第12話：「揺れる心、二つの想い」
暖かな春の陽射しがハルス村の畑を包み込んでいた。陽介はその中で作物の成長を見守りながら、次の収穫祭に向けた準備を進めていた。王宮で姫を救った出来事から日が経ち、村の生活に戻った陽介は、これまでと変わらず農場での仕事に打ち込んでいた。しかし、彼の穏やかな日々は、再び訪れた客によってかき乱されることになる。
王女の訪問
その日、村の広場に王室の馬車が到着したという知らせが舞い込んできた。リーナが駆け込んできて興奮気味に話す。「陽介！王女様が村に来たって！どうしてだろう？」陽介は驚きつつも畑の作業を中断し、広場へと急いだ。
広場に到着すると、美しいドレスを身に纏った王女が立っていた。彼女の顔色はすっかり良くなり、以前の病弱な姿は微塵も感じられない。その姿を見た陽介は安心しながら頭を下げた。「王女様、お元気そうで何よりです。村に何かご用ですか？」
王女は彼に微笑みながら答えた。「陽介殿、貴方には感謝の気持ちをお伝えしに参りました。それと…もう一つ、大切なことを伝えるために。」その言葉に陽介は困惑しながらも、「私に、ですか？」と問いかけた。
王女の告白
夕方、陽介と王女は農場で静かに話をしていた。リーナが少し離れた場所で不安そうに二人を見守りながら、作業を続けている。「陽介殿、私は貴方が救ってくださっただけでなく、この村で貴方が生き生きと働いている姿を見て…私の心が揺れ動きました。」王女はその瞳に真剣さを宿しながら続けた。
「私は…貴方に恋をしています。」王女が静かにその想いを告げると、陽介は驚きと戸惑いを隠せなかった。「恋…ですか？」王女は頷きながら微笑んだ。「貴方のような方が、私の人生に必要だと感じています。」
その瞬間、リーナが陽介の近くに歩み寄り、王女を見つめながら声を荒げた。「ちょっと待ってよ！陽介は私の大事な仲間なんだから、そんな簡単に取られるわけないじゃない！」彼女の瞳にも強い感情が宿っていた。
恋の三角関係
王女は毅然とした表情でリーナに向き合い、「それは貴女の気持ちでしょ？でも、陽介殿の気持ちはどうなのか、貴女は分かっているの？」と問いかけた。その言葉にリーナは少し動揺しながらも、「陽介は私と一緒に村を支えてきたのよ！その絆は王女様には分からないでしょう！」と強く言い返した。
陽介は二人の激しいやり取りに挟まれ、言葉を選ぶ暇もなかった。「ちょっと、落ち着いてくれないか。」彼は両手を挙げながら二人を静めようと試みた。「王女様の想いも、リーナの気持ちも分かります。でも、こんな形で争うのは良くない。」
王女は目を伏せながら静かに言った。「確かにそうですね。ですが、私は陽介殿の選択を尊重します。」リーナも少し落ち着きを取り戻し、「陽介がどうしたいか、ちゃんと自分の言葉で聞かせてよ。」と訴えた。
陽介の決断
陽介は二人を前にして深く息を吸い込んだ。そして、静かに口を開いた。「僕は、どちらも大切な人だと思っています。王女様の感謝の気持ちは本当に嬉しいです。でも、僕の人生はこの村を支えることにあります。そして、リーナともこれからも一緒に村を盛り上げていきたいと思っています。」
その言葉に王女は複雑な表情を浮かべながらも微笑み、「貴方の選択を尊重します。」と静かに言った。リーナは安心したような表情を見せながら、「陽介、ありがとう。これからも一緒に頑張ろうね。」と笑顔を返した。
新たな絆の始まり
王女は村で数日を過ごし、陽介たちの生活を見守った後、王宮へ戻ることを選んだ。その後も彼女は陽介を時折訪ね、友人として村を支えることを誓った。
農場で再び作業に励む陽介は、リーナに笑いながら言った。「これでまた平穏な日々に戻れるかな？」リーナはからかうように、「もう余計な騒ぎは勘弁してよね！」と言いながらも微笑んだ。
こうして陽介の異世界農家ライフは、さらに深い絆と新たな形の友情を築きながら続いていくのだった。
