第13話:「リーナの揺れる心」
春風が柔らかく村の畑を包み込む中、陽介は作物を育てながら、新たな挑戦に夢中になっていた。農場ではいつものようにリーナが陽介を手伝い、明るい笑顔で声をかけていた。しかし彼女の心の奥底には、近頃抱き続けている不安と複雑な感情が渦巻いていた。
王女が陽介に恋を告げたあの日から、リーナの心には小さな棘が刺さったような痛みが残っていた。陽介と王女の対話を遠くから見守る彼女は、その場に入るべきか否か迷いながら立ち尽くしていた。陽介がどちらかを選ばなければならない状況に直面することが、彼女にとって耐え難い恐れであり、不安だった。
嫉妬の影
翌朝、リーナは陽介と一緒に畑仕事をしながら、無理に明るく振る舞おうとしていた。「あんた、また王女様のところに行くことになったら、農場の仕事、どうするのよ?」リーナは少し冗談めかして言ったが、その言葉の裏には彼女の本心が滲んでいた。
陽介は作業を続けながら、彼女の問いかけに答えた。「いや、それはないよ。ここが僕の居場所だからね。村を離れるつもりはないよ。」その答えを聞いたリーナは少し安心したように見えたが、それでも心の中には彼女だけが抱える悩みが残っていた。
畑仕事を終えた後、リーナは一人になりたいと思い、小川のほとりに座り込んだ。目の前には澄んだ水が流れているが、彼女の心は不透明だった。「あの王女様…本当に素敵な人だよね。私なんて普通の村人にすぎないのに…どうしてこんなに不安になっちゃうんだろう。」彼女は誰にも聞こえないように呟いた。
嫉妬との向き合い
数日後、村の広場で王女が再び陽介に会いに来たという知らせが届いた。リーナはその場に行くべきか迷いながらも、結局畑仕事を理由に広場へは向かわなかった。心の奥底で、王女と陽介が話している姿を見るのが怖かったのだ。
しかし、畑で黙々と作業をしていると、リーナの胸中には新たな感情が芽生え始めていた。「こんなところで逃げてちゃダメだよね。陽介がどんな選択をするにしても、それを受け止めなきゃ。」彼女は深く息を吸い込み、農具を置いて広場へ足を向けた。
揺れる心の対話
広場では、陽介と王女が穏やかな声で話している姿が見えた。リーナはその様子に一瞬足を止めたが、意を決して近づいた。「ちょっと待って!」リーナは強い声を出して二人に歩み寄った。王女はその言葉に少し驚きながらも優雅に振り向いた。
「陽介、私、言わなきゃいけないことがある。」リーナは陽介の前で立ち止まり、真剣な表情を浮かべて言った。「私…あんたが王女様と一緒にいるのを見ると、どうしても胸が痛くなるの。王女様が素敵な人なのは分かってるけど、それでも…あんたと一緒にいたいって思うのは、私のわがままなのかな?」
陽介はリーナの言葉に驚きつつも、その真剣さを感じ取った。「リーナ…君がそんな風に思っていたなんて知らなかった。僕にとって君は特別な存在だよ。君と過ごしてきた日々が僕の支えなんだ。」その言葉を聞いたリーナは、少しずつ胸の痛みが和らいでいくのを感じた。
王女は静かに二人のやり取りを見守りながら、小さく微笑んだ。「リーナさん、貴女の気持ちは本当に素晴らしいですね。私も陽介殿が大切です。でも、この村で彼が果たしている役割を見ると、彼を取り上げることができないと思いました。」その言葉にリーナは少し肩をすくめながら答えた。「分かってくれてありがとう、王女様。」
未来への一歩
その後、王女は陽介たちと友人としての関係を築き、村を時折訪れるようになった。リーナは陽介と共に農場を支えながら、王女の訪問にも心を開いていった。
「嫉妬なんて、もっと素直になれば消えるものなのかもね。」リーナは農場で作業をしながら呟いた。陽介は微笑みながら言った。「そうだね。僕たちがどうするかは、これから次第だから。」彼女はその言葉に頷きながら、これからの未来に目を向けた。
こうして陽介の異世界農家ライフは、新たな関係性と絆を築きながらさらに進化していくのだった。