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3話——ご飯が不味くて耐えられません!

 メアリさんが淹れてくれた美味しいお茶を飲んで落ち着いた私は、どうしようか迷った挙句、全てを打ち明ける事にした。


「あの……信じて貰えないかもしれないのですが……私、実は別の世界から来たんです!!」

「あぁ、だろうね。そんな気はしていたよ」

「へ? ……あ、……ん? ……信じてくれるんですか?」

「もちろん。君から感じる力は、我々のものとは違っているからね」


 信じて貰えなくて、頭のおかしな奴だと思われたらどうしようかとビクビクしていたのに、アルクさんは驚く程あっさり受け入れてくれた。

 私から感じる雰囲気も、見た目も名前も、自分達とはまるで違うからと言うのが一番の理由らしい。

 お茶を飲んでいる間中ぐるぐると巡っていた不安が、杞憂で終わって良かった。

 聞けば極稀にではあるが、私のように別世界から訪れた例が過去にもあるようだ。

 その人がどんな人で、何処でどの様に過ごしたのか気になったけど、なんせ遠い過去の出来事の様でアルクさんも詳しくは分からないとの事だった。


「もし良ければ、えみの話を聞かせて貰えないだろうか?」


 カップを傾ける姿も絵になるなぁなんてついつい見ていたら、目が眩むほどの微笑を向けられて危うくカップを落とすところだった。

 割ったら大変! きっと私がどんなに働いても弁償なんて無理なんだろうなっていう高級感。

 気を取り直して何となく姿勢を正す。

 そうして日本と言う国から来た事、そこがこことは違う別の世界である事、どんな環境でどんな風にして過ごしていたかと言う事、死んでしまった為に戻る事が出来ないという事、女神様に会いこちらの世界に転生させてもらった事など、包み隠さず話した。

 アルクさんもレンくんもメアリさんも、私の話に時折質問を交えながら興味深そうに聞いてくれた。やはりこちらの世界とは色々と違う部分が多いみたいだ。


「帰るところが無いと言ったね」

「あ、はい。そうなんです」

「では此処で暮らすのはどうだろう?」

「はぁ……ん? え、いや……でも」

「他に行く当てがあるなら仕方ないが、そうでないなら遠慮する事はない。どうせ部屋は余っているし、えみが異界からの迷い人だと分かった以上、保護する義務が私にはあるからね」


 なんと、アルクさんはこの国の城に勤める騎士様だと言うではありませんか。レンくんもアルクさんの下で訓練を受ける見習い騎士なのだと。

 今は長期の休暇中で実家に帰省しており、アルクさんが戦争孤児だったレンくんの身元引受人だった為に、一緒に帰って来ているのだそうだ。

 イケメンは仕事までイケメンだった。

 勝手に二人の騎士の姿を妄想して、また一人静かに悶えるのであった。


 


 結局押し切られるような形でお世話になる事が決まり、当分の衣食住のうち『衣』と『住』は確保する事が出来た。

 私の特殊さからラッキーが重なっての事だ。保護対象である以上ある程度の制限は今後出てくるかもしれないが、それでも此処にいる間は自由に過ごして良いからと言って貰えた。

 レンくんには警戒されていそうだけど、アルクさんもメアリも良い人そうで安心している。

 のだけれど、最大の問題点は『食』だった。

 よりによって食!! 私が生きていく上で最も大切にしているものだ。


 コンコン


 部屋の扉がノックされ、メアリがやって来た。


「昼食の時間よ」


 来た……。

 ワゴンに乗せられたクロッシュが何故かキラリと光って見えた。

 テーブルについた私の前に置かれたのは、このお屋敷に来て最初に食べたお粥の様な食事。てっきり病人食だと思ったらどっこい、まさかの主食でした。

 朝昼晩と全てにおいて漏れなく登場し、しかも美味しくない……。

 作ってもらってるクセになんだけど。タダ飯食わせてもらってるクセになんなんだけど。

 食べられるのだが、まぁ味が無い。何をどう作ればこうなるのか教えて欲しいくらい。その他にメインやサラダが出てくるのだが、どれもこれも美味しくない。食べられるんだよ? でも美味しくないの!!

 流石に耐えきれなくなった私は、アルクさんに直接訴えた。


「あの、今晩の夕食を私に作らせて貰えませんか?」


 唐突な訴えに、アルクさんは最初困った顔をしていた。

 しかし、私のいた国のご飯が美味しいという事と料理が得意という事、お世話になっているお礼も込めて故郷の味をご馳走したいのだと力説すると、素敵な笑顔と共に了承してくれた。

 美味しいご飯が食べられると思った途端に心がウキウキする。危うく心からのガッツポーズが出るとこだった。そして直様何を食べようかとあれこれ考える。

 その様子が面白かった模様で、アルクさんに「今までの顔が嘘みたいに楽しそうだ」と笑われてしまった。

 アルクさん曰く、私は表情に全て出ているらしく、百面相は見ていて飽きないのだそう。

 いい歳して食べ物で一喜一憂している自分……と悲しくなったけれど、譲れない部分なので仕方ない。

 私の中で最重要案件だった為に、早々に気持ちを切り替え、早速メアリにキッチンへ連れて行って貰った。

 アルクさんは休暇中とはいえ領地の仕事があるらしく、私の夕食を楽しみにしているからと笑顔で送り出してくれる。

 未だにあの殺人級の笑顔には慣れていない。




 メアリが私のお世話係をしてくれている事もあって、ここ数日で大分仲良くなった。歳が近い事も分かって、それからは「メアリ」「えみ」と呼び合う仲になった。

 美人で目力がある彼女は、最初こそ話しかけるのに気後れしていたが、いざ打ち解けてみると気さくで明るく物怖じしない性格のようだ。私みたいな身元もハッキリしない、一歩間違えれば不審者のような人間にも、他の人同様分け隔てなく接してくれている。

 そんな彼女と一緒に厨房へ向かうと、中で待っていたのはふくよかで朗らかな笑顔の女性と、三人のシェフらしき男性達だ。

 メアリが彼らの紹介をしてくれる。


「こちらはメイド頭のハンナ様」

「ハンナです。アルク様から貴女を手伝うように言われて待っていたのよ」

「えみです。どうぞ宜しくお願いします」


 差し出された右手を握り握手を交わす。


「こちらが料理長のライルさん。隣がホーンさんと見習いのルファーよ」

「宜しく、えみさん」

「「宜しく」」

「えみと呼んでください。お世話になります」


 他所モンなんかに厨房は使わせない!

 とか言われたらどうしようとドキドキしていたけれど、皆さん案外すんなり受け入れてくれてホッと胸を撫で下ろした。

 此処のお屋敷の人達は、随分と部外者に対して理解のある人達なんだなと感心する。それだけこの世界が平和だという事なのだろうか。

 自己紹介が済んだところで、今夜使う筈だった食材を見せて貰う。

 メニューはいつものお粥もどきと野菜スープ。メインは肉を焼いて香草を散らすと言っていたので、いわば『ソテー』の様なものだと理解した。


 お粥もどきに使われていたのは、本当にお米みたいな穀物だ。私の知っているお米よりも大粒だが、見た目はそっくりだ。

 これは『リゾット』にしようと思っていた。お粥もどきが主食なら、似たような調理法の方が食べてもらいやすいと考えたのだ。

 野菜スープは味付けを変えれば良いとして、問題はメインの肉料理だ。

 生肉の塊は、見ただけでは何の肉でどの部位なのかなんてさっぱりわからない。豚なのか牛なのか、はたまた全く違う生き物なのか……。

 鳥で無い事は確かだ。

 わからないなら味見しかない。

 ナイフを借りて少量を切り取り、火を通して食べてみた。 

 臭みは無く、何と無く豚肉に近いように感じる。が、筋があり焼くと硬くなって食べにくいだろうと思った。

 それならと思いついた調理をするべく、私は次に器具の場所を聞いて歩き回るのだった。

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