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2話——大層なイケメンに拾われました。

 カッカッ カー… カッカッ


 全く聞き慣れない音が耳について目を覚ました。

 光が差し込むカーテンの隙間から、カッカッと言う音と共に小さな黒い影がチラチラしている。そこで初めて鳥の鳴き声だったのかと分かった。


 「(ん? コケコッコー的な事!?)」


 初めて聞いたけどと思いながら身体を起こすと、目の前の見慣れない部屋の様相に、眠気を引きずっていた頭が一気に覚醒した。


「何ここ……何処……?」


 血の気が引くと言う現象を初めて体験した。背筋が一気に冷えていく。

 何が起こったかと必死に考えたが、眠る前の事が良く思い出せない。思考がぐるぐると巡っていて、答えが全く出てこないのだ。

 今寝ていたふかふかの大きなベッドも、この広い部屋も、設置された家具も、いつもの見慣れたものでは無い。何ならすっごく高そうだし。

 どう見ても自分の部屋ではないし、今までに訪れた事のあるどの部屋でもなさそうだ。

 一瞬ホテルか? とも思ったが、旅行に出た覚えは無いし二人きりで行くような相手なんていた事も無い。もっと言えば、異性と知り合えるイベントに参加した事もなく、19年間異性のいの字も知らんで生きてきた。その事実に改めて気付かされ、自嘲し無駄に凹んだ。

 とにかく状況を整理しようと、ベッドから降りると近くの窓へと移動する。

 自分の背丈よりも長いカーテンを開き、押して開ける窓を押し開く——


「……いやここ何処よ……」


 バルコニーへ出ると手すりへ手をかける。ふんわりと頬を掠める風に目を細め、改めて眼下を見下ろす。

 すぐ下には色とりどりの花が咲く庭が広がり、敷地の奥へ視線を上げると森が、その向こうには海なのか湖なのか……キラキラと光る水面が見える。

 どこぞの高級避暑地のような景色に、私は自分の置かれている状況をしばし忘れて見入っていた。




「この景観は私も好きなんだ」 


 背後で突然声が聞こえ、ハッと振り返った。

 バルコニーと部屋を仕切る境目に、若い男性が立っている。その後ろにもう一人男性とメイド姿の女性もいる。

 メイドさんは相変わらず姿勢良く立っていて、隣にいるのは私が寝相の悪い奴だと勘違いしたままかもしれないあの青年だ。

 こちらに向かって歩いてくるのは、心地良い声の主。初めて見た青灰色の瞳が真っ直ぐ私を見つめている。


「ここは私の両親が治めている領地で、アルカン領と言う。あそこに見える湖はテスプリ湖と言って…——」


 隣に立つと手すりに手を置き、景色へ視線を移しながら話してくれている。そんな彼の横顔をじっと見つめた。


「(何この人。モデル!? 俳優!? すっごいイケメン……)」


「風の精霊が棲んでいると信じられているんだ」

「…………」


 話し終えた彼と再び視線が交わる。横顔に見惚れてたせいで全然聞いていなかった事を後悔した。

 イケメンと間近で対峙した緊張と、少しの警戒で顔を強張らせていると、彼がフッと表情を緩める。


 「(やべぇ……イケメン……)」


 気を抜くと魂持っていかれるレベルでイケメン。しっかりしなければ。


「身体の方は、もう大丈夫かな?」

「へ? は、はい!」


 何だかほっとするその声に、口が半開きになっている事にも気付かずコクコクと頷く。

 彼は「良かった」と笑みを深くし、部屋の中へ戻ろうと促してくる。それに従って中へと戻った。



 室内には小さなテーブルと椅子が用意されており、近くにはワゴンが横付けされている。テーブルにはクロスが敷かれ一人分のカトラリーが準備されていた。

 彼が引いてくれた椅子に座ると、メイドさんが私の前に平皿を置いてくれる。盛り付けてあったのは、クリーム色のお粥らしき料理だ。


「まずは冷めないうちに食べるといい。君の話はその後聞かせてもらうとしよう」


 先にこの状況を知りたいと思ったのに、平皿に視線を移した途端にきゅるきゅるとお腹が鳴ってしまった。クスクスと咲われ、「どうぞ」と言ってもらったので大人しく頂く事にした。

 何が地獄って、正面には椅子に座りこちらへ微笑みを向けている超絶イケメンの彼が、その少し後ろに控えるように立つ昨夜の彼が、そして私の隣に給仕で立つメイドさんがずっとこっちを見ている事。

 食べてるところをじっと見られるって、すっごい緊張するし恥ずかしいって事を知らないらしい。

 一番恥ずかしいのは、そんな状況なのにも関わらずあっという間に食べ終わってしまった私の食い意地。……空腹には勝てませんでした。



 そして過去一緊張した食事を終え、メイドさんがお茶を淹れてくれたところで、正面の彼が自己紹介してくれた。


「私はアルク・ローヴェン・アルカン。ここ、アルカン家の一族の者だ。アルクと呼んでくれてかまわない」

「俺はレン。レン・オークス・トワイス。アルクさんの元で勉強させてもらっている」

「私はメアリと申します。このお屋敷でお仕えしておりますので、ご用の際は何なりとお申し付けください」


 三人の名前を聞いてはっとした。

 そう。あの美しすぎる自称女神様との会話を唐突に思い出したのだ。

 アルクさんもレンくんも名前の通り日本人では無い。見た目もアルクさんは栗色の短髪に青灰色の瞳、鼻も高く日本人とは違う顔立ちだ。

 レンくんは更に短い銀髪にエメラルドグリーンの瞳をしていて、アルクさんよりも色素が薄い印象だ。そしてアルクさんとはまた少し違うタイプのイケメン。アルクさんは爽やかなイケメンだが、レンくんは勝手なイメージで体育会系っぽい。

 メアリさんはオレンジがかった長いブロンドをツインテールで結び、薄紫色の瞳をしている。やっぱり私の周りにはいなかった目鼻立ちをしている。

 ここは地球ですらない。異世界なのだ。


 「(そうだ……私は一度死んで、こちらの世界に転生したんだった)」


 名前を聞いて黙り込んでしまった私を心配したのか、アルクさんが顔を覗きこんでくる。レンくんはその場を動かずこちらを伺っているようだ。


「大丈夫?」

「あ…はい、すいません」


 姿勢を正して二人へ向き直る。


「私は仲里えみです。助けて頂き、本当にありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をして顔を上げると、頭に?が浮かんだ二人が目に入った。

 慌てて名前はえみだと言い直すと、可愛い名前だとふんわり笑う。

 国民的アイドル並みの微笑に殺傷能力抜群だと独り悶える。……今のところ殺せるのは私だけだろうが。


「えみは一体何処から来たんだ? 何だか私達とは違う力を感じるね。……それに」


 そう言葉を切ると、テーブルの上に両肘をつくようにこちらへ身を乗り出してくる。瞳をまじまじと覗き込まれ、その上髪の毛の毛先へ触れてきたのだ。

 人生において一度も経験したことのない出来事に、びっくりしすぎた心臓が盛大に暴れている。


「黒髪と黒い瞳……この組み合わせは初めて見たな」


 綺麗な髪だなと一房手に取られてしまった。

 確かにサラサラのセミロングはちょっと自慢だけど。そんな風にストレートに褒められると顔を上げられないのですが……


「ああああの、頭洗ってないので……汚いですから……」

「(イケメンの手が汚れますから!!)」


「これは失礼。……あまりにも美しかったもので、ついね」


 神々しい笑顔と仕草にやられて俯いたまま顔を真っ赤にしていると、ワゴンを下げに行って戻ってきたメアリに熱が上がったのではと勘違いされ大層心配されてしまい、大変心苦しい思いをしたのでした。

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