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4話——今度は精霊まみれの少女がおりました。

 ガキン!! バキィ!!


 只今何やら物騒な音が響いておりますが。

 三回目の野営地にて、シャルくんとルーベルさんが実戦形式の訓練中です。

 アルクさんもそうでしたが、隊長さんって容赦ないですよね? まぁ……命を守る為の訓練だから手なんか抜かないのだろうけど、それにしても見てるこっちがハラハラしてしまう。

 今も、シャルくん軽くボコられてます。素人だから私にはそう見えているだけかもですが、ルーベルさんの木刀が湾曲して見えます。剣筋がおかしな事になってます。シャルくんも受けてはいるけど、三回に一回は体に直撃してますね。本当に三回に一回かも微妙なところですし、アレ受けられるのもおかしくね? とも思いますが。

 体中アザだらけになりそうだなぁと思うけど、シャルくんは魔法で防御壁を常に展開しているとかで、対したダメージにはならないのだそうです。

 にしても、その音を聞いているだけで、私は体震えますけど。

 そして彼らは平然と言うのです。「大丈夫、慣れてるから」と。


 そして、彼方ではハワード様の放つ水の矢を、レンくんが避けたり弾いたりしている。

 ハワード様にとっては魔力についての持久力、装填速度の向上、瞬時に矢に込める魔力に強弱をつける訓練なんかになるようだ。

 レンくんはレンくんで訓練になっているらしいけど、ソラの説明が難しくてもう覚えておりません。

 私の目には矢自体見えませんが、この人達の動体視力って一体どんな構造をしているのでしょうか?


 そして、此方には地面に倒れ込むように転がる十人の騎士の皆さんと、優雅にお茶を嗜むアルクさんが。

 先程まで訓練してたのですが、この様子だとどうやら強制終了したようですね。皆さん起き上がれますか? と心配になる程、全員はぁはぁ言ってますけども。

 アルクさんの、汗ひとつかかず、息ひとつ乱さず、美しく優雅にカップを口に運ぶ様はもう芸術の領域です。


 男の子は元気一杯ですねー(棒読み)。


 ここでひとつ、新たな真実が明らかになった。

 普通の人って『聖剣』扱えないらしい。

 諸々の事情を考慮しても私が一番普通だと思っていたのに、女神様の魔力を宿した聖剣を扱えるのは、女神様の魔力を有する人間だけなのだそうだ。

 さっきシャルくんに「聖剣預かって」と言われたのだが、食事の準備中だったし、近くにいた騎士さんにお願いしたらそれら事実を教えてくれた。因みにその騎士さんが触ろうとすると、手が聖剣をすり抜けておりました。別の騎士さんは「え? 岩持ち上げてんの?」って突っ込んじゃうくらい重そうな顔してて、結局持ち上がりませんでした。

 私が持ってもずっしり重たくて、とても振り回せそうにはない。そう言ったらシャルくんに、「それはただ単に、えみに剣を振るうだけの筋力が無いだけだと思うよ」なんて笑われましたけども。

 そう言う大事な事は、先に言っておいて欲しかったよね……。

 道理で、選定の儀の時に私が聖剣を手にしてざわざわした訳だ。

 夜会で教会の面々に会わされた時なんて、全員平伏する勢いだったからね!?

 やっとその意味がわかった。と同時に自身が普通では無かったのだと再認識させられて、ダメージ半端ないですけども……。



 そんな元気いっぱいの男の子達を余所に、私はといえば晩御飯の準備の最中だ。

 連日こんな風にボロボロになるまで訓練するので、メニューを考えるのも大変だ。ただ疲労回復や滋養強壮に考慮した結果、翌日には皆さん体がぴんぴんしてるようなので、ある程度の効果は見られるようだ。魔力もしっかり回復出来ているみたいだし、私の役割のひとつはきちんと果たせているみたいでホッとしている。

 精霊達はあれから見た目に変化はないものの、魔力の質はぐんぐん上がっているとソラが言っていた。

 取り敢えずは今のままでいいのかな。なんてったって正解がわからん!


 因みに今夜のキャンプ…もとい野営飯は、魚介を使ったパエリアと、焼き肉のタレで作るジャージャー麺、スパイスを利かせたケイジャンシュリンプに、サラダ。後はワサビちゃん特製の疲労回復ハーブティーに、おやつで焼きリンゴだ。

 主食多めだけど、体を酷使する彼等には丁度良いらしい。

 味見と称して既に焼きリンゴを三つ程平らげたワサビちゃんが、地面にへばりついている騎士の皆さんに冷たいハーブティーを配って歩いている。笑顔が可愛くて良く気が付くワサビちゃんは、若い騎士の間で密かに人気があるらしい。レンくんがこっそり教えてくれた。

 アルクさんの部下の皆さんにワサビちゃんを泣かすような輩はいないと思うが、なんとなく心配になってしまうのは母性からだろうか。

 出産どころか結婚もしていないけれど。なんならワサビちゃん、精霊だけれども。


 毎回騎士の皆さんがしっかり石で即席コンロを組んでくれるので、とてもありがたい。流石野営慣れしているだけあって手際も良い。

 ワサビちゃんがいてくれるから下処理もする事ないし、私のやることと言ったら本当に作るだけ。

 そして訓練を眺める。

 後はソラのブラッシングと、皆さんとおしゃべり。

 最近はワサビちゃんが夜でも起きていられる時間が長くなってきたので、晩御飯後の自由時間で騎士の皆さんに囲まれている事が多い。

 この間なんて「ワサビちゃんはどんな男がタイプ?」なんて聞かれているところをたまたま目撃した。たまたまですよ!?

 そしたらワサビちゃんは「優しくて、頼もしくて、ホルケウ様より強い方がいいですぅ」なーんて、萌え萌えの笑顔でぶちかましていた。

 ……それ、最早勇者と魔王以外に、地上には存在しないよね。そもそも精霊だから、基準がおかしいのは仕方ない……のか?

 騎士くんが可哀想すぎて、そっとその場を離れました。


 そんな事を思い出してニヤけていると、レンくんとシャルくんがやってくる。訓練が一段落したみたいだ。こちらもそろそろ出来上がるし、丁度いいタイミングだ。


「えみ、何笑ってんの?」


 タオルを首に巻いたシャルくんがこちらを覗きこんでくる。


「ちょっと思い出し笑い」

「思い出し笑いって、行き遅れの始まりらしいぞ」


 レンくんがグサリと胸を貫通する言葉の棘を投げ付けてくる。

 それって「夜に口笛吹いたら蛇が来る」とか、「ご飯残したら勿体無いおばけが出る」とか、そう言う事かな!? こっちの世界のおばあちゃんの知恵袋的な事だよね!? 迷信でしょ!?


「何それ!? すっごい理不尽!!」

「実際そうなんだから気にする事無いって!」


 ケラケラ笑いながらシャルくんがトドメを刺してくる。

 ……確かにそうなんだけどさ。


「……すっごい不本意」


 釈然としない。

 にしてもこの二人、いつの間にか息ぴったりになっている。その事は嬉しかったが。

 ……やはり釈然としない。





 その後は魔物の群れに出会す事もなく、王都を出発して四日目の夕方。私達は無事に目的地『イーリス』へ到着した。予定よりも一日早い到着だった。

 私達が通って来た南門は普段通りの街並みだったが、北門へ向かうとそれは一変した。森が隣接するそちら側では建物が幾つも崩れ、瓦礫の山が築かれている。

 防衛の要である門の修繕はほぼ終わっているようだったが、民家や商家は途中だったり未だ手付かずだったりと、思うように復興が進んでいない印象だ。ここへ来た先遣隊が到着してから一月程は経っている筈だ。それなのに、一体どうして……。


「……酷い」


 その日何が起こったのか……想像するのも恐ろしかった。

 シャルくんは自分の村が襲われた時の事を思い出しているのか、怖い顔で黙っている。


「それでもよくこれだけの被害で済んだな……」

「この辺りまでで被害が食い止められていますね。……何か理由があるようですが」


 ハワード様もルーベルさんも解せないといった様子だ。

 確かに群れの襲撃を受けたと聞く割には、街のとある場所から中心部にかけての被害が一切見受けられない。門と門に近い建物だけの被害で済んでいるのだ。


「とにかくウォルフェンさんと合流しましょう」


 アルクさんの言葉に皆んなが頷き、第一師団が拠点にしているという宿屋へ向かった。




 久しぶりに会ったウォルフェンさんは、やっぱり大きくてムキムキで豪快だ。「またお会い出来て嬉しい」と握られた手がじんじんしている。

 奥さん小さくて美人らしいけど、本当かな? 勝手なイメージで握り潰されてしまいそうだけど大丈夫なのかなぁ?

 そんな余計な心配を余所に、団長様方とハワード様、シャルくん、レンくんがテーブルを囲んだ。

 美しい人達は、もうその場にいるだけで違う。存在自体が別格なのだ。

 普段ならエールがなみなみと注がれたジョッキを片手に、野郎どもが談笑するような大衆向けの宿屋の食堂が、一気に華やかさを増し、雅な場所と化す。

 それはそれは絶美な様に、宿の女将さんと並んで感嘆のため息をついてしまう。


「美しいねぇ……」

「本っ当に……」


 もしもスマホが使えたなら、軽く数十枚は写真撮ってる。勿論連写機能を使用して。一番良いショットは絶対逃さない自信がある。

 あぁ……マジ尊い。

 ソラが盛大に溜め息をついているが聞こえない。


「お待たせしましたー」


 可愛らしい声と共に、奥から大きなトレーで飲み物を運ぶ少女がやって来た。女将さんの娘さんらしい。


「「「!!??」」」


 その姿を見た瞬間、全員が固まった。正確には、魔力持ち全員が固まった。

 少々ぎこちない営業スマイルで、ひとりひとりにグラスを配るその少女は、見事なまでに精霊まみれだったのだ。

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