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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
最強の聖女たち
12/65

誕生日

シフォン家でのマルセルとジャンヌの生活が一年になろうとしている。

 本来なら執事のタンカが手配して、マルセルはどこかで幸せに暮らしているはずだった。

 ボタンの掛け違いというのはこういうことを言うのだろう。

 結局、マルセルは連れていかれることは無かったし、母屋の主人たちが尖塔に来ることも無かった。

 たまにアスクが現れて、洗濯物を泥だらけにしたり、花壇を踏み荒らしていった。

 マルセルやジャンヌを見かけた後のアスクは、ひどく癇癪を起すようになっていた。


 庭師のマッケン爺さんは考えた末に、アスクの目から二人の生活を隠す、迷路のような生垣を母屋と尖塔の間に造り始めた。

 その腕は大したもので、マルセルやジャンヌを見かける機会が減ったアスクの嫌がらせは日が経つにつれて減って行った。

 当然、ジャンヌも要らぬ気遣いが減り、自分たちの生活を良くすることに考えを巡らすことが出来るようになったのだ。

 そんなジャンヌの耳に、ファーナ王女の誕生を祝う盛大な誕生会が王都で催されたことが入ってきた。


ーーそう言えば、そろそろ出会って一年になるけど、マルセル様の誕生日はいつなのかしら?


 マルセルを預かった時には、マルセルの誕生日は教えられていない。

 ジャンヌと主人のデノーテが顔を合わせる唯一の機会は、毎月のお小遣い程度のわずかな手当をもらう時だけだったが、その時でさえ、デノーテがマルセルのことを尋ねることは無かった。

 ジャンヌが何か報告しようと口を開きかけても、用が済むとデノーテはさっさと奥に引っ込んでしまう。

 マルセルの世話は全部自分に任されていると、ジャンヌは思うようになっていた。


 考えた末に、互いが最初に出会った日を誕生日として祝うことにした。

 そこで厨房に行き、料理長のエストールに頼み込んだ。


「エストールさん、今度マルセルさまの誕生日を祝おうと思うのです。それでケーキを作りたいのですが、小麦粉と砂糖を分けていただけませんか」

「おう、そりゃあいいことだ。持って行きな」

「皆さんも誕生パーティに招待したいのですが」

「皆喜ぶぞ。マーサにも話しておいてやろう」

「お願いします」


 尖塔に戻り、誕生会の準備をしていると、マルセルが近寄ってきた。


「ねえ、ジャンヌ 何を作っているの?」

「今日はマルセルさまの二歳の誕生日ですから、ケーキを作りますよ」

「やったぁ! 私もお手伝いする!」

「じゃ、いっしょに作りましょうか」

「うん!」


 ジャンヌの手伝いをしていたマルセルが聞いてきた。


「ねえ、ジャンヌの誕生日はいつなの?」

「何日かはわかりませんが、確か、6月だとお母さんが言ってましたね。暑い夏の前だったって」

「じゃ今頃かぁ。私と同じじゃない。ねえジャンヌも私と誕生日を同じにしない?」

「そしたら、毎年いっしょにお祝い出来るよね」

「そうですね。そうしましょうか」

「やろう、やろう」


 マルセルが飛び跳ねて喜ぶ。


「じゃケーキを作りましょうか。鳥小屋からタマゴを取ってきてもらえますか」

「はーい」


 料理長のエストールからもらったタマゴをマルセルが温めてみたらヒナが孵った。

 今ではそれが10羽ほどに増え、毎日タマゴを生むようになっている。

 小さなカゴを手にして出て行ったマルセルは、すぐに帰って来た。


「今日はたくさん産んでたわ。ほら、5つも!」

「私はマッケンさんの所で牛乳を搾って来ますから、マルセルさまはベリーを摘んでもらえますか」

「はーい」


 牛小屋で絞って来た牛乳でバターと生クリームを作ると、ジャンヌが言った。


「じゃ、ケーキを作りましょう」


 小麦粉とバターとタマゴを混ぜてケーキの生地を作って焼いていると、匂いにつられたカストがやってきた。


「いいにおいがしてるなぁ」

「お誕生日ケーキなのよ」


 ヘラで生クリームをかき混ぜていたマルセルが、ヘラを持った手を腰に当てて得意そうに言う。


「へぇ、誰の?」

「私とジャンヌの」

「へえ、お前ら、誕生日がいっしょだったのか」

「いっしょにしたのよねーー」

「いいなぁ。俺は自分の誕生日なんて知らないからなぁ」


 カストが残念そうに言う。


「両親に聞いて無いの?」


 ジャンヌが手を停めて尋ねた。


「物心ついたときには、もう親はいなかったからな」

「マッケンさんが育ての親みたいなものだ」


 すると、マルセルが持っていた大きなヘラを高く掲げて叫んだ。


「じゃ、カストの誕生日も今日にしよう!」

「えっ」


 ヘラを肩に担いだマルセルが続ける。


「カスト、片膝をつきなしゃい」


 何をするんだろうとカストが片膝をつくと、マルセルが持っていた生クリームだらけのヘラをカストの肩にトンと当てた。


「カストを、お肉の係に任命するぅ」


 真面目な顔でマルセルが言い、ヘラで肩をポンポンと軽く叩いた。

 ヘラについていた生クリームが辺り一面に飛び散る。

 ジャンヌが大慌てで拭き取り始めた。

 まるで騎士のようだなとウキウキと嬉しくなったカストが立ち上がって叫ぶ。


「わかった!これからウサギを狩ってくるよ」


 その駆けだしていく背中にジャンヌが声を掛けた。


「マッケンさんにも誕生会に来るようにいっておいて」

「わかった」


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