⭕ いざ、貴族院へ 2
唐車の外から馭者をしているキーノから「 橋を渡りますエリ 」と声がする。
もう橋を渡るんだ?
牛車って意外と速い乗り物なのかも知れない?
唐車の外からキーノが「 橋を渡り終えますエリ。これより《 貴族院 》へ入りますエリ 」と声がする。
やっぱり速い!
馬車よりは遅いけどな~~。
──*──*──*── 貴族院
《 平民地区 》から最高位の牛車である唐車が橋を渡り《 貴族院 》へ入って来る。
その一部始終を目撃した貴族達は、ギョッとした顔で唐車を見詰める。
馭者をしているキノコンを目撃した貴族達は、帝の寵愛を受けている陰陽師一族の獅聖家だと気付く。
《 貴族院 》で暮らしている貴族達は、キノコンの存在を『 獅聖家が “ 使役している式神 ” である 』として認識させられているからだ。
これはセロフィートの古代魔法の力で記憶を改竄されているからである。
獅聖家は《 平民地区 》に別荘として《 厳蒔屋敷 》を持っており、《 厳蒔屋敷 》の主である厳蒔憙彩は、《 獅聖邸 》の主である獅聖幻夢の双子の弟であると──、これまた嘘っぱちな記憶を植え付けられている。
因みに獅聖家が≪ 平城京 ≫より先祖代々続く由緒正しき本筋の陰陽師一族なのは事実だが──、“ 帝からの寵愛を受けている ” に関しては、古代魔法で改竄されている。
当然、天皇家で暮らしている全員も古代魔法による記憶改竄魔法の犠牲者である。
≪ 平安京 ≫に滞在していたセロフィートは、マオの知らない所でやりたい放題だった。
──*──*──*── 唐車の中
マオ:厳蒔磨絽
「 セロぉ~~~~!
確りやらかしてるじゃんかよぉ~~~~!! 」
幻夢さんから帝が唐車を贈呈された話を聞いた。
どんなドラマが繰り広げられる話なのか、ワクワクして身を乗り出して聞いたのに、真実を知って愕然とした。
胸熱でドラマチックな展開なんて微塵も無かった。
厳蒔弓弦
「 記憶の改竄とはセロらしいな。
それなら、帝から最高位の牛車を贈呈された理由にも納得だな 」
獅聖幻夢
「 セロ殿には本当に良くして頂いています。
帝から “ 寵愛を受けている ” お蔭で、《 陰陽院 》に入る事も免除してもらえていますし、顔パスで[ 内裏 ]にも自由に入れますからね 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そうなの?
それじゃあ、帝とも面会し放題って事? 」
獅聖幻夢
「 流石に其処迄は──。
囲碁の指南役と水墨画の講師をしています 」
マオ:厳蒔磨絽
「 水墨画も教えてるの? 」
獅聖幻夢
「 ≪ 和國 ≫に墨絵は存在しませんから、私が持ち込みました。
帝の前で水墨画を披露したら甚く気に入られましてね。
それからは水墨画の講師も兼任しています。
講師は師範の資格が無いと出来ない事にしていますよ。
≪ 日本国 ≫とは逆にして、“ 講師 ” を師範のみに与えられる特権にしました 」
マオ:厳蒔磨絽
「 水墨画と墨絵って違うの? 」
獅聖幻夢
「 墨絵は墨を使った絵画全般を指します。
水墨画は墨絵の一種ですよ。
水墨画は “ 墨の濃淡の暈し ” が重視され、水と墨で表現する技法に特化した作品です。
≪ 日本国 ≫では “ 水暈墨章 ” とも呼ばれています。
水墨画の神髄とされていますよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 へぇ…… 」
厳蒔弓弦
「 墨絵の中には、水墨画以外にも白描画,墨彩画,仏画,唐絵,山水画,やまと絵…等が有るらしいな 」
マオ:厳蒔磨絽
「 弓弦さん、詳しいね 」
厳蒔弓弦
「 囲碁友の中には、墨絵に興味の有る者も居てな──。
幻夢のファンなんだ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そうなんだ……。
でも、幻夢さんが帝に囲碁を指南してるなんて凄いね!
態と負けてあげたりするの? 」
獅聖幻夢
「 手加減をして相手を勝たせるなんて──、そんな失礼極まりなく無礼千万な事はしませんよ。
私は誰が相手でも態と負けたりはしません。
帝が相手でも勝ちます 」
マオ:厳蒔磨絽
「 え…………オレには勝たせてくれるのに…… 」
獅聖幻夢
「 マオ殿は特別ですよ。
主人殿を勝たせて花を持たせるのも眷属の務めですからね。
セロ殿とキノコン殿には負けてしまいますけど、マオ殿以外には敢えて負けたりしません 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そう…なんだぁ…… 」
オレに勝たせてくれる事は、“ 失礼極まりなくて無礼千万 ” な事にはならないのかな??
素直に喜べない。
オレが主人じゃなかったら、幻夢さんは負けてもくれないし、勝たせてくれない訳だな……。
唐車が停車する。
外から「 《 獅聖邸 》に到着しましたエリ 」って声が聞こえた。
やっぱり速いかもな。
唐車から降車すると目の前には立派な門が在る。
この門の奥に4軒分の《 厳蒔屋敷 》がスッポリと入っちゃう《 獅聖邸 》が在るんだな。
何か…………ドキドキするぅ~~!!
獅聖幻夢
「 ようこそ、お越しくださいました。
マオ殿,弓弦──。
此処が私の実家、《 獅聖邸 》です 」
マオ:厳蒔磨絽
「 凄く広そう…… 」
厳蒔弓弦
「 《 厳蒔屋敷 》とは違う様だな 」
獅聖幻夢
「 上流階級の貴族が居住する屋敷は大抵が同じ作りですよ。
庭の広さが違ったり、身分に依っては構造や規模に規制が有りますけど。
《 獅聖邸 》にも[ 東門 ]と[ 西門 ]が在ります。
此処は[ 西門 ]になりますね。
[ 西門 ]の周辺には、私用で使う牛車と牛の車庫として[ 車宿 ]、キノコン殿が住む[ 侍所 ]が在ります。
[ 西門 ]から入ると私の[ 寝殿 ]に近いのです 」
マオ:厳蒔磨絽
「 しんでん?? 」
厳蒔弓弦
「 自室の事だ。
夫婦で使う部屋だな 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そうなんだ 」
獅聖幻夢
「 [ 東門 ]の周辺にも牛車と牛の車庫として[ 車宿 ]、キノコン殿が住む[ 侍所 ]が在ります。
[ 寝殿 ]の東側,北側,西側には家族が住む[ 対の屋 ]が在ります。
[ 北対 ]は式神達の住まいです。
近付かぬ様にしてください。
キギナには[ 東対 ]を使わせています 」
マオ:厳蒔磨絽
「 えと…………じゃあ[ 西門 ]の此処は正門じゃない? 」
獅聖幻夢
「 [ 四脚門 ]の[ 東門 ]が正門ですね。
牛車にはこのまま[ 東門 ]へ移動してもらいます。
マオ殿と弓弦は[ 西対 ]を使ってください。
[ 寝殿 ]の南側には[ 庭園 ][ 池 ][ 中島 ][ 釣殿 ][ 泉殿 ][ 作泉 ]が在ります。
[ 船着き場 ]も在りますから船遊びも出来ますよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 凄いね…… 」
獅聖幻夢
「 キノコン殿が作ってくれたのです。
[ 庭園 ]の管理もキノコン殿がしてくれています。
季節の花を楽しめますよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 船遊びって事は、ボートに乗れるって事だよね? 」
獅聖幻夢
「 手漕ぎですけど、ボートではなく筏ですよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 筏?? 」
獅聖幻夢
「 古代魔法で何が起きても転覆しない様になっています。
船頭はキノコン殿がしてくれます。
池を回りながら[ 庭園 ]を楽しめます 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そうなんだ?
乗ってみたいかも。
[ 池 ]の中に島が有るのも凄いね。
[ 中島 ]では何をするの? 」
獅聖幻夢
「 何でも出来ますよ。
キノコン殿に頼めば用意してくれます 」
マオ:厳蒔磨絽
「 へぇ~~。
じゃあ、後で[ 侍所 ]で住んでるキノコンに相談してみようかな? 」
獅聖幻夢
「 先に[ 西対 ]へ案内しましょう 」
[ 西門 ]を通り[ 西中門 ]へ向かって歩く。
その間──左右に分かれて建物が在る。
右に在る建物が[ 西車屋 ]で、左に在る建物が[ 西侍所 ]らしい。
幻夢さんに案内されて、[ 西中門 ]を通り抜けた左に[ 西対 ]が見える。
[ 西対 ]の右に見えてる建物が、幻夢さんが自室として使っている[ 寝殿 ]らしい。
そのデカくて広い[ 寝殿 ]の後ろには幻夢さんの式神達が使っている[ 北対 ]が在るんだ……。
“ 渡殿 ” って呼ばれる廊下を歩けば、[ 北対 ]に行けるみたいだけど、幻夢さんから「 近付くな 」って言われたから、“ 渡殿 ” を使わない様に気を付けないとだ。
キギナが使っている[ 東対 ]に行くには──、“ 渡殿 ” を使うか、“ 透渡殿 ” って呼ばれる廊下を使うしかないみたいかな?
[ 西対 ]の中へ入ると中は広々としていた。
20畳分は有るんじゃないかな?
この広い[ 西対 ]を弓弦さんと2人で使うんだ……。
マオ:厳蒔磨絽
「 幻夢さん、凄く広い部屋だね 」
獅聖幻夢
「 そうですか?
20畳程しかないですけど? 」
厳蒔弓弦
「 1人で使うにしても10畳でも広いと思うが……。
[ 寝殿 ]と[ 北対 ]は倍は有りそうだな 」
獅聖幻夢
「 [ 寝殿 ]は50畳、[ 北対 ]は40畳有りますよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 50畳に40畳…………規模が違うね 」
獅聖幻夢
「 広く感じる場合は仕切りをして使いますよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 仕切りが有るの? 」
獅聖幻夢
「 キノコン殿に取り付けてもらいました。
軽くて丈夫で雨風を防いでくれますから便利ですよ 」
マオ:厳蒔磨絽
「 《 獅聖邸 》でもキノコンは大活躍なんだ 」
獅聖幻夢
「 [ 寝殿 ]へ案内します。
[ 寝殿 ]へは、透渡殿──手前の廊下を歩いてください。
北側の渡殿は使わぬ様にしてください 」
マオ:厳蒔磨絽
「 幻夢さん、キギナの居る [ 東対 ]へ行きたい時は、どうしたら良いの? 」
獅聖幻夢
「 [ 東対 ]へ行きたい時ですか?
外を歩いてください 」
マオ:厳蒔磨絽
「 外…… 」
厳蒔弓弦
「 透渡殿を通るなら[ 寝殿 ]の中を通る事になるからだな 」
マオ:厳蒔磨絽
「 そっか……。
うん、分かったよ 」
そうだよな。
幻夢さんの自室を通って、キギナに会いに行くなんて非常識だもんな……。
オレが間違ってた。
◎ 訂正しました。
やりたい放題だった訳だ。─→ やりたい放題だった。
偉く気に入られましてね。─→ 甚く気に入られましてね。




