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11話——親子って、やっぱり似るんですね。

 ◇ ◇ ◇


「王宮ではどこまで状況把握がなされていますか?」


 えみが退出した後、シャガールは気になっていた疑問を口に出した。表情は僅かに強張り、そこには少しの緊張が混じっている。


「教会と変わらんよ。日夜魔術師達に監視させているが、大きな動きも手掛りも無い」

「そうですか……」


 落胆するシャガールにローガンが微笑みを向けた。


「動きが無いという事は、我々に今しばらく時間があるという事。焦らず、今は自身を高める時と精進しましょうぞ」

「……はい」


 教会も王宮も魔王の居場所を突き止められてはいない。

 魔物がどうやって生まれているのか、どこからやってくるのか、それ自体解明されていないのだ。

 有力視されているのは『魔の森』が魔物を排出しているという説。しかし、これも定かでは無い。濃い瘴気のせいで十分に研究がなされていない為だ。

 教会では定期的な森の浄化作業を行なっているが、無くならないのが現状だ。増えもしないし無くならない。よって現状維持。

 それが今までの当たり前だった。


「しかし、最近は魔の森の拡大や瘴気の濃度の上昇が見られます。魔王復活が起因していると言うのが上層部の考えです」

「そうでしょうね。ここ最近の街や村の襲撃も、そこと密接に関連しているのでしょう」

「ルーベルさんの言う通りです。教会もそう考え、浄化の日程を大きく調整し直さなければならなくなっています」

「ではやはり聖騎士団の派遣は難しいな……」


 教会が浄化を担うなら、王宮は監視を担っている。王宮魔術師達は日夜王国全土、全ての時間を監視しているのだ。

 それによっていつどこでどの村や街が襲われたのかが分かるようになっている。残念なのはそれが『監視』に特化していると言う事。

 よって未然に襲撃を防ぐのは難しく、課題の一つと言えた。

 現状では、大きな都市にある地方教会に常駐している聖騎士団が出動する手筈になっている。魔物の報告を受けて一番現場に近い隊が討伐に向かうのだ。それでも追いつかない場合に、教会より応援要請を受け、王国騎士団が派遣されるという流れになっている。その為、やはり対策は後手に回りがちだ。

 聖騎士団に入隊出来るのは魔力持ちである事が絶対条件だ。ただでさえ希少な人材であるが故、人数に限りもある。慢性的に人手が足りない、と言うのは常に隘路になっていた。



「その魔の手がいつここに届くか……」


 そう溜め息混じりに漏らすローガンに、忌々しげにハワードが続いた。


「そうだ。明日にでも徒党を組んだ魔物共が城に攻めてくるやもしれん。だと言うのに、大臣共はやれ儀式だのやれ手続きだのと、事態の緊急性を全く分かっていない」


 ハワードの顔には、さもうんざりといった色がありありと出ていた。

 古くからの慣わしやしきたりを重んじる彼らと、状況に応じて臨機応変に対応すべきと言う考えのハワードとの間には、浅からぬ溝がある。どちらの言い分も分かるし、どちらも国を想っての事だ。どちらが正しいかなど誰に決められようか。


「それにしても儀式が三日後とは随分急ですが、よく教会側が承諾しましたね」


 ルーベルの問いにげんなりしていたハワードの顔つきが変わった。それに嫌な予感を覚えたアルクがジロリと睨みを効かせている。


「緊急事態ゆえ、準備期間の短縮と儀式の簡素化を図ったまで、だ」


 ハワードは悪びれるでもなく、何でもないと言わんばかりだ。

 それに頭が痛いとばかりにこめかみをぐりぐりしているのはアルクだ。


「それをちゃんと教会側に説明したんだろうな!!」

「きちんと教皇宛に書簡は送った。幸いにも聖剣も聖遺物も王宮で保管されているし、最悪教皇が出席出来なくとも、代役がいるから問題無い」

「え?」

「は?」


 珍しくシャガールとローガンがハモっている。


「おまっ……、まさかっ!!」


 アルクが目を吊り上げて睨み付けるが、ハワードはさらりと受け流す。

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるハワードとは対称的に、とうとうアルクが頭を抱えている。


「まさか……えみ殿に?」

「……どうやら初めからそのつもりだったようですね……」


 ローガンもルーベルもハワードのまさかの考えに、今回ばかりは驚きを隠せないようだ。


「えみはこの事……知ってる訳ないよなぁ……」


 めちゃめちゃ怒りそうだなぁとシャガールは遠い目をしている。


「教会も……黙ってないでしょうね」


 ルーベルもお茶を啜りながら遠い目をしている。


「だから勇者殿からえみにさらっと伝えておいて欲しい。つもる話もあるだろう?」


 シャガールはこの日初めてハワードの数々の武勇伝の内情を知ったのだった……。


「わかりました。オレには拒否権ないですから。そのかわり、えみが二度とハワード様におやつ作ってあげないって言い出しても、知らないですからね」


 言いながらシャガールが席を立つ。ハワードの無茶振りに、早々にここから避難しようと言う防衛本能が働いたからだ。


「……え?」


 そこまでの予想をしていなかったのか、カップを持ったまま固まるハワードを他所に、他の三人もシャガールに続いて席を立った。


「オレは訓練に戻りますので」


 会釈をして立ち去るシャガールにローガンが続く。


「事は急を要するとはいえ、今回は殿下が悪うございますな。勇者殿、お付き合いしましょう」


 ありがとうございますと腰を折るシャガールの表情からは、ローガンに対する尊敬の意がありありと伝わってきた。


「私もローガン様に一票ですね。ご一緒してよろしいですか?」


 ルーベルが二人に続いた。シャガールは瞳をキラキラ輝かせて嬉しそうに破顔している。王国が誇る騎士団、それを束ねる総隊長と、剣豪と名高い第二師団長との手合わせだ。これほど貴重な経験は無いだろう。


「私も戻ります。雑務がたんまり残ってますので!!」

「アルっ!! それだけはっっ!!」


 わざとらしく腰を折るアルクにすがるような眼差しを向けるが


良い機会です(しるか!!)少し自重してください(じごうじとくだ!!)。」


 とりつくしまもないのだった。


「……怒るよなぁ……」


 今更ながらやっちまった感をひしひしと感じ、ハワードは長い長い溜め息を零しながら天を仰いだのだった。


 ◇ ◇ ◇


 王宮料理人の皆さんにアドバイスを貰いながら、なんとか晩餐の時間に間に合わせる事が出来た私は、作り上げた料理と共に国王様とお妃様の待つ部屋へと移動していた。


「どうしよう……めちゃめちゃ緊張する!」


 今日のメニューはコース料理らしく、前菜のサラダにスープ、メインは良く捏ねたハンバーグに季節野菜の天ぷら、デザートにこれまた季節の果物をつかったシャーベットを用意していた。


 大きな扉の前に着くと見張りの騎士様が二人掛かりでゆっくりと開いていく。

 ドレスの裾を直して、作り笑を張り付けると、部屋の中へと足を踏み入れた。


「皆さんもご一緒だったのですね」


 席に着いていたのは陛下とお妃様だけでなく、遠征メンバーにローガンさんまで皆さん同じテーブルに着いていたのだ。


「えみの席もあるぞ」


 見るとアルクさんとシャルくんの間に空席があり、そこが私の場所らしかった。


「 今宵の料理長であるえみから料理の説明をして貰えるだろうか」


 ハワード様より紹介され、国王様とお妃様へと習いたてのお辞儀をした。


「お妃様とはお初にお目にかかります。えみ・ナカザトと申します」


 軽い自己紹介で済ませた。皆んなの目が早く食わせろと言っているからだ。

 前菜のサラダは季節の野菜を使ったもので、お酢を利かせたドレッシングがかけられている。ルファーくんがお酢の匂いをモロに嗅いで悶絶していたのが懐かしい。

 スープはコーンスープならぬ『コロンニスープ』だ。要はコーンスープだ。硬いパンで作ったカリっカリのクルトンがのっている。サクサクした歯応えも好きだが、スープがしみしみのクルトンの食感も大好きだ。

 メインは筋の多い豚のような謎肉を少し大きめにミンチにした挽き肉を使ってハンバーグを作った。油分が少ないために少しばかりラードを混ぜ、良く捏ねて厚めに生成してボリュームを出してある。ソースはもちろんデミグラスだ。

 天ぷらは季節の野菜を衣にくぐらせてさっくり揚げた。個人的に好きな大葉の天ぷらも入っているが、基本的にはこちらの世界のものを使った。塩と天つゆの二種類で味わって欲しい。

 デザートのシャーベットは、ただ単に果物を凍らせてかき氷機で削り出しただけだった。かき氷機は王宮料理人の皆さんに物凄く欲しそうな目で見られたので差し上げた。

 ここでも極力濃い味付けにならないように気を付けたつもりだ。

 デミグラスソースだけは勘弁していただいたが。

 比較的若い年齢層はハンバーグが、お年を召した方々は天ぷらがお気に召したようだった。

 どうにかこうにか和やかにディナーが進み、デザートまでしっかり食べ終わったところでお妃様から爆弾が降ってきた。


「そなた、城に住む気はないか? これの隣が空いておるのだが」


『これ』とは、ハワード様の事らしい。ハワード様がニヤニヤしながらこっちをみ、アルクさんが真っ黒オーラ全開でこっちを見ている。

 子が子なら、親も親だなと思ってしまった。

 勘弁してくれ。

 いい歳なんだから婚約者くらいいるだろうと思ったら、一国の皇子にも関わらずいないのだと言う。それはそれでどうなのかとも思うが。

 私は元々庶民中の庶民ですからと丁重にお断りした。不敬罪に当たらないかドキドキしたけど、ここは黒の巫女の権威とソラの力を存分に振り翳す事にする。

 目が合ったアルクさんのそれが全く笑っていない事に気がつき、「私はアルクさんの婚約者なので」と、丁重にお断りし直した。


「それ、いつからそうなったんだ?」


 シャルくんに突っ込まれて面倒くさい事になってきたので、ハワード様を睨み付けてさっさとお開きにしてもらった。



 どっと疲れたから早くお風呂入って眠りたい。

 そう思っていたところに、シャルくんが部屋を訪ねてやって来たのだった。

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