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哀れな女  作者: 月愛
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愛の証拠を探す女

彼の部屋には、私のものは一つもない。

 けれど、私は知っている。

 ここにはちゃんと“私の気配”が残っている。


 証拠を、探せばいい。



 最初に見つけたのは、ベッドの端に落ちていた髪の毛。

 黒くて細い一本を拾い上げ、胸に抱く。


「これは私のだ。きっとそうだ。」


 彼に触れられた夜、髪がほどけたあの瞬間の残り香だと、

 私は信じた。


 ゴミ箱に入っていたティッシュも、

 飲み切られたペットボトルも、

 散らかったままの部屋も、


 全部、私を忘れられない証拠。


 忘れるなら片付けるはずだもの。

 捨てるはずだもの。



 次の日、私は彼の家の前で待った。

 玄関の扉が開く。

 彼は驚いた顔で言った。


「なんでここにいるの?」


 その声の震えを、私は嬉しさだと思った。

 会えて喜んでるのだと錯覚した。


「会いに来たよ。ちゃんと愛してる証拠、見つけたから」


「証拠って……は?」


 彼の声が冷たい。

 冷たいけど、氷の奥に熱があると勝手に思い込む。



 彼の腕を掴んだ瞬間、

 私は引き剥がされた。


「やめろ。気持ち悪い」


 胸が裂けるようだった。

 でも私は笑った。


「嫌いなら、どうして私の髪を拾って残してくれたの?」


「……髪?何の話だよ」


 違うの?

 じゃあ、あの部屋に落ちてたものは何?


 私を覚えていたから、捨てなかったんじゃないの?


 私を想ってくれている証拠なんじゃないの?



 思考がうまく回らなくなる。

 彼が離れていくように見えて、焦りで足が震える。


 嫌だ。

 証拠が欲しい。


 消される前に、愛の痕跡をこの手で掴まなきゃ。


「お願い、捨てないで。私を消さないで」


 彼の腕にすがりつく。

 泣きながら、必死に縋りつく。


 彼が嫌がって振り払うたび、愛を拒まれた気がして息ができない。



 最後に、彼は言った。


「警察呼ぶぞ。二度と来るな」


 その言葉が、鋭い刃物みたいに刺さった。


 でも――

 逃げる背中を見て、私は喜んだ。


 だって、背中を向けるってことは、

 振り返る可能性があるってことでしょう?


 捨てる気なら、もっと冷たくできたはずだ。

 怒鳴らなかったはずだ。


 怒るってことは、私に感情があるってこと。

 無関心じゃないってこと。


 その夜、私はまた彼の部屋に向かう。

 証拠を探しに。


 彼に忘れられない“何か”が、

 きっとまだどこかに残っているはずだから。

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