第19話:「傷を癒す光と新たな出会い」
ハルス村で育てられた星影薬草ポーションは、今や「特級ハイポーション」として王国全土だけでなく隣接する諸国からも注目を集める存在となっていた。その癒しの力は、どんな治療でも救えなかった命をも救う奇跡の一滴として語り継がれ、陽介の作物はより広い世界へと影響を広げていた。
命を救うポーション
王国の北部、冷たい風が吹きすさぶ戦場で、一人の女性騎士・セリナが重傷を負っていた。彼女は王国の精鋭部隊の一員として戦いに挑んでいたが、不意の襲撃に遭い、仲間たちが運び出す間もなく地面に崩れ落ちた。
「セリナ様、このままでは…!」仲間たちが狼狽える中、部隊長が腰に携えていた一瓶のポーションを取り出した。それは星影薬草を用いた特級のハイポーションだった。彼は手早くそれをセリナの口元に流し込むと、奇跡のように彼女の傷口が癒え始め、荒かった息が次第に落ち着いていく。
「このポーション…どれだけの力を秘めているんだ?」救われた命に感謝しながら、仲間たちはそのポーションの出所に興味を抱いた。そして戦場を離れた後、セリナは自ら命を救ってくれたこの薬草の背景を調べ始めた。
陽介との出会い
セリナは調査の末、ポーションの材料がハルス村の農場で育てられた星影薬草であることを突き止めた。そしてその農場を営んでいる陽介という男の存在を知ると、直接会って礼を伝えたいと考え、ハルス村へ馬を走らせた。
陽介は農場でのいつもの作業に没頭していたとき、セリナの訪問を迎えた。「貴方が星影薬草を育てている陽介殿ですか?」低く響く彼女の声に振り返ると、そこで彼は鋭い眼差しの女性騎士の姿を目にした。
「ええ、そうですが…貴女は?」陽介が困惑しながら答えると、セリナは兜を脱ぎ、彼に深く頭を下げた。「私はセリナ。先日の戦場で貴方の作物から作られたポーションで命を救われた者です。この場を借りて、心から感謝申し上げます。」
陽介はその言葉に驚きつつも、「僕の薬草が役に立てて何よりです。」と穏やかに答えた。その飾らない態度に、セリナはどこか心を打たれたような表情を浮かべた。
心を寄せる想い
その後、セリナはしばらくハルス村に滞在し、陽介の農場を訪れるようになった。最初は感謝を伝えるためだったが、次第に陽介の働きぶりや彼の周囲の人々との温かい交流を見るにつれて、彼の穏やかな人柄に惹かれるようになっていった。
「貴方はどうしてこの地で農業を?」ある日、セリナが陽介に尋ねた。「僕は…ここで誰かの役に立てるなら、それが一番幸せだと思ったんです。」陽介の返答に、セリナは新鮮な驚きを感じた。戦場で命を賭けて戦う自分とは違い、彼は穏やかな生活の中で人々の命を支えている。その姿勢が彼女には眩しく見えた。
リーナは遠目にそのやり取りを見守りながら、少し嫉妬の色を浮かべていた。「なんだかあの騎士さん、陽介に近づきすぎじゃない?」彼女はぶつぶつと呟きながらも、セリナと陽介が仲良く話す姿にどこか心配を感じていた。
新たな絆と選択
セリナが村を発つ日が近づくと、彼女は陽介に「また必ずこの村に戻ってくる」と約束をした。「貴方の作物が持つ力を多くの人々に届けるため、私も力になりたい。」陽介はその申し出に笑顔で頷き、「ぜひまた来てください。僕ももっと良い作物を育てておきます。」と答えた。
セリナが去った後、リーナは陽介に少し意地悪そうな表情で近づいた。「あの騎士さん、本当に熱心だったね。」陽介は苦笑しながら、「まあ、感謝してくれるのは嬉しいけどね。」とだけ答えた。
こうして陽介の異世界農家ライフは、彼の穏やかな心に惹かれる新たな出会いを通じて、さらに広がりを見せていくのだった。