る娘は何人かいたが、ジャンヌには残念ながら光が舞わなかった。
だが、ジャンヌにはそんなことよりも、自分の冠っている姉の手作りの花冠とマーサのドレスを身に着けていることの方が誇らしかったので、気にもしていなかった。
気になったのは、お披露目式など眼中に無さそうに、不貞腐れたように横を向いて玉座の横に座っているジョセ王子の姿だった。
ーーアスクと雰囲気がそっくりなのよね。
ジャンヌの受けたジョセの初印象は最悪のものになってしまった。
両親らの列にジャンヌの母と並んで立っていたマーサが、緊張して固くなっているジャンヌの母に話しかけてきた。
「あなたの娘さんはね、すごく賢いのよ」
「年端も行かないのに奉公に出しちまったから、私には見当もつかないですよ」
「間違いないわ。男の子だったら、きっと大出世するのにね。それだけが残念ね」
マーサはそう言うと、信じられないというような顔をする母親の肩を軽く叩く。
「安心してちょうだい。私がそばにいる間は、ちゃんと仕込んで一人前にしてあげるから」
「よろしくお願いします」
「任せといて。あなたの代わりに、私の子供と思って仕込むわ」
それを聞いていたのか、マルセルが掴んでいたマーサのスカートを引っ張って言った。
「ねえ、マーサ 私のこの服、どう思う?」
「すごく綺麗に仕上がっていて、町の仕立て屋と遜色無いですよ」
するとマルセルがジャンヌの母の方を見て、得意そうにスカートを広げる。
「ジャンヌが縫ってくれたのよ」
マーサも母に向かって続ける。
「そうそう、ジャンヌは裁縫も上手でね。仕立て屋にだってなれるわよ」
「でしょ? ジャンヌは何でも出来るんだから」
マルセルが腰に手を当てて、どうだと言わんばかりの仕草をした。
その仕草があまりにかわいいので、周りにいた人たちからドッと大きな笑い声が起きた。
運の悪いことに、お披露目のために習ったばかりのカーテシーをぎこちなく始めかけていた娘が、その声に気を取られてしまい、つんのめってしまった。
真っ赤な顔になって下を向き、すごすごと引き返して来ると、しくしく泣きだしてしまった。
すると、いつの間にかマルセルがその娘のそばに寄って行って、やさしく抱きついた。
娘はびっくりして泣き止み、涙を拭うと、マルセルに顔を近づけて微笑んだ。
「もう大丈夫よ。ありがとう」
マルセルはその頬をペンペンとやさしく撫でると、元いた所に戻って行く。
その時、その娘の頭上に微かではあるが白い光の環がポンポンと浮かんだのを、その様子を微笑ましく見ていたエレノア王妃が気づいた。
ーー確か、あの娘はカーテシーの時には光らなかったわよね?
ーーと言うことは、今の光はあの娘の力じゃないわね。
ーーもしかして、あの小さな子の力なのかしら?
もっと観察して確認してみたいと思ったエレノア王妃だったが、娘たちが次々とカーテシーをして来るので、その疑念はすぐにかき消されてしまった。
パーティが始まると、さっそく、年頃の若い男たちがお目当ての娘に群がり始める。
頭上に光の冠が出た娘には、何人もの若者たちが周りを囲んでいた。
何とカーテシーに失敗した娘のそばにも数人の男たちがいた。
マルセルが娘の頬を撫でた時に出た光の冠に気づいた者たちだった。
カーテシーに失敗したので、見向きもされないんじゃないかと思っていた娘は、大喜びだった。




